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異世界殺し  作者: Tetsuさん
薔薇の光
66/832

65:場を荒らす

俺の言葉を受け、キンデリックは静かに立ち上がり、そして右手にスピアナイフを握り構える。

左足からは包帯の上からでも血が止まっていない事がわかる。

左腕は先程の脱出で肩から砕けており、力無く垂れ下がっている。

だが、その表情はどこか穏やかだ。


「なぁセーダイ、お前が勝ったら、1つ伝言を頼まれちゃくれねぇか?」


俺は頷き、その伝言を聞く。

何とも、オヤジらしい内容だった。


『もう、いいのか?』


「あぁ、もう言うことは無い。」


俺は右足を前に、左足をやや後ろに置き、重心を後ろに少しかけつつ腰を落とす。

左手を開き、手の平を下にし、手刀を相手側へ、指先を右へ。

右手も開き、肘を脇に付け、手の平を相手に向けつつ、力を抜いて右腰当たりまで下げる。


待機構え変形、完全なる受けの構え。

構えは受けだが、すり足で少しずつキンデリックに近付く。


「愉しい時間だった。」


『こちらこそ。』


キンデリックは、いつかのように優しく笑う。

次の瞬間には鬼の形相となり、かつて見たことの無い速さで突きを繰り出してきた。


右手を斜め上に跳ね上げ、キンデリックの突きの軌道を逸らす。

早く、重いその突きに、軌道を逸らしきれず仮面の左半分が割れ砕かれる。


すげぇよアンタ、転生者でもないのに、ここまで磨き上げたのかよ。

それでも、俺の心は揺らがない。

逸らすために跳ね上げた右手を胸元に引き、キンデリックが伸ばした右腕にそって手刀を走らせる。

燕が大空から大地に迫り、そしてまた大空へと返るように。


腕から肩口へ、そして喉元へ。


キンデリックの喉に深く刺さった手刀は、肉の中にある骨を折り砕く。


「見事……。」


折り砕くその瞬間、キンデリックの呟きが聞こえた様に感じた。


一撃で絶命させている。

声を発する暇も無いはずだ。

それでも、俺にはキンデリックの声が聞こえた気がした。


念のため即座にステップで下がり、中段構えをとる。


ゆっくりと前に沈む、キンデリックの姿が見えた。


白蓮びゃくれんの“燕返し”……俺の知る、最高のカウンター技だよ。

……しかし、最後まで前のめりとは、アンタらしいな。』


エネルギーが余りまくっているからだろうか、一瞬で仮面が元に戻る。

足を揃え、キンデリックに合掌礼をする。

恐るべき、そしてこの世界で最も敬意を払う相手だった。


地に倒れ伏したキンデリックの向こう、空が白み始める。


薄紫の空の下で、国からの、世界からの、はぐれ者同士の争いが終わり、この長い夜も終わりを迎えようとしていた。




礼を終えて振り返る。

ちょうど、リリィがサラ嬢を蘇生させられたようだ。

先程まで身じろぎせずに俺の戦いを見ていた若者達が、その朗報に喜び沸き立つ。


喜び合う若者達を遠目に見、そして手を見る。


随分長いこと、この世界には世話になった。

だが俺を飲み込もうとしたことは許せん。

しっかりお返しさせて貰うか。


『お嬢さん、お加減如何かな?』


何が起きてるか、まだ飲み込めていないサラ嬢が、キョトンとこちらを見上げる。


「あ、あぁ、勢大さん、私は……?死んだはずでは……?」


西さいちゃん!!」


リリィが涙を流しながら、サラ嬢に抱きつく。

サラ嬢は“えっ?え?何故その名前を?”と、今だ混乱している。


『転生前は新子あらこさん、だったか。

良かったな、サラさんや、また逢えたぞ。』


サラ嬢の表情が、混乱から驚きへと変わる。

抱きつき泣きじゃくるリリィを、驚きの表情で見つめていた。


『さて、感動のご対面に水を差して悪いが、最後の仕上げをしたい。

ゲームのシナリオでは、帝国が公爵領を攻めるのは今から何日後だ?』


サラ嬢はまた混乱しながらも、事件解決から4日後の事だと教えてくれた。

ついでに言えば、帝国から公爵領までは、進軍するとすれば3日位はかかるはずだ、と、経済宰相の息子のアークが教えてくれた。

流石経済宰相の家、進軍速度と糧食の関係などは幼少期から教育をうけるらしい。

