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異世界殺し  作者: Tetsuさん
光から呼ぶ声
601/831

600:次の狙い

「さて、お前等を呼んだ理由、ちゃんと解っているよな?」


俺が背もたれに体重を預けると、ギシリとパイプ椅子が鳴る。

それなりには鍛えているからか、俺の重みにパイプ椅子が悲鳴を上げているようだ。


夕暮れの校舎。

手狭な部屋には会議などで使われる長テーブルがあるが、流石に学生5人は収まりきらないからか、両端の学生は座った姿勢がそのまま見えている。

昨夜のSOGAビル下での遭遇から、俺は例の五人組を進路指導室に呼び出していた。


ここは学生の将来の相談に乗るため、教師とマンツーマンで面談するための部屋だ。

ただ、こういう用途でも使われることがあり、学生達の間では“お説教部屋”だの“懺悔室”だのと呼ばれている事も知っていた。


ただ、この部屋は音楽室並に防音設備が整っている。

これからしようとする、内緒の話をするにはもってこいの場所だった。


「センセー、ここ禁煙だよ。」


懐からタバコを取り出し咥えた俺に、ヨシジがつまらなさそうに呟く。

俺はライターを取り出しかけたが、そのままポケットにしまう。


「火をつけてねぇからセーフなんだよ。

そんな事で話をすり替えるなよ。

お前等はあの時、SOGAビルの中から出てきた。

あの時何があったのか、ちゃんと説明をしろ。」


俺の言葉に、5人は顔を見渡す。

言うべきか、言っても信じてくれないのではないか、そんな表情が数人から見える。


「あのなぁ、お前等……。

じゃあいい、質問を変えよう。

次に(・・)狙われるのは(・・・・・・)どこだ(・・・)?」


明らかに5人に動揺が走る。

それまで無言で、表情一つ変えなかったヤシオ トウマ君も含めてだ。


「……お前等、もう少し表情を隠す訓練はしておけよ?

俺が“組織”の連中だったら、お前等が何かを隠しているのは一目瞭然だ。

どんな手を使ってでも、情報を引き出してやろうという気にさせてしまうぞ?」


少しだけ、5人の警戒心が上がる。

あぁ、イカン、こういう言い方は無駄に誤解させるだけだな。


「別に俺は“組織”の連中と繋がっている訳じゃねぇ。

何なら“ストレングス”とかいう着流しの外人に襲われたくらいだしな。

それに、本当の事を言うなら“我々”とか言うおかしな組織の二人組とも行動を共にしている。

お前等が出てきたSOGAビル、あそこには俺達も潜入していたんだよ。」


その後、俺は竜胆とクロガネから聞いた話をざっと説明した。

コノハナサクヤの事も、ギルガメッシュの事も。

そして、いくつかの神社が音信不通になっている事も。


「……さて、これが俺の知る情報の全てだ。

これ以上も以下も、本当に何も無い。

次はお前等の番だ。」


また、5人は顔を見合わせる。

だが少し観念したのか、センジュ君が口を開く。


「その前に先生、先生はどちらの味方ですか?

今のお話を聞いていると、先生は“組織”には狙われていますが、必ずしも“我々”の側、葛ノ葉の仲間、という訳ではないと思えるのですが。」


「良い所に気がつくな。

流石はエスパーって所か?

あっと、まぁこれは俺が気付いたわけじゃなくてな、例の2人組……どっちだったか、まぁいいや、口軽いのはクロガネとか言う奴の方だろう、そっちから聞いた話だからな?

文句を言うならクロガネに言ってくれ。

まぁ、それで、俺がどっちの味方かって言うなら、俺はどちらの味方でもねぇ。

強いて言えば、俺は転生者を探している、って所だ。」


もうこいつ等になら言ってもいいか、という感情で、俺は自分自身が異邦人であると明かす。

俺の旅の本当の目的、転生者を探し出して、この世界が崩壊する前にあの“神を自称する存在”との接続を切る事、そして、それさえ叶えば後はどうでもいい事、を話す。


「そんな……どうでもいいだなんて。」


絶句するのは少し小太りのアオイ キョウスケ君だ。

確か、アオイ家は神職の親を持つ家だった記憶がある。


「そうだ、どうでもいい。

この世界は転生者が来た時点で改変が行われた世界だ。

それをどうこうするのは、この世界の転生者の考え次第だ。」


酷い言い方だが、渡り歩いてきた世界の数が多すぎる。

いちいち個別の世界にまで、感情を向けていられない。


「本当に、そう思っているんですか?」


タマキ君が、目を伏せながら少し震える声でそう呟く。

“なぜそう思う?”と俺が問うと、しっかりと俺を見つめる。


「それなら、何故先生は竜胆さん達を手助けしたんですか?

どうでもいいなら、それを助けないで見放す事だって出来るじゃないですか?

先生は結果的に、私達を助けてくれました。

それは、この学園の教師だからですか?

それとも……。」


「わぁかった、もういい。

話は終わりだ。

全員、帰っていいぞ。

今後は、深夜に出歩いて、ご家族に迷惑をかけないように。

話は以上だ。」


俺は乱暴に長テーブルを叩くと、話を終わらせる。

もういい。

これ以上深入りはしない。

SOGAの、ヤマナミだかウマナミだかを見つけ出して、とっとと締め上げよう。

そしてこの世界からさっさとオサラバだ。


ノロノロと進路指導室を出ていく学生達。

最後に部屋を出ようとしたタマキは振り返り、そして俺を静かに見つめる。


「“組織”の次の狙いはワタシの実家です。

そこにはスサノオノミコトと同一視される神、ツクヨミの力が封じられた大刀、“吉次(ヨシツグ)”が眠っています。

私達は実家の地下に眠るその剣を見つけに行く予定です。

でも、その間実家は無防備なまま。

……先生、もしよければ助けてくれませんか。」


それだけいうと、タマキは部屋を出ていった。


<……勢大、どうしますか?>


マキーナが静かに俺に問う。

俺は、やり場のない怒りを長テーブルにぶつけるのだった。

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