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異世界殺し  作者: Tetsuさん
争乱の光
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633:大見得

結局、あの後に追加の挑戦者は現れなかった。

最後は良くなかったとはいえ、あのマッチョマンはそれなりに強かったらしい。

あの酒場にはマッチョマンに負けたやつしかおらず、それからの俺の勝利を見ているだけに、やはり挑む気にはあまりならなかったらしい。

結果、それまでマッチョマンが積み上げてきた勝ち抜けの賞金と、例のオーダとかいうここの領主への推薦状、これは持っていると仕官を申し込むときにかなり有利に働くらしい、を俺は取得することが出来た。


てっきり豪華賞品を餌に絶対勝てないマッチを組んでみたり、勝っても色々難癖をつけて席代やら勝負代やらとボッタくる酷い店なのかと思っていたら、意外にもその辺はちゃんとしていた。

スラムみたいな所とは言え、いくつかの店はこの領地でしっかり店舗として登録しているらしい。

キルッフも、それを知っていて俺が呼び止められた時に邪魔はしなかったそうだ。


どうやって一目見て判断するのかと聞いてみたら、店の前に掲げてあるプレート、これは“ラクーザ”というらしいが、その“ラクーザ”というプレートが有るか無いかで正規店かモグリの店かはすぐに解るらしい。

このオーダの町に広がる商人ネットワーク“ラクーチ”に登録して“ラクーザ”を掲げている認証店は、価格や品質がそこまでばらつきが無いため、安心して商取引が出来るという。


それまで老舗の商人達で市場を独占していたらしいが、領主のオーダがこのラクーチ制度を導入したと言う。

登録さえすれば新興の商人でも自由に店を出す事が出来、オーダの勢力圏内では移動にかかる税も免除と、商売には有利な事が多いらしく、周辺の国よりもはるかに物流も盛んで賑わっているらしい。


(聞いていると、革新的で斬新なアイデアなんだよなぁ。

ただ、どうにも決め手がないような……。

まぁ、会ってみれば解る、ってところかなぁ。)


これまでの話から少しだけ、ここの領主である“オーダ”なる人物の事、俺は転生者では無いかと疑っていた。

スラムにいるような末端中の末端、宿無し文無し流れ者のキルッフにまで届くようなカリスマ性、先ほどの店の話にあったような革新的な政策、それと、チラと出ていた“ガッセン粒子を無効化する弾丸”の開発。

この世界がどういう世界なのかはまだ把握しきっているわけでは無いが、それでも人心掌握や先見の明の異常性が際立つ。

神から与えられた不正能力(チート)でもないと、よっぽどの天才か世界に愛された時代の寵児でもなければ、説明がつかない。


「で、アニキ、これからどうするんスか!?

早速城に行って、入団試験とか受けるんですか!?」


キルッフは楽しそうだ。

そんな楽しそうなキルッフに、俺は中々事実を言えないでいる。


この、推薦状。

キルッフはこれを持っていれば騎士に取り立ててもらえると考えているらしい。

そして騎士には従士の存在がある。

つまり、俺を騎士にする事で、自分は従士のポジションに収まり今の生活から抜け出せる、と期待しているのだろう。

ただ……。


(“兵として一芸に秀でている者”なんだよなぁ。)


恐らく、これを受け取る奴は文字の読み書きが出来ない奴も多いのだろうと思う。

キルッフからも聞いた事だが、この推薦状を入手出来るという事は、スラムで生きる者には相当のお宝らしい。

まぁそれはそうか、衣食住が確保されるのだろうから、明日もわからぬ者にはかなりのお宝に見えるだろう。

しかし、この推薦状を読める者からすれば、これがただの歩兵への推薦状という事が解る。

まぁ恐らく“一芸に秀でる”とあるため普通の歩兵よりか幾分扱いはマシだろう。

それでも、従者を雇うような存在ではないだろうと思う。


「いや、今日は日が暮れかけている。

折角儲けた金もあるんだ、とりあえず今日はパーッと行こうぜ。」


キルッフが嬉しそうに口笛を吹く。

とりあえず今日は余計な事は忘れて騒ぐとしよう。

面倒事はまた明日だ。




「……うぅ、アニキ、俺を置いて行ってください。」


翌朝、キルッフが二日酔いでフラフラになりながら俺の後をついてくる。


「わかった、すまんなキルッフ。」


「ちょっと……、待って……。」


あっさり置いていこうとすると、今度は静止のお願いが飛んでくる。

まぁ解りやすく“頑張れ”と言ってほしかったのだろうが。

悪いなキルッフ、俺その言葉嫌いなんだわ。


まぁ、ちょっとだけ“このまま置いて行った方が面倒が無くていい”とか思っちゃってたのもあるけど。

“キルッフは置いてきた、この先の戦闘には耐えられそうにない”ってやつだ。


ただ、そんな俺の気持ちも知らず、キルッフは必死についてくる。

しかし、コイツにやっぱり助けられた面もあるからな。

仕方ない、こうなったら一蓮托生だ。




「んで?君は推薦状を持っているようだが、こちらの彼は何も持っていないな?」


案の定、城の門番に止められる。

ここに来るまで、結局良い回答を見つけられなかった。

“実は友達で~”とか、“え?聞いてないよ~”とか色々返答を考えたが、どう考えても結論が見えている。


「……どうした?何か言う事は?」


返答に窮した俺を、門番が見下ろす。

190㎝以上はあるだろうか、ガタイも良いから威圧感がすごい。


「……俺は、俺の名は田園(たぞの)勢大(せいだい)

どこの何でもない、ただの人間だ。

この男には恩がある。

俺がこの男の分以上に働いて見せる。

だから、俺達を共に雇ってくれ。

推薦状の通り、一芸には秀でている!!」


俺の言葉に、門番は胡散臭そうに俺を見下ろす。

もう少し、あと少し押す必要がありそうだ。

何か、何か良い文句が出てこないもんだろうか。


その時、ふと昨日の酒場での事が思い出される。

俺は改めて顔をあげ、門番を睨む。


「誰でもいい。

俺と勝負しろ。

真剣でも何でもいい、そこで腕を見せてやる。

使えんと思ったら首でも刎ねろ、笑って斬られてやらぁ!!」


俺の叫びに、対応している門番の顔が引き締まる。

近くにいた兵士達も、ザワザワとこちらを見ながら何かを話している。


「……ほぅ、随分と気骨のある奴だ。

面白い、言葉通りか、俺が試してやろう。」


門番の後ろから、細身の男が姿を現す。

分厚い金属の全身鎧ではなく要所要所を守っているだけの部分鎧をつけた、青白い肌の、さながら蛇のような印象を感じさせる男だった。

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