617:囚われの魂
<緊急対応、強制起動を実行します。>
『アガガガガガ!!』
次の瞬間、激しく流れる電気の衝撃に意識が覚醒する。
意識を手放そうとした瞬間、間髪入れずにマキーナが覚醒させるための電気ショックを俺に放ったらしい。
<格好良く気絶しようとしていますが、まだ状況は終わっていません。
ここでの意識消失は危険と判断し、緊急対応を行いました。>
シレッと言ってのけるマキーナに恨み言を言いそうになったが、それを言っても始まらないし確かにその通りだ。
まだ終わっていない。
『……やれやれ、次からはもう少し優しい起こし方で頼むぜマキーナ。』
<善処します。>
何とも素っ気ない返事だが、まぁそれはそれで良い。
むしろ、これくらいの素っ気なさのほうが俺達にとっては居心地の良い空気感、ってヤツだろう。
「おっさん、さっきから大丈夫か!?
何か一人でブツブツ言ってたし。
……アレか?遂におかしくなったか!?」
クロガネ達が駆け寄ってきていたのを忘れていた。
相変わらず騒々しい奴だ、と思いながらも心配そうに俺を覗き込んできたクロガネの頭に拳骨を落とす。
「いってぇ!!あにすんだよおっさん!!」
『やかましい!!
さぅきのアレは何だお前!!
危うくアレに殺される所だったじゃねぇか!!』
あれは……とクロガネが言い淀む。
聞けば、あれはクロガネの家に代々伝わる護国の神を喚び出す召喚術ではあるらしいのだが、割と博打要素が強く、ちゃんと召喚される事の方が珍しいという、非常に不安定な召喚術らしい。
ちゃんと召喚されれば確かに強いのだが、対価として持っていかれるモノも効果も不規則で、代々のクロガネはこれの対価で命を落とす者も少なくなかった、との事。
(……なるほどなぁ。
だからコイツ、こんなに接近戦が得意になってるって事か?)
他の世界だと、召喚師と言えば魔法使いのような、言っては申し訳ないが貧弱な体型の者が多い。
……というか、どちらかといえばそちらの方が一般的だ。
だが、コイツは召喚師でありながら刃物を使った接近戦を得意としている。
てっきり“やっぱり現代の召喚師は使役悪魔だけじゃなく、自分も戦わなくちゃなんだろうなぁ”と呑気な事を考えていたが、実際は多分違う。
クロガネが一族で伝承している召喚術とは、つまりは先程の俺に起きたような、呼び出した神霊クラスに体を渡す召喚術なのだ。
自身を媒体として敵を倒す、という事は正直人間には耐えきれないだろう。
俺だって多分、マキーナの鎧の中にいなければバラバラになっていた筈だ。
あの護国の神も、それを見抜いた上でクロガネじゃなくて俺に乗り移った、という事かもしれんなと改めて思う。
多分、歴代のこの召喚術を使った者は肉体が耐えきれずに絶命するか、或いは器が足りずに不発に終わるか、もしくは今回のように周囲に強い肉体があればそちらに乗り移ってしまう、まさしく“何が起きるかわからない不思議な召喚術”になるわけか。
ただ、コイツの先祖は何となく傾向を理解して、“召喚師でありながら前線で戦えるように肉体を鍛える家系”として進化してきたのだろう。
“面白いものだ”とは思うが、コイツには教えてやる必要はないな、と思い直す。
今回は俺という存在がいた。
それはクロガネにとっては幸運だったかも知れないが、もう次は無い。
でも今回の俺のアレを目撃できた、という点では、自分に何が足りてないかを見つめ直す丁度いい機会だったはずだ。
もしも次に同じ状況になったとしたら、覚悟の決め方が違うだろうしな。
『……まぁいい、今の一撃で気が晴れた。
ともかく、“転生者探し”を続行するんだろう?』
「そうだ、恐らくは今のが“組織”が用意した最大の障害、と思いたいがね。
さて田園殿、およそ人間とは思えぬ戦いをしたばかりだが、休憩はもういいかね?
動けるなら先を目指そうと思うのだが?」
先程の大魔法の影響だろう。
疲労からかやや青い顔をした竜胆が、それでも何でも無い風を装ってこちらに歩いてくる。
そんな痩せ我慢を見せつけられては、こちらも駄々をこねる訳には行かないだろう。
俺は全身の激痛に耐えながら、やはり何でも無い風を装い起き上がる。
『……っ……、へっ、まぁ大丈夫だ。
ほんなら、先へ急ぐとしましょか。』
進む歩みは遅いが、俺達は前へ進む。
幸いにして、“対象”はすぐに見つける事も出来たし、予想通りそこまで強い敵ともこれ以上は出会うことも無かった。
多少の接敵は、クロガネとその使役する悪魔達が蹴散らしてくれていた。
『……まいったね、どう見る?』
“対象”は先程の戦闘があった場所、ティアマトの背面側と思しき方向に進むと、岩肌をくり抜いたような小さな穴……と言っても、俺達3人が横になって通っても問題ない程度の幅の穴ではあるが、それがあり、そこを通った先の小部屋にいた。
「既に息絶えているのでは無いかなと思うのだが……。
クロガネ、アナライズ出来たか?」
「……うーん、順ちゃんは部分的に正解、かなぁ?
これ、人としてはもう死んでそうなんだけど、“生体ユニット”としては生きてそうな感じなんだよねぇ?」
俺達が見つめるその先、光る水晶のような塊の中にいる男性の姿が目に入る。
全裸で、まるで直立したまま眠っているかのような姿で、水晶に固められている。
くだらない事かもしれないが、俺は心の中で“こういうのはやっぱり、可愛い女の子とかじゃないと画にならないな”と、ろくでもない事を考えていた。
<勢大、そういう趣味は私としては眉をひそめざるを得ませんが?>
いやいやそんな趣味ねぇよ俺も。
『……つまり、生きているか生きていないかで言えば“生きている”だが、ここからの復帰は難しい、って事か?』
「あー、……んと、まぁ、そんな認識でだいたい合ってる?かなぁ?
肉体的な活動は全て停止してるんだけど、魂はあの水晶体の中に閉じ込められてるから、魔力抽出や能力を使うための箱とか装置、っていうイメージが近いのかなぁ?」
人間を1人、ただ不正能力を吐き出すための装置にしやがったのか。
想像よりもグロテスクなソレに、俺は言葉もなく見上げるだけだった。
失礼しました。
投稿していないことに今気づきました……。




