636:技術と世界とエネルギー
「フジーラ!……おいフジーラ!!」
あ、俺か。
どうにも今までの世界でも大体“セーダイ”と呼ばれていたせいか、“別に付けられた名前”で呼ばれると違和感がある。
もちろんこれまでの異世界で偽名を名乗った事は何度もあるが、それは自分で勝手に作ったから覚えているが、人からもらった、しかも何の感慨も無い名前はどうしても反応が遅れる。
「はい!こちらに!」
「さっさと返事をせんか馬鹿者!!
よいか、明日には出陣となる。
それまでに、新しい装備を渡しておくから、それの使い方を熟知しておくように。よいな?」
俺達は出陣の準備をしていた。
この世界、というかこの地域か、ともかくここは旧文明が滅んだ後に復興し続けている世界のようだ。
旧文明の統治機構は存在しなくなり、いわば大昔の戦乱時代のように小さな集団が小競り合いを続け、この国を統治しようとしているらしい。
俺が拾われたのがオーダという有力貴族で、これから攻め入るのはタケイダという、こちらと同じかそれ以上の領地を持っている有力貴族らしい。
「はぁ……、新しい装備、でありますか?」
「うむ、次の戦の要にもなりうるという話だ、しっかり覚えて使えるようになるように!」
言われて、頭に“?”を浮かべながら装備を受け取りに行く。
途中、部下の数人が見えたので一緒に受け取るように指示する。
装備を課、といえば聞こえはいいが、ただの屋根のみのテントを張った資材置き場に積んである木箱を管理している弊誌から、油紙包みといくつかの箱を人数分受け取るだけだ。
(……なんだろうな?随分と細長い……銃器か何かかな?)
いくつかの名前や状況から、流石に俺でも解る。
ここはいわゆる、元の世界で言うところの戦国時代をベースにした異世界、というやつなのだろう。
つまりは俺は織田軍にいて、多分次の戦いは武田軍と戦うわけだ。
そこからの推測だと、“長篠の戦い”とかがイメージにある。
一説では“長篠の三段撃ち”等と言われた、日本史上初の銃器を効率的に使った戦いだと言われている。
まぁ、アレも本当に三段撃ちだったのか、とか、創作によるところが多いのではないか、とか、色々言われている気もする。
だが、以前にスラムで聞いた“オーダが海外から入手した、この世界のルールを破る武器”というやつなのだろう。
「何だこりゃ!?ボルトアクション銃じゃねぇか!?」
自分の部隊に戻り、部下に支給しつつ油紙の包みをあける。
紙包みの中に入っていたのは、主に元の世界の2度目の大戦中に使用されたという、ボルトアクション式のライフルが入っていた。
当然、紙箱の中身はそれ用の弾丸だ。
てっきり、これまでの経緯から火縄銃辺りだろうと予想していた。
流石異世界、俺の想像の先を行っている。
<勢大、弾丸が通常とは違います。>
言われて、クリップ止めされている弾丸から一発を抜き出して眺める。
基本的なライフル弾の形をしているが、よく見ると底面部分に雷管が無い。
代わりに、と言っては何だが、底面全体に六芒星のような、小さな魔法陣が描かれている。
(魔法による弾丸?
しかし、“マナ”が枯渇し始めると“エーテル”が満ちてるハズなんじゃないか?)
これまでの異世界を渡り続け、いくつかわかった事がある。
文明が進化する前、それこそ剣と魔法の世界などでは魔法を使うための魔力、“マナ”が世界には溢れている。
世界全体のマナは総量があり、全人類が使っていればそのうち枯渇が始まる。
マナが枯渇し始める頃になると新しいエネルギー源である“エーテル”が広まっていく。
まぁ、その間に繋ぎとして化石燃料や鉱石をエネルギーにするのだが、大抵はエーテルを発見し、そこからまた文明が発展していき、宇宙開拓へと進むのだ。
そうして文明が広がると、今度はエーテルが枯渇していく。
ただ、完全にエーテルが枯渇しきった世界を見た事がまだ無い。
もしかしたら、ここがその世界、“エーテルが枯渇した後の世界”なのかもしれない。
<エーテルが枯渇すると、またマナが回復する、と言う事なのでしょうか?>
(かも知れねぇな。
俺たちはずっと“枯渇したから次のエネルギーを見つけてきた”と思っていたが、実際には“完全には無くならず、在庫が復活するまで別のエネルギーを使っていた”が正解なのかもな。)
エーテルが枯渇しているからこそ、また魔法の元である“マナ”を使った武器がこうして生まれてきた、そう考えた方が正しいのかもしれない。
そんな事を考えながら、銃のボルトを引いて排莢口を開け、そこから中を覗く。
銃口から射し込む光で、内部にも螺旋状のライフリングが施されている事が見える。
(銃の構造自体は、俺が知っている物と変わりはないな。
となるとやっぱり違うのは弾丸だけ、って事かな?)
<構造はボルトアクションライフル、勢大の知識から見れば“村田銃”と言うものが一番近しい構造をしていると思われます。
ただ、銃本体の材質が鉄だけではないようですね。
言ってみれば、“鉄と魔鉱石の混合素材”という所でしょうか。>
マキーナの解析を聞きながら、なるほどな、と納得する。
つまりは火薬で撃ち出す銃と同じ構造はしているが、魔力で撃ち出すために強度と魔力分散を同時に抑えてる、って所か。
「あの、隊長殿?随分と使い慣れているようでありますが?」
部下に言われ、我に返る。
気付けば考え事をしながら一度分解し、また元に戻している最中だった。
「お、おぅ、知識があるからな。
よし、この銃を完璧に使いこなせるようにこれより訓練だ。
目隠ししていてもこの銃がバラせて元通りに出来るくらい、知識を叩き込んでもらうからな!!」
笑いながら、俺は部下達を見回す。
皆嫌そうな顔をしているが仕方がない。
戦いが始まれば、否応なくこの武器に命を支えてもらわなければならないのだ。
こればかりは、甘い顔は出来ない。
そう考えながら、俺はもう一度、今度は説明をしながらボルトアクションライフルの説明を始めるのだった。




