603:救援
『よぉ兄弟、随分と楽しそうじゃねぇか。
俺も混ぜてくれよ。』
駆け寄ろうとしてくる獣型の悪魔を振り返りながら蹴り飛ばす。
頭から先を吹き飛ばされた獣型は、黒い液体をまき散らしながら宙を舞う。
「へっ、良いのか?
俺達はオッサンから見たら、若いガキをたぶらかして戦わせる、ちんけな悪党だぜ?」
羽の生えた悪魔が急降下しようとしてくるが、足元に落ちていた小石を拾うと親指で弾き、撃ち出す。
俺の手元からまっすぐに飛んで行った小石は、悪魔の眉間を撃ち抜く。
『フン、てめぇの事をちゃんと“小悪党”と認識している奴は大好きだ。
もしも正義の味方を自称していたら、俺がトドメをさしてやる所だったけどな。
……戦況は?』
「見ての通りだよ。
もうかれこれ3時間くらいか、いや5時間か?
とにかく、ずっと波のように雑魚悪魔がやってきやがる。
タチの悪い事に、ほんの少し休憩できるくらいの不定期な余裕までありやがる。
緩急つけてきやがるのが、マジで腹立たしいぜ。」
地味に嫌な事をしてくるな、と素直に思う。
ずっと攻められ続ければ、それはそれで死に物狂いになる。
決まった数量、決まった間隔、決まった時間ならルーチンワークになる。
だが、数も感覚も時間もランダムになると、それだけで精神は消耗する。
いつ来るかわからない、どれくらい来るかわからない、いつまで休めるかもわからない。
わからない事、というのは、それだけで心に負担をかけるのだ。
しかもマキーナが観測するに、ここは異界化しており外界とは違う時間の流れをしているらしい。
マキーナが想定するに、クロガネは既に丸一昼夜近く戦い続けているらしい。
とうに時間の感覚が麻痺するくらいには、コイツも戦い続けているらしい。
少し気の毒になってくる。
『……あの、魔法使いの兄ちゃんはどうした?』
「……順ちゃ、いや、竜胆の奴は反対側で食い止めてるよ。
たまに側面からくる敵を薙ぎ払ってる炎が見えたから、まだ生きてるんじゃねぇかな?
俺が貸したグレンデルの反応も消えてねぇし。」
左手に持ったガンタイプPCの画面を見ながら、クロガネはどこか他人事のように呟く。
見た目以上に限界は近いようだ。
励ますためにも更に話しかけようとすると、背後から無数の物音と殺気の塊を感じる。
「……やれやれ、次のがおいでなすったな。」
刃こぼれが酷くなったマチェットを持ち上げ、クロガネがよろよろと構える。
『そうか、じゃあ少しボーナスタイムだ。』
俺は振り向くと、左足を持ち上げ、大地を大きく踏みしめる。
轟音と共に、大地がわずかに割れる。
『マキーナ、ブーストモードだ。』
<ブーストモード・ファースト、起動します。>
赤くなる視界。
透明な粘土に包まれたように、空気が俺の体を押さえつける。
止まった時間の中で、襲い来る悪魔の頭に、緑色のマーカーが次々と表示される。
『百歩神拳・改、ってな。』
緑色のマーカーが表示された場所に向けて、次々と拳をふるい、空間を押し出す。
押せる空気がなくなれば、粘つく空気の壁の中を数歩動いて、また同じ事を繰り返す。
全てのマーカーが表示された空間を押し終えると、俺は元の位置に戻る。
<ブーストモード・ファースト、終了します。>
「……は?え?」
クロガネが困惑する。
それはそうか。
襲っていた悪魔の群れが、全て突然頭が破裂したのだ。
確かにこれで驚かない方がおかしいか。
『どうせ相手の事だ、アンタが戦って勝てるギリギリを見越した時間で設定しているとしたら、これで少しは回復できるだろ?
アンタの悪魔も、もう少し召喚できるなら呼んでおけよ。
さて、竜胆は裏手にいるって言ってたな。
ちょっとそっちに行ってくるわ。
……あ、後これ。』
俺は左手の手甲の隙間から、黒い刀身の日本刀を抜き取るとクロガネに渡す。
マキーナに再現させた、どこかの世界で使った日本刀だ。
『この戦いの間だけ貸してやる。
それなりにいい切れ味だからな、間違って自分を切るんじゃねぇぞ?』
「俺は小学生か!!
……ありがとよ、借りといてやる。」
俺はヒラヒラと手を振ると、屋敷をぐるりと回りこみ、裏手に向かう。
裏手に向かう最中、全身から無数の針を生やした隻腕の大男が、片膝をついて休んでいるのが見える。
クロガネのグレンデルだ。
針に見えたのは槍で、この巨体に刺さっているとスケール感がおかしく感じられていたのだ。
(……ってー事は、竜胆は今直接……あ、いた。)
「クソッ!次から次へと!!」
大鎌を振り回すボロ布をまとった骸骨の攻撃を、紙一重でかわす竜胆の姿が見える。
かわした着地点を、武者鎧を着込んだ骸骨が駆け寄り、刀を振り下ろす。
『スットライークッ!ってな。』
拾った石を全力で投げつけ、鎧武者の骸骨の胸を吹き飛ばす。
支えを失った骸骨は、鎧と共にバラバラと崩れ落ちる。
『ってかお前等、俺と見た目が被ってるんだよ。』
俺に振り下ろされた大鎌の刃を掴んで止めると、そのまま握りしめて砕く。
困惑しているらしいボロ布をまとった骸骨の顔面を殴りつけて粉々にする。
それでも動いて俺に抱きつこうとしてきたので、そのまま回し蹴りで胸部を蹴りつける。
胸骨の奥にこぶし大の水晶のようなモノがあり、それが砕けると同時に支えを失ってバラバラと崩れる。
『おぉ、なるほど、こいつ等は胸の奥が弱点か。
しかし、数が多くて面倒だな。』
<それでは勢大、こういうのはどうでしょうか?>
マキーナが右手の手甲を変形させる。
形状が変化し、これもやはりどこかの世界で見た、旧式の手回し式のガトリングガンが発生する。
『オイオイ、ずいぶんレトロな物を出してきたな。
まぁ、それでもこいつ等相手には十分か。』
右手首の下から伸びた金属の棒を地面に突き刺し、砲身を安定させる。
左手でレバーを握るとそれを回し、次々と弾丸を吐き出させていく。
「……助けて、くれるのか?」
『あぁ?悪いがもう少しデカい声で話してくれ!!
コイツは型が古いガトリングガンでな!!
うるさくてかなわねぇぜ!!』
バリバリと弾丸を吐き出しながら、その破裂音に負けないくらいの大声で俺は竜胆に怒鳴る。
本当は唇の動きをマキーナが解析していたし、何なら聴力の強化もしているから竜胆の言葉は聞こえていた。
それでも聞こえない、わからない振りをしたのは、俺の照れ隠しだったのかも知れないが。
失礼しました。
寝落ち寸前で書いていると、今までのUI感覚で保存までは出来ても、新UIだと投稿までたどり着いておらずでして……。
もう少し慣れます。




