595:覚醒者
「……解らない?何が?」
「いや、ヤマナミが転生者だと仮定するだろ?
そうするとな、ヤマナミがやっている事が、ちょっと今までの異世界と違いすぎて目的が解らないんだ。」
クロガネがこれまでの経緯を説明している最中、どうしても疑問に思う事があって口を挟む。
クロガネが言うには、この場所をヤマナミが指定した理由というのが、“大いなる存在の力を借りるため”という、他の役員や重役もいまいち理解出来ない内容だったらしい。
そう聞いて、この世界に来てから、いやこの世界の状況を理解できるようになってからずっと疑問に思っていた事が、ようやく俺の頭の中で形を成す。
“転生者”とは、まさしくソイツのために世界が再構築された世界に降り立つ者だ。
多分ここも、転生者が自ら望んだ世界なのだろう。
なんとなくではあるが、“元の世界に近しい現代文明の中で、神と悪魔の戦いが繰り広げられている環境”というのが、ここの転生者の望んだ世界観、というような気がしている。
それなのに、これまでの話を聞いていると、どうにも転生者の意思が見えてこない。
転生者は大体が単純だ。
“認められなかった承認欲求を満たしたい”
“抑圧されたから、異世界ではワガママを通したい”
“思う存分、性欲を発散したい”
大抵そんな事が行動原理だ。
それから比べても、やろうとしている事が随分と不明瞭で、不確実な様に感じられる。
いや、なんというか、“別にこんな事をしなくても良いのではないか?”という疑問をずっと感じているのだ。
「そうか?
悪党の考える事なんざ今も昔も変わらず、世界征服だの大いなる力だの、そんなモンなんじゃねぇの?」
「そこだよ。
転生者は、殆どの場合“悪党側”じゃなくて“正義の味方側”を望むんだ。
いや、ちょっと違うな。
仮に最初は悪党を気取っていても、結局最後は“皆のため”だの“仲間のために”だのといった、自分が認めた人間にだけウケる正義の味方、ってヤツになりたがるんだ。」
たまに、人類側から見て“悪”の側に転生するヤツもいる。
それでも、そういうヤツでも自分が活躍する事によって“人類と共存する世界”だったり、“人類を支配する世界”だったりを創り上げる。
「つまり、田園殿はヤマナミが前に出てこない事がおかしいと言いたいのか?」
「そうだ。
転生者ってヤツは自己承認欲求とやらが特に強い。
自ら進んでか嫌々か、或いは無自覚なフリをしている事があっても、その欲求だけは変わらない。
だから、これだけ前に出て来ないのは不思議過ぎるんだよ。」
どう見てもこの世界、あの学生達5人の方が物語で言うなら正義の主人公側だ。
そして“組織”やらSOGAやらは悪役側。
悪役として“人類を支配したい”なら解るが、それもしない。
ましてや神を自称する存在から貰った“不正能力”がある。
こんな、“その土地の悪神を蘇らせる”なんて方法を取る必要がない。
「……なるほどねぇ。
俺達が生きてきた過去が全部嘘っぱちで、その転生者とやらに勝手に書き換えられたってのはどうにも理解ができねぇけどよ?
まぁ、だとしても、“組織”の連中が何かやろうときてて、それをSOGAの奴等が一枚噛んでるってんだろうから、ここを調べりゃ何か出るんじゃねぇか?
それにそろそろ、あの子等も動いてる頃だろうしな。」
その言葉に、俺は警戒の視線を飛ばす。
まさか、こいつ等。
「おい、“あの子等”ってのは、どういう意味だ?」
クロガネはしまった、という顔をする。
ソレをみて、竜胆はため息をつく。
「田園殿、今貴方が言った通りなんだよ。
“我々”では、これは解決出来ないんだ。
どうにも、ここでの“主役”は彼等らしい。
俺達は、いや“我々”は、彼等に状況を好転してもらうしかないんだよ。」
「……“我々”ってのは、何だ?
あの子等には、何があるって言うんだ?」
竜胆は静かに語る。
あちらの、“組織”という存在。
あれは古くから世界中の各地に存在し、“今ある神から過去に存在した神々へ世界を還そう”という勢力を束ねた存在らしい。
各地にある様々な名称の勢力を纏め上げた集団のため、名前を持たずただ“組織”と、呼ばれているそうだ。
そして、彼らの言う“我々”。
これはつまり、“組織”とは真逆の存在。
“今ある神々のもとで生きる人類を守る”という事を目的に、世界各地の様々な勢力を束ねており、こちらもつまりは名前を持たず、ただ“我々”と呼称しているそうだ。
「まぁ、この国を管理している勢力として、“葛ノ葉”という上位存在はいるが、俺達はそっちには属してはいない。
そことはまた別の勢力に属しているが、結局大元まで手繰れば“我々”との繋がりもある、と。
理解できたか?」
少し脱線した話も入っているので理解が難しかったが、まぁ要は世界の転覆を狙うデカい勢力と、それを阻止するデカい勢力がやりあっている、と言うことなのだろう。
それとどうやら、彼等5人はこの世界における異能力者、“覚醒者”と呼ばれる存在らしい。
彼等の言う“我々”側の人間は、こういった人間を確保し、正しく力を伸ばしてやる、という事も目的の1つ、らしい。
そうだとすると、また新たな疑問が浮かぶ。
もしかして、上げたと思って寝ちゃってた感がございます…。
失礼しました。