なるほど、先のキンデリックの伝言といい、今日行かないと行けないようだ。


「リリィの御父上、先程“帝国の公爵領への進軍”と伺いました。

ならばそれは王国の一大事。我等も加勢させて下さい。」


ジョン王子が迫る。

その美貌で迫られれば、大抵の女性はイチコロだろう。

だが残念、俺はおっさんだ。


『あ~、まぁなんだ、シリアスなのはもうお腹いっぱいでね。

ちょっとオジサン荒らしてくるだけだから、全裸待機でROMってて貰っていい?』


何を言っているかわからない、と言う表情でジョン王子が俺を見る。

まぁそりゃそうだ、解ったら怖いわな、逆に。


『それになんだ、まだサラ嬢の聖魔法でこの結界を壊せてないんだ。それを壊すまで、しっかり俺の娘達の護衛をしてくれ。

頼んだぞ。』


まだ納得しかねる様子のジョン王子にそれだけ告げると、俺は帝国方面へ疾走する。

エネルギー使いたい放題の走りだ、気が楽で良い。

何ならちょっと上体をピタリとブラさず、足だけで走る方法も発見した。

今の状態なら十傑衆にも入れるかも知れない。


マキーナからのアラートを頼りに、地面を蹴って大きく飛び上がる。

空気を押し、更に雲の高さまで飛び上がる。


もう少し先で帝国だなぁ、と思っていると、マキーナからの通信が入る。


<貴方の記憶の中から、現状に相応しい言葉を。>


ん?何かマキーナが言い出したな。

視覚に映るモニターに、帝国の宮殿前広場に大量の兵が整列しているのが拡大されて表示されている。

帝国の皇帝だろうか?宮殿のバルコニーの様なところで、兵に向かい何か熱弁を振るっている。

良いねえ、良いタイミングだ。


<セーダイ、貴方は、何処に、落ちたい?>


こりゃあいい。

レイ・ブラッドベリか、サイボーグの方か。

いや俺の記憶なら、ゴーストをスイーパーするボディコンなお姉ぇちゃんの漫画の方かな?

何にせよマキーナも、中々ジョークが解るようになってきたってモンだ。


『目標!宮殿前広場!但し人間は避けろ!』


モニターに表示される通りに空気を押し、位置を修正する。

下降コースに入ると、少しテンションが上がってきた。


『弾着ぁ~~~~く!!今!!!』


轟音と土煙を撒き散らし、大きなクレーターを宮殿前広場に作りながら着地する。


皇帝から一般兵士まで、全員何が起きたか解らずに戸惑っている空気だ。


腕を一振りし、土煙を吹き払う。

ちょうど広場の角に着地出来ていた。

周辺の“人への”被害無し。

よしよし、中々良い出来だ。

兵士達の動きは早く、すぐに俺を取り囲むように周囲を囲まれる。

だが、ソレを無視して、宮殿のバルコニーを凝視する。


われはキンデリックの使いなり!

今代の統将、ベンディゲイトがいるなら聞け!

キンデリックの最期の言葉を伝える!!』


王の隣にいた若そうな青年が、バルコニーのふちまで駆け寄る。

あぁ、アイツが今代のヤツか。

帝国の“魔統将ベンディゲイト”は、襲名制らしい。

だから同じ名前で、先代と今代が同時にいるときもあるらしい。


『聞け!

われキンデリックは、先代統合将軍ベンディゲイトとの義理により、今代将軍ベンディゲイトの命を受領す!

しかして我等キンデリック組は、家族の契りを交わせし者共なり!

その家族を殺させし今代将軍ベンディゲイトの不義理に対し、われキンデリックは、今代将軍に贈り物をす!”』


周囲は静まりかえっている。

バルコニーのふちで、青年が青ざめながらも怒りに震えている。


『“われキンデリックが贈りしモノは、嵐なり!

ここにいるキンデリック組最後の男が起こす嵐、とくとご笑覧あれ!!”

……以上だ!!』


全く、飯は確かに旨かったが、老若男女そろいも揃って美形だらけで見飽きてきた。

そんなイケメンでもないオッサンにとって、美形だらけの乙女ゲームなんざクソくらえだ。

空気を読まないオッサンが、何もかもメチャクチャにして、ぶっ壊してやる。

どうだ今代将軍?お前が招いた事態だぞ。

ねぇ今どんな気持ち?どんな気持ち?


俺の体から電撃がほとばしる。

さぁ、泣きわめいて貰うぜ。

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