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異世界殺し  作者: Tetsuさん
光から呼ぶ声
619/831

618:最後の敵

「ともあれ、コレをこのまま放置する訳にもいかん。

田園殿には悪いが、俺達は俺達の目的として、この“賢者の石”を破壊させてもらう。

……そうしなければ、彼等も危険だ。」


竜胆が静かに、そしてさり気なく俺を警戒しながら数枚の札を構える。


これを止める事、その事自体には俺も異論はない。

ただ、竜胆の手段としては、まぁ当たり前だが“破壊”なのだろう。

あの水晶、竜胆の言う“賢者の石”を破壊し、中の転生者の(ソウル)を解放して、コノハナサクヤに力が流入しない様にする、そう言う事だろう。


“組織”の連中がこの場所への異物排除のために残した悪魔、原初の海ティアマト。


ここに来るまでの竜胆からの説明で、アレは神の写し身(“神霊(しんれい)”、というらしいが)ではあるが、恐らく現時点のコノハナサクヤよりも強大な力を持っていただろう、という話だった。

まぁ、ここの“賢者の石”とやらがあれば、コノハナサクヤは実質的にほぼ不滅だ。

ならば覚醒が終了するまでの間、ここの警備をこそ一番に強化するのは当然だ。


つまり、これを破壊しなければあの子達の戦いは一生終わらない。

この状況、誰がどう見ても竜胆の方が正しい。


『それでも俺は、お前達を止める。

俺を悪と呼ぶならそれもまた良いだろう。

それでも、俺は転生者を助けたい。』


ゆっくりと歩き、視線を遮るように竜胆と水晶の間に入る。


「へへっ、良いね良いね、そう言うの。

俺ぁ大好きだぜ、そう言うのよぉ。

ここで“そうだな、それも仕方ない”なんて腑抜けた事言ってたら、アンタを軽蔑してた所だ。

アンタはコイツを助けたい、俺達はコイツをブチ殺したい、なら、ぶつかるのは当然だわな。」


クロガネは右手に持っていた俺の刀を俺の前に放る。

そうして空いた手に、後腰に指してあったガンタイプPCを抜き取ると、魔法陣を展開する。


「アンタの刀、おっそろしい斬れ味の割に刀身も肉厚で刃こぼれ1つしやしねぇ、すげぇ良い刀だな。

普段遣いするのに必要な要素が全て詰まってる、すげぇ刀だ。

マジでこのまま俺の物にするか、或いは同じモノをもう一本くれと言いたかったがよ、それはアンタのモンだ。

こうしてやり合うなら、ちゃんと返しておかなきゃなぁ。」


『そいつは残念だ。

それを俺に向けて振ってきたら、即座に消して回収して、出来た隙に一発ブチかましてやろうと思ってたのによ。』


俺は笑いながらそう言うと、刀を拾い上げる。

俺が貸していた間も、丁寧に手入れがされていたようだ。

隅々に汚れ一つ無く、刀身も油で鈍く輝いている。


「ケッ、そんなこったろうと思ってたよ。

ただなぁ、その刀、普段遣いにゃ良いが、ちと物足りなかったかな。

……来い、“雷光村正”。」


魔法陣が輝くと、クロガネのすぐ脇の空間にヒビが入る。

そのヒビに手をつきこむと、白銀に輝く太刀が現れる。

白銀の刀身から、その“雷光”の由来なのだろう、小さな雷のような電気が駆け巡っている。


「こういうよ、“斬るだけじゃない特殊な効果”って奴がないからな。」


自信満々に一振り。

そして追加で、いつもの苔むした隻腕の巨人、伏し目がちの家政婦、ピッチリとしたボディスーツを着た槍使いの女が現れる。

どうやら炎をまとったトカゲは、先程ので消耗しきっている、という所か。


『……そうか、お前には使えないからな。

別に説明する必要はないだろうと、省いていた機能があるんだ。』


これは俺がマキーナを着ている時にしか使えないからな。

刀を握ると、マキーナに接続許可を出す。


<“高速振動剣(ヴィヴロブレード)”モード、起動します。>


黒い刀身が目に見えないほどの速度で振動を始め、青白い刀身へと変わる。

その高速振動のノイズが周囲に響き渡り、クロガネも微かに顔をしかめる。


『さて、互いに準備が整ったかな?

それとも、竜胆が大技を打つためにも、後5分位は待った方が良いか?』


「いいねぇ、待ってくれるのかい?」


クロガネがニヤリと笑う。

俺も仮面の下では同じような笑顔をしているだろう。

当然、そんな義理はない。


ダラリと刀を下げ、俺は歩き出す。

いつもの散歩のように、何でもないように脱力して。


「グレンデル!スカアハ!!」


クロガネの掛け声で、2体の悪魔が一気に距離を詰めてくる。


眼前に広がる巨大な拳。

俺は下げた刀を無造作に振り上げる。


刀は何の抵抗もなく振り上がり、その途中にあったグレンデルの拳は明後日の方向に飛んでいく。

それでも流石は使役されている悪魔。

人間ならこれだけで戦闘不能だが、グレンデルは更に加速すると飛び上がり、足を持ち上げる。


“あの巨体から繰り出される蹴りは、流石に受け止めきれんなぁ”

そんな事をのんびり考えながら、俺はもう一歩を踏み出す。

体の軸をずらし、蹴りの軌道を交わすと横薙ぎに刀を一振り。

やはり抵抗なく刀は振り切られ、そしてグレンデルは一撃で絶命し、結晶化して散っていく。


「必中必殺、ガイ・ボルガ。」


『来ると思ってたよ。』


それまでの歩きから、一気にステップで踏み込む。

ちょうど、光の結晶化していくグレンデルで影になるような位置、空中にスカアハはいた。


だが、ちょうど槍を蹴る瞬間に間に合った。

高速振動する刀の切っ先をやりの穂先に合わせ、そのまま突き進む。

小さな抵抗はあったが、槍を突き抜け、そしてスカアハのつま先に突き刺さる。


『“必中”、その単語を入れてしまったなら、一度槍を蹴る必要がある。

この鎧をくれた俺の親友が、そう教えてくれたよ。』


つま先に刺さった剣を素早く返すと、スカアハの体を両断する。

スカアハは声もあげず、ただ消える前に口元に笑みが浮かんでいた。


『シッ!!』


スカアハが結晶化して消え去る直前、俺は更に踏み込むと大きく振りかぶる。

全力で刀を投げつけ、伏し目がちの家政婦、シルキーの頭部を破壊する。


『……さて、追加の悪魔は出さなくていいのか?

お前の身体強化をしてくれるような、補助系の悪魔でも良いぞ?

そういや“ノッカー”って悪魔もいたよな?』


「……ノッカーは索敵ぐらいにしか使いもんにならなくてね。

ここで出しても盾にすらなりゃしねぇよ。」


クロガネは不機嫌にそう吐き捨てると、改めて刀を構える。


「でもよ、今のでオッサンは刀を手放したんだ。

まだやりようはあるだろうよ!」


良いねぇ、若者はそうでなくちゃな。

俺は改めて、重心を下に落とす。

心を落ち着け、クロガネと竜胆を視界に収める。


さて、次はどう来る。

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