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異世界殺し  作者: Tetsuさん
争乱の光
645/831

644:怒り

「ワシがこの城をトクガー様より預からせて頂いておる、サダノブ・ミリオンダラーである。

……お主が、救援物資を届けてくれた増援の兵であるか。

誠に感謝する。」


天守閣まで登らされるのかと思っていたが、城の中腹辺りにある詰め所の様な所でその男と出会った。

疲労が見え隠れしてはいるが、静かな、そして精悍な表情の男が、軽装鎧をつけたまま参謀らしき面々と何かの打ち合わせをしているところだったらしい。

それを見た俺は、慌てて頭を下げる。

偉い人にあったら取りあえず頭を下げておく。

これもまぁ、会社員の習性みたいなもんだろう。


「は、はー!私めはオーダ軍所属、機甲砲撃隊十人将のヒデヨシ・フジーラと申します!!

たどり着いたのが私一人でありまして、誠に恐縮ではありますが、他の物資はまだ……。」


「よい、落ちているなら拾いに行けば良いだけの事。

それよりも、ここまで届けてくれた事に感謝する。

我等ももう限界が近かったのだ。」


俺の言葉を遮り、素直に礼をいう。

その話しぶりや状況の観察眼を見るに、ここを任されるだけあって優秀なのだろうな、とチラと思う。


「籠城の限界を悟り、スネーモンを送り出したのだが……!!

タケイダの奴等め……!!」


サダノブ氏は怒りを隠そうともせず、強く拳を握りしめる。

手甲の紐が、ギリリと音を立てているのが聞こえるほどだ。


「あの……、スネーモン……さん?ですか?」


サダノブ氏は俺の言葉にハッと我に返ると、静かに語ってくれた。


籠城戦が続き、疲弊がピークに近付こうとした所で、サダノブ氏は俺達オーダ軍に救援を求めようとしたらしい。

その時名乗りを上げたのがスネーモン・ドリーという名の若い兵士らしく、敵の包囲の隙をついて伝令として送り出したという。

数日経っても音沙汰はなく、次の伝令を出すかと話し合っている時に、城の正面が騒がしくなったという。

何かと思い見てみれば、送り出したスネーモンが血まみれになりながら縛られ、立たされている。


“失敗したか”と思い皆が落胆しかけた時に、彼がこう叫んだそうだ。


“伝令成功!救援は必ず来る!皆、後少しの辛抱だ!!”と。


どうやらタケイダ軍はそれとは真逆の情報、“救援は来ない”と言わせ、この城の人間の士気を落としたかったらしい。

それが失敗した事を理解すると、城の人間が見ている中、その場でスネーモンを拷問にかけたという。

そして最終的には、杭に吊るされて槍で滅多刺しにされたと言う事だ。


それから、この城にいるトクガー軍の目が据わる。

“徹底抗戦”の意志を示し、救援が必ず来ると信じて耐えていたらしい。


聞いていて、なるほど、と、俺の中で合点がいく。

この城の兵士達全て、異様な殺意があった。

追い詰められたネズミが猫を噛むように、狂戦士にでもなりかかっていたのかと思っていたがこれは違う。


怒りだ。

怒りの力だけで、ここまで耐え抜いていたのだ。

怒りのエネルギーは強い。

スネーモンが惨たらしく殺されてしまった事が、かえってこの城の兵士達の結束を固くさせ、抗戦の意志を強くしてしまったのだ。


とはいえ、食う物がなくなればそれも続かなくなる。

そういう意味では、ギリギリ間に合ったのかもしれない。


「よいか、フジーラとやら。

そなたは本隊に戻り、今から言う情報をオーダ様に伝えてくれ。

“タケイダの総大将、シンゲ・タケイダは既に死亡、敵部隊に統率の乱れ有り”だ。

後は受け取った物資にて兵士の腹は満たす。

我等戦意高揚、そちらの合図でいつでも反撃に出る、とな。」


これは驚いた。

だがそれと同時に、何となく察してしまう。

この城は言わばトクガーとタケイダの戦闘における最前線の基地みたいなもんだ。

そこを包囲して落とそうとするのは確かに正しいが、随分数が多いなと感じていた。

それもそのはず、自軍の重要情報を掴まれてしまったが故に、その情報が広まる前に是が非でもこの城を落としたかったのだろう。


「承知しました。

必ずや持ち帰ります。

……ただあの、盾を数枚お貸しいただけますでしょうか……。」


流石にあの矢の雨の中を、何も持たずスキップしながらは帰れない。

行きと同じか、それ以上の地獄が待っているだろうと考えていた。


「お、おぅ、そうであったな。

案内させよう、好きなのを何枚でも持っていけ。

名声よりも実利を取る判断が出来るとは、随分と珍しい若者だ。

いや、そうでなければこうして生きて物資を運んでは来れぬか。」


どうなってるのこの世界?

一瞬ツッコミかけたが、相手は城主様だ。

俺は苦笑いすると、案内役の兵士に連れられて武器庫へ向かう。


向かう道中、後ろからまた声をかけられる。


「貴殿の鉢金につけている“すまぁとれこうだぁ”の動画、その内“あっぷろぅど”するのであろう?

その時は“あどぉれす”を教えよ。

ワシも“良いね”ぐらいは押しておこう。」


もう何を言ってるか理解したくなかったが、俺は曖昧に笑って頷くと、その場をそそくさと離れていった。


いや、解るよ?

元の世界の、何とかチューバー的なヤツでしょ?

いやでもさぁ、ホントなんなん?この世界?


俺は一旦この事は忘れ、生きて帰るために盾を選ぶ。

両手にそれぞれ1枚ずつ盾を持ち、背中にも1枚背負う。

とりあえずはこれで正面以外からは守れるだろう。

まぁ、正面から攻撃が飛んでくるということはオーダ軍が壊滅しているという事だ。

その時は諦めるしかない。


そんな気持ちで裏門に向かうと、僅かに弛緩した空気が漂っていた。


途中で倒れた奴の物資も大体は回収しきったらしい。

食料が配布され、女子供にも行き渡ったようだ。

活気が戻ってきたのを感じる。


「あ、オーダ軍の方!!」


皆が俺を見ると、敬礼やお辞儀で迎えられる。

ちょっとしたヒーローだ。


「ありがとうございました!!

今、敵の矢が消耗し始めたのか降り注ぐ数が減ってきております!!

戻られるならば今が好機かと!!」


元気を取り戻した兵士達に送られながら、俺はまた矢の雨降り注ぐ道をひた走る。

確かに、帰りは想像よりも飛んでくる本数が減っていた。

……それでも、俺が持っていた盾にはびっしりと矢が刺さっていたが。


そうして、何とか本隊に戻れた俺は、百人将に預かった伝言を託す。

その情報はすぐに上まで行き渡り、そしてここを好機とみたオーダによって、徹底的な追撃戦が始まる。


タケイダの瓦解は、本当にあっという間の出来事だった。

恐れ入りますが、今月リアルの仕事が立て込んでおりまして、次回更新を7/7(日)とさせて頂きます。


そこまでに間に合っていなかったら……想像するの怖いんで止めておきます……


6/29追記:ごめんなさいマジで無理ッス……。

今月の月末月初はヤバい……。

ちょっと1週間延長させてください……。


7/6(土)1:58追記

金曜までぎっしり仕事してて、流石に金曜の深夜にアップは無理だわ、と、今になって理解できるっていう。

いや、こんなになってる筈じゃなかったんですが……。

ちょっと1日ずらして、土曜深夜26時、日曜午前2時アップ目指します……。

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