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異世界殺し  作者: Tetsuさん
争乱の光
635/831

634:試験

目の前に立つのは色白い、刀やナイフが放つ青白い光の様な印象を持つ男。

その表情には笑顔が張り付いているが、決して心から笑っているわけでは無い事が見て取れる。


「……命を賭けて、とは、実に面白い。

よかろう、お前のその希望、かなえてやろう。」


“ついてまいれ”と言うと、男は(きびす)を返す。

俺はただあっけにとられていたが、俺よりも速く立ち直った門番は“ほれ、早くせぬか!”と俺を急かすと、道を開ける。

それを見て、俺もキルッフも慌てて細身の男の後を追う。

細身だが長身だからなのか、中々歩く速度が速い。

俺達は見失わない様に後をついていくので精いっぱいだ。


(しかし、やたらと曲がりくねった道を歩かされているな……。

マキーナ、スマンが移動した経路を含めて、城の構造を確認しておいてくれ。)


随分進んでいるのを見ると、城の中央か、或いは裏手に出るのではないか、と想像していた。


「着いたぞ、では、手並みを見せてみよ。」


男が振り返り手のひらを奥に向けて指し示す。

光がさえぎられていて少し薄暗い城の中を歩き回っていたからか、示された先の光がまぶしく感じる。

とはいえ、あれだけ大見えを切ったのだ。

この先に何があろうと、その困難は打破せねばならない。


「何だかようわからんが、要はこの先に向かえばいいんだな?

何でもいい、試練があるならやってやろうじゃねぇか。」


「うむ、期待しておるぞ。」


俺が進むと、俺が通った出入り口は鉄の格子がおろされる。

そして光に目が慣れた時に周りを見てみれば、そこは円形でそこそこ広いフィールド。

土が剥き出しの大地に、よくわからない石か岩の残骸、そして地面に突き立っているいくつかの刀。

コンクリか何かで固められた高い壁に、壁向こうには無人の観客席。


(闘技場?みたいなもんか?ここで何と戦わせるつもりなんだ?

……まぁ何でもいいか、どうせやるしかねえんだ。)


よく見れば、地面に突き立っている刀もそこそこ使えそうな刀身をしている。

つまり戦いながらアレを拾って活用しろって事だろうな。


「……それでは、これより試験を始める!!」


先程の細身の男が声を張り上げ、試験の開始を告げる。

細身の優男とばかり思っていたが、その声はよく通る。

見た目通り、って訳ではなさそうだな。


<勢大、正面の鉄格子が開きました。

ゾンビが3体、毒にはお気を付けを。>


マキーナがモンスターの観測データを表示してくれる。

まぁ、よくある動きの鈍いタイプのゾンビだ。

今更これで驚くようなことは無い。

俺は足元の石ころをいくつか拾うと、特に何かを考える事もなくゾンビに投げつける。

3体のゾンビは頭を吹き飛ばされ、すぐに膝から崩れ落ちる。


「胆力やよし、では次だ。」


<勢大、次は合成魔獣(キメラ)の様です。

頭がある限り機能し続けますので、早期の撃破を。>


俺は数歩駆けると、地面に刺さっている刀からマキーナが“一番マシ”と指定した刀を抜く。

刃はこぼれ刀身も赤茶けているが、芯は生きているらしい。

他の刀は見た目は良さそうでも、芯が死んでいるという。

そういう刀は、振り回しているうちにぽっきり折れてしまう。

流石に今はそういう状況になるのは避けたい。


「……ほぅ。」


細身の男が何か声をあげていたが、今は放っておく。

極力刀身に負担をかけないような軌道で振り、合成魔獣(キメラ)のそれぞれの部位に存在する頭を潰して回る。

獅子の頭、ヤギの頭、尻尾の蛇と瞬時に叩き斬る。

少しでも手こずると斬った頭を回復させてくるから、こういうのは手際よく解体していかないとな。


「よろしい、では最後だ。」


細身の男がコンクリの壁を乗り越え、フィールドに降り立つ。


おいおいおい、死んだわ俺。


いや、そんな冗談を言っている場合じゃない。

どう見ても“今度は俺と戦え、生き残った方が採用だ”的な流れよね、これ。


ただ、こういう場合今までの態度から、この男がそれなりの地位にいる男だというのが解る。

コイツをうっかりやっちまった場合、後々俺が処分されるのが目に見えている。

しかし、ここでやられるという事は、当然の事ながら俺の命が無くなるという事を示している。


アレ?これすっごいわかりやすく詰んでね?これ。


「ふむ、おぬしが二人分の戦働きが出来るのであれば、この俺を倒して見せよ。

我が名はミツヒデ、ミツヒデ・アケチなり。」


あぁ、やっぱりこういう展開になるのか。

細身の男は腰の刀を抜き放つ。

天から降り注ぐ光を反射し、刀身がまるで濡れているかのような青白い光を放つ。

どうする、どうしたら回避できる?

必死に頭を働かせる。刀をだらりと下げたまま、ミツヒデが一歩足を踏み出す。


「……お、俺が二人分働くのは間違いない、だが、それでアンタを倒すことに繋がる理屈が解らん。」


「ほう?臆したか?」


苦し紛れでも何でも、とにかく機を制するのは今しかない。

もう一歩踏み込まれたら確実に始まる(・・・)、始まってしまう。

そうさせない為に、俺は無理やり口を動かす。


「あ、アンタ、俺ごときに今名乗ったところを見ると、さぞ名のある人なんだろうさ。

するってぇと、戦場(いくさば)での斬った張っただけがアンタの仕事じゃねぇんだろうさ。

そんなら、俺の腕っぷしと、アンタの腕っぷしだけじゃないモノを比べるのは、少し違くねぇか、と言ってるんだ。」


口をついて出た適当な言葉だが、言っているうちに自分でも理屈が通る気がしてきた。

多分コイツは将軍クラスだろう。

それと一兵卒候補を比べるのは、あまり意味が無い。


「……ほう。

クックック、そこそこ頭も回るではないか。

よかろう、それなりに面白そうだ。

お前を取り立ててやろう。」


ようやく、俺は安堵のため息をつく。

やれやれ、何とか切り抜けられた。


しかし、ミツヒデ・アケチか。

まるで元の世界の明智光秀みたいな名前だな、と思いながら、俺は男に“ついてこい”と言われキルッフと共に後に続く。

何とか事なきを得たが、どうにも大変な世界だ。


そんな事を思いながら。

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