604:反撃開始
次々と砲身から吐き出される弾丸で、頑張ってこちらへ走り寄ろうとしてくる骸骨共がバラバラになっていく。
たまに、上空から高速で近付くボロ布を纏い大鎌を持った骸骨達もいるが、銃身をわずかに動かしてそいつ等も同じ様に粉々にしていく。
なんせこちらには、マキーナが算出した移動予測線付きだ。
次々と指定される場所に弾丸を置いているだけで、あちらから勝手に当たりに来てくれるようなもんだ。
(……しかし、こっちの敵は異様に弾丸に弱いな?
飛び道具も撃ってくる様子は無いし……?)
クロガネの方は逆に、言っては何だが平均的な悪魔だった。
接近戦を仕掛けてくる獣型に遠距離の砲撃を仕掛けてくる飛行型と、バランスの良い攻撃方法だ。
それに比べて竜胆の方は武者鎧で刀を持った骸骨に大鎌を持った死神風骸骨と、やたらと接近戦主体だ。
『……終わったぞ、これで少しは話せるか?』
モノの数分で骸骨共をバラバラにし、敵がいなくなった事を確認して振り返ると、竜胆は足元に魔法陣を敷き、魔力を回復させている。
あ、俺これ知ってる!
“ダメな奴は何をやってもダメ”みたいな必殺技持ってる、何かの2D格ゲーのキャラがやってた回復方法だ!
「……田園殿、何か今変な事を考えていなかったか?
いや、まぁいい、とにかく助かった。
この骸骨共は魔法や魔術ダメージへの耐性が異常に高い代わりに、物理的なダメージにはこの通り非常に脆い奴等でな。
クロガネとも何度かスイッチしてたんだが、侵攻のタイミングをあちらとこちらで合わせてきたり、どこかに偵察用の使い魔でもいるのかすぐに襲ってくる悪魔の軍勢を入れ替えられたりとな、中々に厳しい状況だったんだ。
……しまいにゃあのバカ、途中で通信機を壊すしな。」
最後の言葉には非常に強い殺意がこもっていたが、そこは大人としてスルーする。
あぁなるほど、後で怒られると解っていたからどこか他人行儀な感じだった訳か。
『じゃあ、こういう感じで俺が両方の助っ人に入りつつ、悪魔の群れを殲滅し続ける感じか?』
「いや、“強い3人目がいる”というならば、もっと手っ取り早く事態を片付けたい。
田園殿、この通信機を付けてくれ。
それと、あのバカにもこれを。」
竜胆は2つの通信機、ワイヤレスのハンズフリーイヤフォンのような物を俺に渡す。
1つはマキーナが吸収すると、俺の視界に新たに“通信中”という文字が表示される。
「……そのボディアーマーは優秀だな。
そういう物があるなら、異世界というのも面白いのかもしれん。
いつか、俺も異世界とやらに行ってみたいものだ。」
感心したような、どこか遠い目をしながら竜胆は俺を見る。
何となくこいつに余計な感情を抱かせたような気がしなくもないが、今はそれどころじゃない。
『……そんな良いもんじゃねぇぞ?
どこの異世界も、転生者が好き放題暴れて、世界の寿命を縮めやがる。
俺が渡り歩いてきたような世界は特にそうだ。
“世界の敵”だの、“世界の異物”だのと、転生者はあんまり歓迎されてないぜ?』
「む?そういうモノなのか。
解った、もしも異なる世界に行った時には、きっと影から世界を支えよう。
“人の存続”を大切にし、繁栄する未来を思い描こう。
……まぁ、そんな事が出来れば、だがな。」
真顔しか見せたことのない竜胆が、クスリと笑う。
珍しいモノを見た驚きに動きが止まったが、それが彼なりのユーモアだと解るとそれに釣られ、俺も笑っていた。
『さて、それじゃ未来の転生者候補殿、俺は何をすればいい?
多少の荒事も、やってやらん事もないぞ?』
「あぁ、田園殿はあのバカに通信機を渡したら、一気に山を駆け下りてくれ。
その際に悪魔の軍勢と出くわしても、基本は放置していい。
この悪魔の波、恐らくは2人の召喚師が召喚し続けているはずだ。
田園殿にはそいつ等の内の1人を叩いてほしい。
次の軍勢を壊滅し次第、反対側の召喚師は俺とバカの2人で叩く。」
お安い御用だ、と、俺は笑う。
今言うべき事は言ったとばかりに、話が済むと竜胆はまた魔力の回復作業へと戻る。
俺はまた走り出し、屋敷をぐるりと半周する。
隻腕の大男、グレンデルも全ての槍を抜き取りきったらしい。
歩いて竜胆の元に向かう所をすれ違う。
よく見れば、丘の周辺はどこもかしこも焼け野原だったり木々がなぎ倒されているが、屋敷そのものにはダメージがない。
悪魔の力を借りているとはいえ、あの軍勢が何度も襲いかかってきているのを、守りきっている証拠だ。
(少しは、楽をさせてやるかねぇ。)
そんな事を思いながらクロガネの元にたどり着くと、クロガネは縁側でいくつもの弁当を広げ、ただ黙々と食事をかっこんでいる。
『……何か、この絵面だけ見るとフードファイトかバトル漫画の主人公が復活してすぐ飯食ってるみたいだな。』
「あん?何だよ?
ずっと戦ってて飯食ってねぇから、ハラ減ってるんだよ?
んで?順ちゃん元気だった?」
先程までの厳しい空気は消え、クロガネはいつもの少し緩んだ空気感をまとっている。
どうやら、かなり回復出来たらしい。
『大馬鹿野郎にこれを渡してくれってよ。』
俺はそう言うと通信機を放り投げる。
クロガネは器用に箸でそれをキャッチすると、“やっぱ怒ってるかー”と、どこか呑気に口走る。
「まぁ、あれは不慮の事故だったしなぁ……。
順ちゃんウルセェから……あぁいや、それでオッサンはどうするんだよ?
こっちよりは順ちゃん手伝ってやってくれよ。
さっきイツァム・ナーを戻せてスカアハが呼べたから、こっちは何とかなるぜ?」
[いや、田園殿は別働隊だ。
お前はこのまま俺と防衛継続だ。
ただ、お前は次の防衛が終わったら、スカアハを置いてこちらに来い。
そろそろペイバックタイムと行こう。]
クロガネが縁側から飛び降りると、俺が貸した日本刀を軽く振るう。
「ははっ!そいつぁいいや!
流石にもう飽き飽きしてたところだからよぅ!!
……シルキー。」
伏し目がちな家政婦姿の美女が、俺に手のひらを向けると何かの光を放つ。
暖かくて、優しい光だ。
<特殊効果、アナザーブーストモード、起動します。>
マキーナの宣言で、俺のボディスーツが赤く光る。
ただ、いつものように視界は赤くならないし、空気が何かを阻害することも、会話が遅く聞こえることもない。
「シルキーの補助魔法の効果は30分ってところだ。
それまでに何とかしてくれや。」
クロガネは照れくさそうにそっぽを向く。
やれやれ、男のツンデレなんぞ、可愛くもなんともねぇがな。
『なら、期待された分くらいは手伝ってやろう。』
俺は静かに走り出す。




