598:子供達の本当の能力
「さぁね、内容によるんじゃねぇかな?」
俺はクロガネを睨んだまま、竜胆の問いに答える。
クロガネが前衛で、竜胆は後衛。
竜胆の行動には詠唱が存在、或いはもし詠唱が必要ない魔法があったとしても、予備動作が必ずある。
それに比べると前衛のクロガネは、予備動作とも言えるマチェットの抜刀は既に済んでいる。
現状の危険度はクロガネが上だろう。
「……内容か。
ではこういうのはどうだ?
これら全てが計画通り、だとしたら。」
警戒と殺気を薄め、竜胆の方を改めて見る。
「田園殿、そちらの世界にも、スサノオノミコトの伝説はあるか?」
俺は頷く。
そうでなければ、スサノオが祀られているという場所にギルガメッシュがいる事に違和感を……いや、まぁ感じるか。
いやいや、そうであったとしても、もし俺がいた世界にスサノオの電翔が無かったら、その事も含めてハテナマークが頭に出ているだろう。
天つ神として地に降りたスサノオは、そこで国つ神としてあがめ奉られる。
天と地の特性を持つスサノオは、強大な力を持つ象徴とも言える。
「そうだ、強大な力の象徴でもあり、そして不死性の象徴でもある。
先の話の通り、コノハナサクヤは強大な力を持っていても、その力は有限だ。
“死という枷を持っている”からな。」
理解できる部分と、理解できない部分がある。
コノハナサクヤ、という悪霊の行動がこの事態の元凶なのは理解できる。
更に、その悪霊がスサノオノミコトの力、特に不死性に注目してその力を奪おうとしているのも、今の言葉で理解できた。
ついでに言うなら、この間のギルガメッシュとの一件。
あれも、これに繋がる話なのだろう。
地中に眠るスサノオの力を守るためにギルガメッシュを使い、そこに力が集まらない様に散じている、という事だ。
この町に住む人間の様々な感情、特に負の感情をSOGAのオンラインゲームを使って収集している事と合わせれば、かなりの流れが解ってくる。
それでも。
何故、あの子等がここに潜入する必要があるのか、その意味がわからない。
「……“我々”は、常に最高の状況と、そして最悪の状況を考えて行動している。
このままスサノオに集まる力を散じ続け、そしてコノハナサクヤを見つけ出して討てば終わり、これが最高の状況。
そして想定しうる、最悪の状況。
当然、スサノオを復活させてしまい、その力をコノハナサクヤに取り込まれ、世界を書き換えられる事、だろう。
そうなれば、この国は、いや世界中が、もう一度神話の時代からやり直しだ。
いや、下手をすれば“別の神”に権利を譲り渡し、“地球創生”からスタートする事になるだろう。」
竜胆が言うには、既にスサノオを完全に封じ込める方法は失われているらしい。
例の、周辺を護る神社のうちのいくつか、それが“組織”の手に渡っていると想定されることから、六芒陣は既にその能力を発揮しきれないらしい。
まだ各神社が抵抗しているのか、かろうじて効力は失われていないらしいが。
ただそれも時間の問題らしい。
そうなると、スサノオの力がコノハナサクヤに渡る事だけは阻止しなければならない。
その場合の阻止する手段として、彼等の能力の覚醒が必要だと言うのだ。
「……何故だ?
あの子等は確かに特異な能力があるかもしれねぇが、ただの学生だぞ?
何でこんな違法な鉄火場に連れてきやがる?」
「そうでなければ無理だからだ。
実戦の場においてのみ、神格は覚醒する。
あの五人の中に、“神殺し”の能力に覚醒できる者がいるはずなのだ。」
あの5人は、実は誰もが“神殺し”の力を持ちうるという。
聞けば、モリヤ タマキは“神殺流”という武道の流派らしい。
あの暗い少年、カシワ ヨシジは、何と言う流派でも無いらしいが、俺が来る前、前任の罠により窮地に立った修学旅行で、異界の神に対して有効打たる投擲術を見せたようだ。
その他、あまり関わりのなかった残りの3人も同様だ。
ヤシオ トウマという学生は実家がヤシオ一刀流という剣道の道場をやっており、そこは彼等のいう“我々”という組織で長く退魔師をやっていた奴が師範代としているらしい。
その他、神主の親を持つアオイ キョウスケと、そして“我々”という彼等の組織でも、センジュ エイトという学生の能力は解明されていないという。
「解明されてない?なんだそりゃ?」
「その通りだよ。
神の力でも魔の力でもない、人間にしか備わっていない力。
……そうだな、田園殿に解りやすく言うなら、“超能力”という所か。」
手を触れずに物を持ち上げたり、イメージした場所に瞬間移動したり、という力らしいのだが、竜胆曰く“心霊力や魔力の類を使わない、これまでになかった力”と言うやつらしい。
人類の新たなる可能性として、彼等の中でも注目されているそうだ。
「言い方は悪いかも知れないが、子供達に実戦を経験させつつ、危険そうな状況なら救済する。
それが第一目標だ。
そして、最悪の事態、スサノオの力を取り込んだコノハナサクヤに対抗するための武器、スサノオと同一視される神“ツクヨミ”の力を秘めた武器の所在。
それの情報を集める事が第二目標だった、と言えば、田園殿は理解を示して頂けるか?」
(マキーナ、判定は?)
<体温、汗、息遣い、視線、どれも虚偽の反応は出ていません。
隠蔽されている可能性は否定できませんが、現状、全て真実として竜胆氏は語っていると思われます。>
俺の直感もマキーナと同様だ。
完全に信じ切るにはもう手遅れだが、それでもこの言葉に嘘はなさそうだな、とは感じていた。
「ここで要石を倒したのも、その一環って訳か?」
「そうだ。
恐らく、いま頃上のフロアで彼等と、何とかというオンラインゲームの開発者が戦っている筈だ。
この要石がある限り不死性を有し強大な力を振るう事が出来るだろうが、こうしてしまえば一巻の終わり。
最早普通の人間レベルの力しか出せない筈だ。」
[おぉのぉれぇ〜!!!
アタシは!!アタシこそがぁぁぁ!!!]
そんな話をしていると、オカマ口調の叫び声が聞こえる。
窓際に寄ると、地面に黒い液体が飛び散りゃ、中央に誰かが横たわっていた。
「あー、順ちゃん、アレ倒しきれてねぇな。
そのうち復活して逃げちまうぜ?」
同じく窓際に近寄ったクロガネが、殺気はそのままだが口調は元通り軽く、これからの予測を告げる。
それを聞いた竜胆は、軽く頷く。
「逃げられてここでの事を漏らされても面倒だ。
クロガネ、やっちまえ。」
クロガネは獰猛な笑顔を見せると、持っていたマチェットで窓に穴を開け、そこから飛び降りる。
結末は知るべきだろうと、俺も同様に飛び降りる。
<出来るなら、エレベーターかエスカレーター、或いは階段を使ってほしかったですね。>
確かに、ここはビルの10階だったか。
そこから飛び降りてピンピンしている人間を目撃されたら、それはそれで面倒な事になる。
「オーケーマキーナ。
次から気をつけるよ。」
夜の闇の中で、マキーナのため息が聞こえた。




