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異世界殺し  作者: Tetsuさん
争乱の光
664/832

663:戦場の空白地帯

突然前を歩いている部下が俺にものすごい勢いでぶつかってくる。

衝撃、回る風景、そして誰かに平たい鉄板で頭を強く叩かれた様な打撃。

混乱する頭の中で、“目の前のこいつ、突然俺に背中から体当りしやがったな、それに後ろの奴は誰だ?兜がなかったら死んでるじゃねぇか”と、疑い、そして体が頭の方に覆いかぶさるように落ちてきた事で、ようやく自分が何かの力で吹き飛ばされたのだと理解する。

平たい鉄板ではなくて、それは地面だったからだ。

“何だってこんな笑えない冗談みたいな事を?”とぼんやりした頭で考える。


いや、部下も体当たりじゃなくて、吹き飛ばされたのか。

吹き飛ばされた?誰に?

さっきまで話していた男と子供は?


徐々に思考がはっきりしてくる。

そうだ、先程先頭を歩いている部下が、何かを近寄ってきた子供から受け取ろうとしたのだ。

あれはつまり……。


「全員!戦闘隊形!!

動ける奴はすぐに構えろ!救出は後だ!!」


慌てて膝立ちになり、握っていたライフルを構えると、家の陰からナタを持った男が飛び出してくる所だった。


魔力のこもった火薬が破裂する音と共に、飛び出てきた男が仰向けにのけぞり倒れる。

すぐにボルトを引き、空薬莢を排出するとポケットの中の弾丸を装填。

ボルトを押し込んで構えると弓を引いている女の頭に撃ち放つ。


「ここには敵が潜伏している!!

顔を出す奴は全員撃て!!」


再装填しながら、俺は立ち上がると駆け出す。

最初に撃った男に駆け寄るとナタを取り上げ、近くの家の扉を蹴り飛ばす。


「ヒィィィ!!」


銃口を向けると、老婆と子供を抱きしめ、怯えた表情でこちらを見る。


「お前等は関係者か!?

この村はどう……!?」


“まさか、そんな”


その思いが、俺から一瞬だけ判断を鈍らせた。

老婆が抱きしめていた子供が手に持つ物、旧式の巻き上げ式手弓、いわゆるクロスボウだ。

その矢の先端は、俺を向いていた。


「クソがっ!!」


強引に上体を反らしつつ、ライフルのトリガーを引く。

俺の左肩にクロスボウの短い矢が突き刺さるのと、老婆の頭が吹き飛ぶのは一緒だった。


「お婆ちゃん!!」


小さな男の子は、クロスボウを投げ捨てると頭を失った老婆に縋り付くようにして泣く。


俺はライフルから手を離すと、左手に持っていたナタを右手に持ち替える。


「よくも、よくもお婆ちゃんを!!」


燃えるような怒りの瞳で、男の子は俺を睨みつける。


「ぼうず、最期に教えておく。

戦場で武器を手に取ったら、或いはそいつを味方するように動いたなら、それはすべからく戦闘行為に参加するという事だ。

そこに年齢や性別は関係ない。

それが嫌なら、抵抗しなければ良かったな。

そうすれば、生き残れる可能性はあった。」


「き、教祖様!バンザ……。」


男の子は懐から黒い筒のような物を取り出し、それについている紐を引こうとした。


俺は音もなく距離を詰めると、それを引こうとする右腕を、そして首に向けてナタを振るう。


爆発は起こらない。

それは引かれる事なく床に落ちたからだ。


「……やれやれ、クソがよっ……!!」


なるほど、イカれてやがる。

兵士だけでなく農民を、男だけでなく女子供を、武器にしやがったのか。


俺はナタを捨てると、落としたライフルと、そして紐が引かれなかった黒い筒を拾う。


家を出て、痛む左肩を庇いつつ紐を引くと隣の民家の窓に投げ入れる。


「……3、4、5と。」


民家の中でガタガタと言う動き回る音が聞こえていたが、5秒数えた所で先程の筒が爆発し、轟音と衝撃を伝えてくれる。

なるほど、元の世界の手榴弾と同じ様な構造なのだろう。

あの紐を引くと内部で引火して、数秒後に爆発するようになっているのだろう。

まぁ手製の爆弾だからな、今は5秒で爆発したが、あまりこのタイムラグは信用しきれないほうが良いだろう。


検証をしていると、アチコチで同様の破裂音が聞こえた。


「いかん!もしかしたら!?」


慌てて部下のもとに駆け出す。


「邪魔だ!退け!!」


途中で飛び出してきた農民の頭を撃ち抜き、振り上げていた鎌を奪うとそのまま隣の農民の頭にくる振り下ろす。


「フジーラ殿!こちらです!!」


また弾丸を再装填しながら走り出すと、1つの民家の扉が開き側近がこちらに向かって叫ぶ。

俺は急いでその民家に転がりながら滑り込む。


「おぉ、フジーラ殿、ご無事で……ではないようですね。

すぐに手当させます!!」


側近はすぐに俺の傷を見ると、衛生兵を呼び出す。

衛生兵はすぐに俺の手当をしてくれるが、それを受けながら俺は自体を把握しようと側近に声を掛ける。


「フジーラ殿、最初の爆発で9小隊はほぼ壊滅しました。

そこから部隊を展開、散発的な攻撃をされましたが、ですが……。」


「なんだ?はっきり言え。」


側近は言いづらそうに口ごもる。

大体の想像はつく。

俺は先程自分の身に起きた事を側近に説明すると、側近も“やはり”と言ったまま少しだけ考え込む。

だが、ある程度は意を決したようだ。

覚悟を決めたように、顔を上げる。


「この村の住民全てが、恐らくは敵性勢力と考えられます。

ただ、部隊の者の中にも“よく見る兵士以外に引き金を引くのをためらう”者が何人も出てきております。

現状、この民家に立てこもっている者達はそういった兵士達であり、一旦の防御陣地として確保していますが、先程のような兵……いえ、農民が出てきた場合、どのように対処するべきか……その……。」


それは側近自身にも当てはまる、と言う所なのだろう。


「……わかった。

一旦、全ての生き残りの兵士をここに集めろ。

ここを防御陣地とする。」


発煙筒が焚かれ、赤い煙が立ち上る。

この色は救援を求める、或いは集結せよ、という色だ。

しばらくすれば、残存部隊の全てが集結するだろう。

唯一の救いは、先程の爆発で辛うじて息があるもの、生きているが戦闘行為が出来ない者をここに集めていた事か。

つまり、“それ以外に味方も非戦闘員もいない”と言う事だ。




「……これだけか。」


再集結して残った兵士達を見渡せば、そこそこ広いとはいえ民家であると言うのに、部下達は全員集結出来てしまっている。

部隊はほぼ半減、戦略的見解で言えば全滅を超えて壊滅的と言う所か。




それがどうした。




この防御陣地の四方に土嚢でも瓦礫でも何でもいいから積み上げさせ、防御要員を配置する。

幸い、その作業中に敵の攻撃は疎らであり、あの爆発物も投げ入れられては来なかった。

この辺、相手は組織立って作戦行動が出来ない事の裏返しだろう。


「拠点は作った。

ここを軸にして、今から修正した作戦の実行を行う。」


部下達の視線を浴びながら、俺は必死に思考を巡らせていた。

色々と遅れたりお休みが増えてる中で恐縮ですが、ちょっと夏のお休みを取らせていただきます。

次回は8/20の午前2時更新を予定しております。

よろしくお願いします。

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