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異世界殺し  作者: Tetsuさん
光から呼ぶ声
603/832

602:トオノ家防衛

タバコを燻らす、白いスーツの男がボンヤリと一軒家の縁側に座っている。

その家は古風ながらもしっかりした造りで、中々の大きさだ。

眼の前に広がる庭も、広さの割によく手入れされている。

小さな池や石灯籠もおいてあるが、池の水は澄んでおり石灯籠には苔一つ無い。


だが、咥えタバコのままのその表情には何も浮かんでおらず、開いた目も豪勢な庭を見ているわけではなく、何処か遠くを見つめている。


その姿勢のまま微動だにせずにいると、左手に握っていたガンタイプPCから、不意に警告音が鳴りだす。


「……クロガネ。」


「……あぁ、来たみたいだな。」


先程までは確かにいなかったはずなのに、いつの間にかクロガネの隣には背筋をピンと伸ばし、両腕を後ろで組んだ黒いスーツの男、竜胆が佇んでいた。


クロガネは、ガンタイプPCを持ち上げると緩慢な動作で何かを入力する。


「……来い、グレンデル、シルキー、イツァム・ナー。」


隻腕の大男が、家政婦のような姿をした伏し目がちの妙齢の女性が、そして全身が燃え盛る炎で出来た巨大なイグアナが、音もなくその場に現れる。


「なぁ順ちゃん、これの勝率はどう見る?」


「……聞きたいか?」


“いや、止めとくよ”と、力なくクロガネは笑う。

自分達だけが生き残るなら、どうとでも戦いようはある。

それこそ、一箇所に留まらずに戦場を目まぐるしく動かし続け、連戦での各個撃破を狙えば数万の軍勢だろうと勝てる自信はある。

だが、彼等の所属している“我々”と呼ばれている組織から命じられた内容はこの場所の死守。


つまり自分達はここから動く事も出来ず、有利な戦場を構築する事すら出来ないのだ。


この場所、モリヤ家は、多少小高い丘の上に立つ一軒家だ。

ただ、それ故に東西南北どこからでも攻める事ができてしまう。

それを自分達二人だけで防衛するなど、到底不可能だ。


「……ここらが、俺等の年貢の納め時、ってヤツなのかね?順ちゃん。」


「俺が知るかよ。

それで?敵の数は?」


クロガネは皮肉げに“聞きたいかい?”と笑うと、それを見た竜胆は何も言わずに懐から呪符を数枚取り出す。


「いや、聞くだけ無駄だったな。

これを持ってろ。

爆裂術式が組み込んである。

面倒そうなやつに優先的に使え。」


「お、サンキュー。

じゃあ代わりだ。

“グレンデル、竜胆順太郎に従え”。

まぁ、上手く使ってくれや。」


竜胆は軽く頷くと、クロガネの横を通り抜ける。

その竜胆の後を、重い足音を響かせながら隻腕の大男が続く。


竜胆が去ったのを見送ると、クロガネは縁側に突き立てていたマチェットを抜き取り、立ち上がる。


吸っていた、いや、咥えていただけのタバコを捨てると、足で揉み消す。

チラとガンタイプPCの画面を見れば、正面と竜胆が向かった背面側に、真っ赤な面が広がっている。


本当は赤い点で悪魔の存在を示すのだが、数が多すぎるのだ。

それらは重なり合い、真っ赤な面として広がっていた。

今は正面と背面だけだが、そのうち左右の側面からも来るだろう。


「ヤダねぇ、宮仕えってヤツは。」


ガンタイプPCを腰のホルスターにしまうと、シルキーに援護の魔法を、そしてイツァム・ナーには正面を薙ぎ払う炎の魔法を指示する。


「さて、どこまでやれるか、ショータイムと行こうか。」


意志の力が漲るクロガネの目には、全速力でこちらに向かってくる、獣型の悪魔の姿が写っていた。






「……妙に静かだな?」


俺は、走りながら独り言を呟く。

咲玉学園からタマキの実家に、走って移動していた。

なぜだか今日に限っては流しのタクシーを拾えず、それしか方法がなかったからだ。

ただ、それでも違和感を感じていた。

深夜に近い時間とはいえ、いつもはもう少し人の喧騒というか、音が聞こえる。

無死も、鳥も、その他の生物も、何一つ声も音も聞こえない。

まるでこの周辺の生き物全てが死に絶えたか、或いは何か恐ろしいものを前に、じっと息を殺してそれが過ぎ去るのを待っているかのような、異様な静寂だ。


<大規模の人払い、そして異界化の術がかかっているようです。

現在トオノ家に向かっていますが、近付けば近付くほどその術の影響が濃くなっています。>


マキーナはそう説明するが、いまいちピンとこない。

それと現在の状況が、どう関わってくるのか。

いや、人払いは解るのだが、それもこんな広範囲に影響を及ぼすものなのだろうか?


<トオノ家を中心として、この世と隔離され始めている、と言えば解りますでしょうか?

もう、現時点でも勢大はこの世とあの世の境にいる、という事です。>


マキーナの言葉の意味が、走り続けていると徐々に理解できてきていた。

周囲の建物や該当の光が、dondon灰色になっていくのだ。

そして、体の内側に違和感というか、寒気の様な物が強く強く感じられる様になってきていた。

まるで、“肉体と魂が僅かにずらされている”様な、気持ちの悪い違和感だ。


<勢大、そろそろ通常モードに変身してください。

このままでは、辿り着く前に勢大の精神力が大きく削られます。>


そういう大事な事はもっと早くに言ってほしいぜ。

俺はジャケットの内ポケットから名刺入れより少し大きいくらいのサイズの金属板を取り出し、走りながらへその下に当てる。


「オーケーマキーナ、通常モード、起動しろ。」


<通常モード、起動します。>


全身を薄い光が包みいつもの姿、通常モードへと変身する。

通常モードに変わった事で、先程迄の寒気は収まっていく。

俺は少しだけ安心すると、大きく息を吸って吐き出す。


<勢大、見えてきました。>


マキーナが指定する方向を見ると、黒い集団が丘に向かって我先にと殺到している。


『なんだ?アレ?』


<あの丘の上にタマキの実家、トオノ家があります。

殺到のされ方を見ると、目的地がどうなっているかは判別不能です。>


俺は走りながら、右拳を軽く引く。


『シッ!』


鋭く突き出した拳は、その拳の分だけ空間を押し出す。

押し出された空間に立っていた良く解らない生き物達は、皆頭と胴体が離れる事によってバタバタと倒れていく。


『スキマが出来た!一気に駆け抜けるぞ!!』


俺は倒れた妙な生き物を踏みしだきながら、俺は丘を駆け上がる。

同じ様に無数の奇妙な生き物の頭を胴体から切り離しながら、俺は目的地にたどり着く。


元々は整った、奇麗な庭だったのだろう。

芝生は焼き尽くされ、池らしき水たまりは真っ黒な液体が満ちており、無数の奇妙な生き物の死骸が浮いている。

近くにある石の残骸は、残った破片から灯籠らしきモノなのではないかと推測出来るが、真っ黒な液体でめちゃくちゃに塗りつぶされている。


「……ハハ、オッサン、夜のお散歩かい?

この辺は物騒だぜ?」


赤いまだら模様の白スーツを着た、クロガネが片膝をつきながらこちらを見て笑う。

左目は切り傷で塞がっており、傍らには片腕の無いシルキーがクロガネに向かって手のひらをかざしている。

すぐ脇には、焦げたイグアナ?らしき爬虫類の死骸も転がっていた。

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