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異世界殺し  作者: Tetsuさん
争乱の光
649/831

648:移動中にて

「諸君、楽しい楽しい遠足の始まりだ!!

今から半日後、明日の日の出と共にヤマトの国方面に向けて出発する!!

今のうちに移動の準備をし、残りの時間を休息に充てろ!!

今回はなんと、ちゃんとした各種食料の配給有りだ!!」


兵士達から、少しだけ明るいどよめきが起きる。

それも無理はない。

この世界、基本的に食料の配布が殆ど無い。

いや、あるにはあるが、人間から機械化した兵士まで一律で対応する必要があるため、消化吸収が良く、成人が1日に必要な栄養素が全て入っていて、腹持ちも恐ろしく良くて1日空腹感を感じずに済むという、握り飯の形をした栄養食品が必要日数分配られるだけだ。


これが恐ろしく不味い。

いや、不味いと言うか、味がしないのだ。

ただ、生きるためには当然食わなければならないため、皆仕方無しに無味無臭のこれを食う。

現場の兵士からの評判は、良いはずもなかった。

だからなのか、兵士はそれぞれ“せめて味をつけて食おう”と、あれこれと調味料を持ち込む。

荷造りのわら紐に味噌を煮込んで染み込ませて乾燥させたものや、かんぴょうのようなモノを干して紐として結ってくるヤツなど、割とバリエーション豊富だ。

そういった食材代わりの紐を少しずつ切り取り、鉄兜を鍋代わりにして栄養食品と一緒に煮込んで食べるのだ。

戦場では、それら調味料代わりの食材が金よりも重要な価値を持つほどで、皆多少余分に持ち込み、通貨代わりに弾薬や嗜好品と交換していたりする。

当然、オーダ軍だけでなくどこの軍でも禁止されている行為ではあるが、食事は兵士の士気に直結するため、前線では目こぼしされている。


ただ、長期戦になるとそれもすぐに底をつく。

やはり長期戦での食事は貧しいものになりがちで、それが兵士の心身を削っていく。

しかし、将校は別だ。

俺の立場、百人将位になると先程の栄養食品とは別にいわゆる一般的な食材も運び込まれる。

将校待遇というやつなのだろうが、食の恨みというやつは恐ろしい事を知っている俺は、あまりそれに手を付けていなかった。

そして、これからの移動に向けて日持ちしない食材、しかも俺用の荷物など邪魔になるだけだ。

ならばここで一気に開放して、全員に分配してしまった方が良い。

百人鉄砲隊ではあるが、既にその数を減らしていて、今や60人か、良くて70人程度の規模にしかなっていない。

苦楽を共にした部下を、先程のような理由であまり失いたくはない。


そうして食料の再分配を終え、程々に賑やかな食事が終わり夜が明ける。

移動の号令を発すると、少しは気持ちが上がったのか部隊の足取りも軽い。


そうしてそれから数日、移動しては食事し、移動しては休み、そろそろヤマトの国境らへんかと考えていた時、追加の伝令が現れる。

“最終的な目的地は追って連絡する”と言われていたが、まさかこういう形だったとは思わなかった。

そして、目的地と詳細を聞かされ、俺は顔をしかめていた。


「……今、なんと?」


「はっ、繰り返しになりますが、御屋形様からは“鉄砲隊はヤマトのシギサーンに向け前進、キャッスル・シギサーン背面に展開、裏切り者の撃破を手伝え”との事です。」


思わず頭を抱える。

キャッスル・シギサーンはマツーガ家が管理している城だ。

マツーガ家当主のヒサヒデ・マツーガとオーダは同盟こそ組んでいるが、その実あまり仲が良くないらしい。

というのも、マツーガ家は元々別の家に仕えていたのだが、その首家はオーダが潰してしまい、半ば強引に同盟を結んだ経緯がある。

有能であるなら身分を問わず、高い地位に重用するというオーダの実力主義の一環なのだろうが、そのせいで腹に一物持っている奴等が重要なポストにつくことも多い。

更に、一度身内扱いするとオーダは身内に甘くなる。

他にもこうしてオーダを裏切る他家はいくつも出ているが、その度にオーダは“詫びの印を持ってくれば許す”として、迎合すれば許し続けていた。


そしてこのマツーガ家は、一度裏切り許された家、なのである。


「2度目かぁ……。」


俺はため息を付く。

ただ、伝令によるとやっぱり一度は使者を出しているらしい。

多分また、“詫びの品持ってきたら許すよ?”と言うような内容なのだろう。


そしてマツーガ家は美術品の収集に目がない家だ。

多分秘蔵の大茶釜とか差し出せといって、拒否されて出兵、と言う事なのだろう。


「裏切り者の始末の為に部隊を展開と見るべきか、それとも茶釜ほしさに戦争し始めたと考えるべきか……。」


何となく、本心は後者なのではないか、と考えてしまう。

粋だ雅だと言ってはいるが、意外にそういうセコい所あるからなぁ、と遠くを見ながら考える。


茶釜1つで、一体何人の血が流されることになるのか……。

考えてはいけない事なのだろうが、どうしてもそれを考えてしまう。


「……全員に通達。

進路目標、ヤマトからキャッスル・シギサーンへ修正。

……茶釜に穴を開けに行くぞ。」


出発前の大盤振る舞いがあったからか、部隊員の士気は高い。

ただ俺一人、急速に士気が下がっていくのを感じていた。

本当に申し訳ない……

寝落ちには皆様もお気をつけを……

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