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異世界殺し  作者: Tetsuさん
争乱の光
665/831

664:記録に無い戦い

「お前達は近隣の住宅から1つずつ制圧し、確保地域を広げろ。」


「はっ、承知しました。

……しかし、フジーラ様はどうされるつもりですか?」


俺は背嚢とベルトのポーチに弾丸を持てるだけ持つと、更に空いている所に連中が作っていた手製爆弾を複数詰め込む。

ここはこの村の集会所として使われていたところなのだろう。

人が住んでいる様子はなかったが、いくつかの物資が隠されていた。

この手製爆弾もそのうちの1つだ。

他にも弓と矢、刀等の刃物もいくつか発見できている。

ある意味で、側近達がここを押さえられたのは非常に運が良い。

ここの住民から継続的な攻撃が来ないのも、手持ちの武器が少ない事が原因なのだろう。

いや、或いは組織立って動く訓練をしていないからか。


「俺は単独でこの村を侵攻する。

ある意味で、“自分以外に動く物は全て敵”っていうのは、やりやすかったりするもんだ。」


半分は本音で、半分は嘘だ。

これから、俺は狂戦士か鬼か、はたまた修羅になろうとしてるのだ。

味方への(・・・・)誤射(・・)は、流石に避けたい。


「いいか、全員よく聞け。

この村にいる存在は全て敵と認識せよ。

老若男女関係ない。

赤子であっても容赦はするな。

それは今(・・・・)お前に(・・・)銃口を(・・・)向けていないだけ(・・・・・・・・)だ。

いつか成人すれば、ここでの事を知れば、ソイツは必ずお前達に、或いはお前達の子供に敵意を抱く。

今ここで、完全に根絶やしにせねばならん。」


俺の言葉を聞いて、部下達は青い顔をする。

味方が半分近くやられ、自分達も死線に立っていると知っていても、やはり抵抗感は残る。

中には同じ様に年端もいかない子供を残して戦地に来た者もいるだろう。

我が子と同じくらいかそれよりも幼い子供ですら撃ち殺せと命令されたのだ。

そのストレスは理解できる。

俺は側近を呼び寄せると、小声で耳打ちする。


「最悪、出来ないと言う者には無理にやらせなくていい。

その代わり、もし万が一そうなった場合、殺せなかった敵兵は一箇所に集めておけ。」


俺の指示の意味を、側近は深い所で理解すると、静かに頷く。


「……承知しました。

しかし、1つ質問が。」


大体俺の言う事を従順に聞く側近にしては珍しく、質問があるようだ。

集会所にあった刀の中で、一番長持ちしそうな刀を見繕いながら、俺は質問を許可する。


「……それでは、フジーラ殿は、どなたが救ってくれるのですか?」


手が止まる。

側近の見慣れた顔を、つい見てしまう。

こんな戦況でなければ、強がりの一つも言えただろう。

前々から感じてはいた。

俺は、もう元の俺から変質してしまっているのではないか。

仮に全てを終えて元の世界に戻った時、この手で妻を、そして将来生まれてくるかもしれない子供を抱きかかえる事は出来るのだろうか、と。

この手は血に塗れすぎている。

例えそれが異世界だろうと、他ならぬ俺自身が“ここではちゃんと全ての人が生きている、俺がいた世界とは異なるだけの、ちゃんとした1つの世界ではないか”と常々感じている事だからだ。


「さぁね、知るもんかよ。

俺の事を赦そうとする神とやらがいるとしたら、そいつの事は何発かぶっ飛ばさなきゃならねぇだろうがな。」


それだけ言うのが精一杯だ。

俺にとって、異世界はどれも地獄だ。

今もまた、俺に人でなしの選択肢を迫ってきやがる。

俺がもう少し若ければ、何も考えず無邪気に神から貰った不正能力(チート)を振りかざして全ての人々を救済でも出来たのだろうか。


「……へっ、まるで神様だな。」


俺には無理だ。

そんなくだらないモノになる事は出来ない。

“何か?”とこちらに問うてきた側近を押しやり、建物から外に出る。


「さて、俺の部下をやった対価を払ってもらおうか。

ワンマンアーミーの出撃だ。」


足音を抑えながら中腰で駆け抜ける。

走りながら石を拾い、最初に目についた小屋の窓に投げつける。

ガラスが割れたそこに、今度はピンを抜いた爆発物を投げ入れる。


ピンを抜いてから2秒くらいか。

やはり手製の粗悪品ではあるようだ。

爆弾は5秒と待たずに炸裂し、中から悲鳴が聞こえる。

窓から素早く覗き込み、もがいている何かに1発。

すぐに沈黙したのを見つつ、弾丸を再装填。

他に動いている物体が無い事を確認し、次へ。

数歩走り出したところで、目の前に矢が突き立つ。

矢が放たれた方向を見ると、すぐに伏せる人影。

またピンを抜いて爆発物を投げ入れると、目の前に落ちたのかそれを投げ返そうと立ち上がる姿が見える。


「そりゃ駄目だ。」


すぐに照準を合わせて頭を吹き飛ばし、再装填。

ここで戦力が俺一人と把握したのか、同じ建物の1階から3人の男が飛び出してくる。


「教祖様、バンザァァァイ!!」


「うるせぇよ。」


1番手前の男の頭を銃弾で吹き飛ばす。

次の瞬間ライフルから手を離し、腰に履いていた刀に手を伸ばして抜刀。

即座にもう一人の男の首を刎ねる。

最後に残った男が鎌を手に肉薄してくる。

刀を水平に触ったその反動に身を任せ、体を一回転。

左足を中心に回転しつつ、右回し蹴りで最後の一人の顔面におもいきり蹴りをいれる。

そうして顔を押さえてよろける男の喉元に、刀を突き立てる。


刀を抜くと、血を払い納刀する。

またライフルを拾い上げ、弾丸を装填。

そして男達が出てきた建物の入口に近付くと、ピンを抜いて爆発物を中へ。

投げ入れる時に、赤子を抱いた女性と目が合う。


「何で!何でこんな事をぉぉぉ!!」


その絶叫が、彼女達の最後の言葉となった。


戦果(・・)を確認すると、次の建物に。

扉からチラと中を覗き込むと、疲れた表情の老人が安楽椅子に座って静かに揺れている。


「……のぅ、騎士さんや、この老人の命で、もう終わりにしてもらえませんか?」


俺は無言でライフルを老人から近くの壁にかかっているタペストリーに移し、発砲する。

次の怪しい所に発砲すると、床下の一部が跳ね上がり、中から屈強そうな男が飛び出してくる。

ただ、それも予想済みだったのですぐに刀を抜くと目から後頭部に突き抜けるように突き刺し、動きを止める。


「……残念だったな、その手は食わんよ。」


ライフルをもう一度拾い上げ、ゆっくりと弾丸を装填すると老人に狙いを定める。


「……クソッタレのオーダ軍めっ!ここで儂等を殺しても、儂等の神が許さんじゃろうて!!」


俺は引き金を引き、老人の頭が吹き飛ぶ。


「神とやらに会ったら言っといてくれ。

今度ぶっ飛ばしに行くとな。」


戦闘記録に残せない戦いが、ようやく終わった事を俺は感じていた。

ちょっと遅れましたが、再開いたします。

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