662:攻略戦の始まり
「おぉ、フジーラ殿!久方ぶりじゃのぅ!!
フジーラ殿が増援の部隊であったか、これは心強い。」
数日かけてトゥルーウィッシュ教団と対峙しているオーダ軍の陣地にたどり着くと、懐かしの顔と出会う。
同じ部隊の筈なのだが、アチラはアチラで別働隊として動くことの多い、フォレスト鉄砲隊だ。
増援にたった100人ぽっちの鉄砲隊に心強いとは何の皮肉かとも思ったが、フジーラ鉄砲隊の名は随分と広まっているらしい。
側近の耳打ちに、“それは買い被り過ぎだろう”と不満を言うが、目の前のフォレスト将軍の顔を見ていると買い被りとは面と向かって言えなくなっていた。
満面の笑みで迎え入れられている所から見ても、その言葉に嘘は無さそうだ。
これはもう、それだけ期待されていると思うしかない、と覚悟を決める。
「フォレスト殿こそ、ご活躍は耳にしていますぞ。」
「ハッハッハ、それとて“フジーラ鉄砲隊が凄い”という評価になってしまうのですから、ちと淋しい限りですな!」
豪快に笑うその姿を見ていると、こちらまで毒気を抜かれる。
キャッスル・アヅチで補給をつつがなく終え、問題なく揃い出陣した俺達は、特に妨害や障害もなくオーダ軍に辿り着いていた。
既に陣を引かれているにしては随分と大荷物での移動だなと思っていたが、どうやら物資の補給も兼ねていたらしい。
部下達に荷下ろしを手伝うように指示すると、俺とフォレスト将軍でオーダの下に到着の旨を伝えに行く。
別に側近か誰かを使いにやっても良かったのだが、せっかくなのだからとフォレスト将軍に言われ、何となく顔見せも兼ねてオーダの下に向かう。
……しかし、フォレスト将軍も名目上は俺の部下の筈だが、ついついそのペースに乗せられてしまう。
こういう風に、いつの間にか相手の懐に入り込む所が、以前のような裏切り者の傘下にスパイとして潜り込むのに役に立つのかもしれない。
ふと、“もしかしたら俺の事も見張っているのか?”という疑問がチラと浮かぶ。
だが、それならもっと俺と共に行動するはずか。
こうして普段は別行動していて、たまの大作戦で一緒になるような状態で、まともな監視などできる訳もないか。
「お前等!遅いぞ!!
こちとらとっととアイツ等ぶっ殺したくてしょうがねぇのによぉ!!」
顔を見せて開口一番、オーダから随分と血の気の多い言葉をかけられる。
そのあまりにも歯に衣着せぬ物言いに、俺とフォレスト将軍は思わず顔を見合わせて呆れる。
周辺の将軍もピリピリしている空気が伝わる。
随分と軽率な物言いだ。
確かにトゥルーウィッシュ教団は武装集団であり、ここモンストーンは奴等の一大拠点だ。
とはいえ、構成員の殆どは崩壊した街の住民で、その中に貴族崩れが教祖や幹部としているのだ。
あまりに強烈な言葉は、下手な誤解も生みやすい。
「アイツ等マジホンマ天下統一を事あるごとに邪魔するわゲリラ戦仕掛けてくるわで、ここらでいっちょ派手にぶっ潰してやりたいと思ったからな。
フジーラが海路からの補給路潰して、ハシーバが陸路からの補給路潰したからな、絶好の機会って奴だからな!!
俺にはハシーバの奴みたいな退屈な戦いはする気ねぇからな!やるなら一気にぶち殺してやろうや!!」
アカン、頭に血が上りすぎてて、もう止まらんわこの人。
ありとあらゆる汚い言葉と殺意マシマシの言葉が次から次へと降り注いでくる。
ドンドン周囲の空気がヒエッヒエになっていく。
「えー、御屋形様、だいたい理解しましたんで、我々はどう進軍すれば良いッスかね?」
「お、おぉ、そうだな、細かい事は後で軍師から聞けばいいが、お前等の部隊はそれぞれ左右から進み、目につく奴を片っ端から撃て。
女子供でも容赦するな、アイツ等マジでイカれてるからな。
騎士なら粋だと言ってやりたい所だが、アレは流石に笑えねぇからな。
それじゃ頼むわ。」
言いたい事を中断されたからか、それとも冷静になったのか。
あれだけまくし立てていたのに、それだけ言うともう用はないと言わんばかりにこの付近の地図とにらめっこをするかの様に真剣な眼差しで見つつ考え事を始めてしまう。
まるで山の天気のようにコロコロと態度を変えるその姿に苦笑いをしつつ、その後の作戦を詰めていく。
概ねはオーダが語ったように俺の部隊は右翼側から、フォレストの部隊は左翼側から包むように進軍し、途中にある敵の要所を撃破しながら進む、と言うものだ。
その間、正面と背面を全軍で攻撃するという、全方位の電撃戦のような流れだ。
「フム、ではフジーラ殿、次は敵の本陣でお会いしましょうぞ。
……しかし、御屋形様が言われていた“敵もいかれている”という言葉が気になりますな。
お互い、無事である事を祈っておりますぞ。
では失礼!」
それだけいうと、フォレスト将軍は陣幕を出ていく。
俺もその言葉は引っかかっていた。
だが、作戦参謀もそれが何を意味するのかハッキリとは解っておらず、“殿が何かを見られたらしい”としか教えてはくれなかった。
そういう事こそ共有して欲しいのだが、あの調子では聞き出すのも難しいだろう。
俺は諦めて自分の部隊に戻り、作戦概要を部下達に話す。
部下も何かしら不思議な顔をしていたが、それでもよくわからない戦場はいつも体験しているからだろう。
すぐに突撃準備を始めていた。
「よし、時間だ。
全員、状況を開始する!」
俺の号令で、横一列に並んだ鉄砲隊が前進を始める。
遠方で、戦い合う声も響き始めた。
いよいよ始まったらしい。
「前方に村落発見!」
進軍している偵察部隊が、策に囲われた小さな村を発見したらしい。
目を凝らしてみれば、近くで戦争しているというのに、農作業をしている村民の姿も見える。
「やれやれ、一般市民もいるのかよ。
いつ彼等が盾に使われるかわからんからな。
警戒しながら進め。」
ため息混じりにそう伝えると、周囲を警戒しながら村を横断する。
村民は突如現れた俺達に驚き、農作業の手を止めて遠巻きに俺達の様子を伺っている。
(……何か、嫌だな。)
何と無く、脳裏によぎるものがあった。
アレは学生の頃に知った近代戦争史だったか。
ベトナムでアメリカが戦争をしていた時に体験したという……。
「おじちゃん、騎士様なの?
これあげる。」
少し前を進んでいる部下の一人に、村の子供が近寄ってきて、何かを渡そうとする。
「はは、おじちゃんは騎士じゃないんだけどね?
坊や、ここは危ないからお父さんとお母さんの所に行くと……。」
部下の言葉は、最後まで聞き取ることができなかった。
突然の轟音、閃光と衝撃。
それら全てが、俺達の部隊を包みこんでいた。




