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異世界殺し  作者: Tetsuさん
争乱の光
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632:世界の理

「ヌギギッ……ッ!!グッ……!!」


顔を真っ赤にしたマッチョマンの悶え声とか、今この瞬間に聞きたくない声ナンバーワンだなぁ、と、ボンヤリと遠くを見る。


別にこのためでは無いが、こうして異世界を渡り歩く前に、2億年近くも鍛えてしまったのだ。

単純な身体能力だけで言うなら、不正能力(チート)を使っている転生者ともほぼ互角くらいには渡り合える。

だから、ちょっと腕自慢程度のこの世界の住人相手なぞ、赤子とプロレスラーくらいの差があるのだ。


退屈な表情のまま、適当に押されてみたり押し返したりと周囲が盛り上がるように演出してみる。

歓声は大きいが、今まさに対戦しているこの男にとっては屈辱以外の何物でもないだろう。

何せ、自分の力ではないところで勝手に優勢にさせられたり劣勢にさせられたりと、思うがままに操られているのだから。


十分プライドはへし折ったし、あんまりいたぶるのもかわいそうか、そう思い、最後は一気に押し戻し、テーブルにマッチョマンの手の甲を叩きつける。


「しょ、勝者、飛び入りの男だぁー!!!」


店主兼レフェリーの男が叫ぶと、ワッと歓声と賭け札が宙を舞う。

ただ、飛び入りの俺はマッチョマンの10連勝を阻止しただけであり、その、オーダとか言う領主への推薦状は10連勝が必要らしい。

そのため、後の挑戦者を募集しようとレフェリーが声を上げた直後、マッチョマンが背中に隠し持っていたリボルバータイプの拳銃を抜く。


「ま、待てやコラァ!!

まだ終わっちゃいねぇ!!

俺は地元じゃ負け知らずなんだよぉ!!」


そうして銃口を俺に向ける。

俺は、“何だ、銃はあるのか”という事と、“逃げ惑いもせず、何なら罵声を浴びせている周囲の客”に驚く。

こういう状況、大なり小なり逃げ惑う奴が出てくるはずだが、誰一人動こうとしない。

それどころか、野次る声が大きくなっている。


「コイツ何も知らねぇ田舎モンかよぉ!」

「良いぞぉ!撃て撃てー!」

「久々に見せてくれよー!」


何だろう?命が惜しくないのか、それとも機械化しているだけに通用しないのか。


困惑しながらも銃口から目をそらさず、“弾避けは大変なんだよなぁ”と考えていると、レフェリーが止めに入る。


「お、お客さん、それやっても無駄だから、早くしまって!」


「うるせぇ!テメェから死にたいのか!!」


しまった、と思ったがもう遅い。

マッチョマンは銃口をレフェリーに向け、引き金を引く。


火薬の炸裂音が響き。


そして何も起きない。


一瞬キョトンとしたマッチョマンは、しかしすぐに怒りの表情に戻ると2発、3発と引き金を引くが、やはり音だけで何も起きない。


いや、正確には弾は発射されていた。

ようやく見えた(・・・)

銃口から飛び出しかけた弾丸は、しかし何かの力によってキラキラと虹色に輝く光に変わり、空中に霧散していた。


<世界のルールを検知。どうやら、通常の火器は無効化されるルールのようです。>


マキーナが観測結果を表示してくれる。

既存の火器類は、どうやら大気中に漂う“何か”の影響で無力化されてしまうらしい。


その時に頭の中で何かのピースがハマる。

町中で見かけた刀を持っているゴロツキは、恐らくこれを理解していると言う事だろう。

たまにある、“その異世界特有の謎ルール”って奴だ。

どうやらこの世界では、俺が知るような既存の銃火器類は使用禁止らしい。

どうにも面倒な世界に飛ばされたな、と思ってしまう。


「ハッハァー!!どうした兄さん!!

お前の田舎じゃどうだったかは知らねえが、ここはガッセン粒子が飛び回ってるんだ!!

そんなレトロウェポンから弾なんか出るワケねぇよなぁ!?」


周囲の観客も、それまでとはうって変わったようにマッチョマンを煽りだす。

先程までは賭けの対象で負けた事にブーイングをたれていたが、馬鹿にはしていなかった。

ただ、今の状況は完全に馬鹿にしきっている。

何なら、最初に挑戦しようとした俺よりもひどい罵声が飛んでいる。


「へへっ、アニキ!マジで勝てるんスねぇ!!

だいぶ稼ぎになりやしたよ!!」


観ないと思ったら換金に行っていたのか、キルッフがフラリと俺のもとに現れて、手に持つ硬貨の入った袋を見せに来る。


「7:3で、俺が7な。

……いや、それよりも、随分な煽りようだが、いつもこうなのか?」


キルッフは“そりゃ無いスよアニキ、4ぐらい下さいよ!”と文句を言っていたが、後に続く俺の言葉を聞くと、マッチョマンをチラと見て軽蔑したような目線を送っている。


「あー、アニキは解らないッスかね。

あぁいう見苦しいの、なんつーんスかねぇ?

あぁそうだ、“(いき)じゃねぇ”ってヤツなんスよ。

どうせならあの銃で“負けた!死ぬ!”とか言って死のうとした方が、まだ皆納得したんじゃねぇッスかね。」


ついでに、“ガッセン粒子”とやらも教えてもらった。

どうやら、戦争をする際に撒かれる粒子らしいのだが、それらが基本的な遠距離兵器、俺が良く知る近代兵器の類は全て発射と同時に分解され、無効化されてしまうらしい。

というより、人体を使った暴力的行為以外は、ほぼ全て無効化されるのだという。

その無効化には核ミサイルらしきものまで含まれている、と言う事らしい。

なんでも、“巨大な炎の塊で全ての町を焼き尽くした旧文明人が、平和への祈りを込めてガッセン粒子を撒いた”と言うのが、古文書に書いてあるそうだ。


「最近やっと、オーダ様が海の外の国からこのガッセン粒子を無効化する弾丸と、それを打ち出す技術を持ち帰ったばかりなのに、こんなスラムでそれを見掛ける訳ないッスからねぇ。

まぁそうでない武器を振り回してりゃ、あぁして袋叩きが良いとこッスよ。」


事もなげに言うキルッフに、俺は少し恐怖を感じていた。

技術力のアンバランスさを受け入れていることもだが、それよりも粋でない、と言う言葉で簡単に人を死に追いやれる、ここの風習に。

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