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異世界殺し  作者: Tetsuさん
光から呼ぶ声
583/832

582:新しい時代の悪魔

非常灯すらつかない真っ暗な闇の中、学生達の悲鳴が響く。


(マキーナ、あちらさんの姿は見えているか?)


<勢大から見て正面上、先ほどのカプセルから湧き出すように出現しております。

視界同調が必要ですので、変身してください。>


俺はポケットの中の金属板を取り出すと、へそ下に当てる。


「マキーナ、通常モードだ。」


<通常モード、起動します。>


へそ下に当てた金属板から赤い光が走り、俺の全身を駆け巡る。

線と線の間が薄く光り、その光が収まった時には黒いラバースーツのような素材が身を包む。

そして胸当てや肩当て、手甲や足甲などの要所を銀の防具で固めた、いつもの姿になる。

最後に頭部に光が集まり、髑髏の意匠のメットが現れて、変身が完了する。


<視覚同調、実行します。>


変身が終わると、すぐさま視覚が強化され、ただの闇だった周囲が、ナイトビジョンのように緑色の立体物として浮かび上がる。


『……何だか、絵に描いたような悪魔だな?』


闇に浮かび上がる存在。

5台か、6台の学生達が入ったカプセルから太くて光る糸のようなモノが伸び、その光る糸が天井近くで集まって人の形を成している。

人と言っても、背中には蝙蝠のような羽が生え、頭部は犬のように鼻先が伸びており、しかも耳元まで口が裂けている。

あれだ、さらわれたプリンセスを救うために、何故か同じルートを2回通らなきゃクリアできない、あの騎士のゲームに出てきた赤いアイツによく似てるんだ。

しかし、どうやら力が不十分なのか腰のあたりまでしか実体化出来ておらず、腰から下はカプセルから伸びる太くて光る糸状のままだ。


……贄……贄を……


脳に直接響くような音が鳴る。

これを声と呼ぶには、少し、いやかなり違和感がある。


『察するに、まだ下半身が出来上がるほど力を吸収出来てねぇみたいだな。

神か悪魔か知らねぇが、超常の存在が人間サマにおねだりするようじゃ、終いだぜ?』


飛び上がり、なりそこないの悪魔に右のストレートを一撃。


……放つつもりが、その体をすり抜けてカプセルの向こう側に着地する。


『おいマキーナ!これじゃ攻撃できねぇじゃねぇか!!』


<不十分な実体化の影響となるようです。

今のアレは、実体化しているように見えますが、実際は電子の幻影のようなモノと推察されます。

完全に実体化されれば、勢大の攻撃も通ります。>


つまりはカプセルの学生達からの“何か”を、完全に吸い取られるのを待てってか。




ふざけるな。




それが体力だろうと生命力だろうと感情だろうと、これ以上ビタ一文たりとも渡すわけにはいかねぇ。

相手の思い通りにさせてたまるものか。


<とはいえ、今のままでは手の打ちようがありません。>


俺が攻めあぐねていると、暗闇の中を一筋の光が走る。


「グ、グォァォァ!?」


悪魔の右目に向かったソレは、通り抜けることなく悪魔に刺さり、苦しみもだえる。


(……そうか、あの銀のダーツか!?)


[……フッざけるんじゃないわよ!!]


本当に一瞬。

光る糸がぐにゃりと歪み、人のようなシルエットを作る。

女性らしいシルエットのそれは、体を丸め何もない空中でありながらステップで踏み込むと、背面を悪魔にぶつけるように叩きつける。


(……あれは鉄山靠かな?

確か八極拳だったか、太極拳だったか……?)


本当に一瞬の出来事。

踏み込んでからの背面の一撃を悪魔に浴びせ、すぐさま半回転して悪魔の頭を蹴り上げる。

ただ、そこで光はほどけて元の光る糸に戻る。

悪魔は何事かを呟きながら、フラフラと上半身を揺らす。


(そうか、中で戦っているのか。)


俺は拳を握ると、腰を落として構える。


『シッ!!』


子供が頑張っているのだ。

大人が何もしないでいてどうする。


俺は飛び上がると、まだふらついている悪魔の前でバレエのダンサーの様にスピンする。


『マキーナ、“複製しろ”。』


空中でコマのように回り、その回転力を使って回し蹴り。

狙いはもちろん、悪魔の目に刺さった銀の矢(シルバーダート)だ。


「ギッ!?!?」


悪魔が短く悲鳴を上げる。

俺の回し蹴りは狙い違わず、キッチリと銀色のダーツを蹴りつける。

ダーツの矢は、目を突き抜け後頭部から飛び出して、壁に突き刺さる。


悲鳴を上げた悪魔は目を押さえてのけ反り、苦悶の声を上げる。


<解析完了、拳に複製します。

……一瞬すぎます、次回からはもう少し猶予をいただけるとありがたいですね。>


『おぉ、前向きに善処して検討してやるよ!!』


回し蹴りを放ち、ゆっくりと回転しながら着地する。

着地と同時に、右の手甲、拳骨に当たる部分が鋭くせり上がり、4本の太い針となる。


『へっ、どっかで見たことあるぞ、これ。

熊のクローとか言って、これを使ってる超人がいたな。』


一人呟くと、もう一度飛び上がる。

狙いはがら空きになった腹部、……だけではない。


『飛燕、二段突き。』


右拳で、悪魔の腹部に思い切り拳を突き立てる。

半実体化している程度だからか、腹部は派手な音を立てて背中まで貫く。

俺は右腕を打ち抜ききる前に引き、もう一度右拳を発射位置まで引く。


腹部が貫かれたことで悪魔は前傾姿勢になりながら、顔を押さえていた腕が緩み、離れていく。


『へっ、悪魔も人間と同じような反応するんだな。』


右拳を打ち出し、二射目を放つ。

拳骨部分から伸びる鋭く尖った4つの太い針は、悪魔の顔面に突き刺さり、そして突き抜ける。


「グォォァォァァ!!

まだだ!まだ足らぬ!!

我が身を完全に!!」


悪魔が霧散していく。

完全に仕留めた実感はない。


『……逃げられた、って方が正しそうだな、これは。』


<勢大、施設が復旧します。>


おっとそりゃイカン。

このままじゃ良くて変質者、悪けりゃこの事件の犯人にされちまう。

俺が慌てて変身を解くと、ちょうど施設の電源が復旧する。


「え、えー、皆様、大変失礼いたしました。

突然の停電で驚かせてしまいましたが、今は電力も安定していますのでご安心ください。」


コンパニオンが、何とか平静を保とうとしながらこちらに話しかける。


「いやー、突然真っ暗になって焦ったー。」

「何か変な音した?誰か怖がらせようとしたでしょー?」

「え?いや何も聞こえなかったけど?」


コンパニオンのセリフに、いやいやそんな訳に行くかい、と思ったが、学生達の反応を見て察する。

“認識出来ていない?”


チラとヨシジ君の表情を覗き見ると、彼だけは表情が硬い。

そして、手の中に隠してはいるが、先程の銀のダーツをいつの間にか回収しているようだった。


(彼だけは認識している、って事か。)


「せ、先生っ!!来てください!!」


ヨシジ君に気を取られていると、他の学生が俺を呼ぶ。

やれやれ、何が起きているんだ。

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