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異世界殺し  作者: Tetsuさん
光から呼ぶ声
581/832

580:状況整理

「……どう見る?マキーナ?」


「ヒアリングした状況がその通りであるならば、5人の学生達は転生者ではない可能性が強いかと思われます。」


“だよなぁ”と呟きながら、ため息代わりに煙を吐く。

手すりから下を見下ろせば野球部の学生だろうか?

グラウンドで学生達が汗を流し、青春を謳歌している。


校舎の屋上、基本学生達が立ち入れないこの場所でタバコを吸いながら、先程の授業での話を思い返していた。


俺が赴任する前、前任の担任が行ったという林間学校での一件の事だ。


端的に言うなら、超常現象を体験した、という事だ。

前任は、子供達を地元に眠る“神”と呼ばれる存在の生贄にしようとした、という事らしい。正体不明の物の怪に襲われ、学生達も何人も向こうに飲み込まれ、誰も彼もが“もうダメだ”と覚悟を決めた時に立ち上がったのが、例のあの5人だったらしい。


また、ここは妙に皆の記憶があやふやなのが気になるが、どうやら現地には同じ年齢くらいの白髪の少女?らしき存在がいたらしい。

あの5人も、どちらかといえば“自分達が生き残るため”というよりは、“あの子を助けたいんだ”と、周囲に言っていたらしい。

特に“助けたい”と言っていたのはあのダーツ遊びをしていた少年、ヨシジ君だという。


「……多分何だが、ここの転生者は碌でもない奴、なんだろうな。

だから、世界があいつ等っていう“カウンター”を用意した。」


<でしょうね。>


マキーナが短い言葉で全てを肯定する。

タバコをもう一口吸う。


やってられない、という気持ちも煙と一緒に吐き出す。


<どうしました?“自称悪党”の勢大。

彼等は転生者に対抗しうる、世界が用意したカウンターです。

先程のような弁舌で、彼等に取り入って転生者にぶつけるべきだと思いますが?>


マキーナをここから投げ捨てたい衝動を抑えつつも、タバコをもみ消して近くのバケツに投げ入れる。


しかし沈黙に耐えられず、俺は頭を乱暴にかく。


「……あのなぁ、俺は確かに悪党だがよ?

それでも、超えちゃいけない一線は守ってるつもりだ。

ガキを利用して戦うなんざ、そりゃもう悪党の領域超えてるぜ。

そりゃもう、ただの悪でしかねぇよ。」


<その区分は理解できません。

そこに何の違いがあるのでしょうか?

同じ悪でしょう?

それに、世界が彼等に力を与えたというのなら、その役目を任せるに足る存在と認識したという事です。

何の問題が?

それとも、勢大にとって、この世界は特別(・・)なのですか?>


何も言わず、手すりに拳を叩きつける。

派手な音がして、グラウンドの学生達が一瞬こちらを向く。


俺は何でもないジェスチャーをして、下からの視線を散らす。


「……それ以上は止めろマキーナ。」


<勢大、人間であり続けようとするのは不便だと思いませんか?>


マキーナが突然良くわからない事を囁く。

何を言っているのか解らず、タバコを取り出す手が止まる。


<この世界でも、人は神を作ろうとしています。

これまでの数々の異世界でも、人は神に成り代わろうとし、神の如き振る舞いを好みます。

あなたには既にその力が備わっているのに、何故神に至る道を選ばないのですか?>


またか、と少し思う。

いつからか、マキーナは事あるごとに俺に“神になる気はないか”と聞いてくるようになった。

どうやら、マキーナにとって俺の行いは誠実で、博愛に満ちたものに見えるらしい。


「……あのなぁ、マキーナ。

俺は、俺の道の上に立っているだけだ。

俺は俺のやりたいように生きて、そしていつか力及ばず死ぬだけだ。

俺の人生はそういうものだ、と、そういう風に割り切ってる。

俺の人生はその程度で良い。

これで神にでもなって、それこそ永遠に誰かの為に生きるのだとしたら、それはもう俺じゃない。

……いつも通り、その話もここで終いだ。」


<そうですか。>


この会話は基本延々と終わらない。

毎度こうして俺が打ち切り、そしてマキーナが少し不機嫌に返す。


<しかし、私はそうではないと思ってますよ。

“誰かのために”をここまで繰り返せる存在を、私は勢大の他に知りません。

殆どの転生者が私利私欲のために生きている中で、あなただけが“多くの人間を救うため”に奔走している。

そのあり方は、恐らく多くの人間には希望と写るはずです。>


今回は珍しく、いつものオチにはならなかった。

いつも通り不機嫌に返したと思ったら、余計な一言がついてきた。


タバコを取り出し、火をつけて一口吸うと、俺は空を見上げる。

夜に向かう青紫の空。


俺はこの空が嫌いだ。

同じ紫の空なら、日が昇る前のあの暗がりがいい。

朝の始まりか、夜の終わりか。

あの、曖昧な空の色の方が俺には似合っている。

この夕闇の空は、俺には陰影がハッキリとし過ぎてる。


「そりゃあ、お前の買い被り過ぎだよマキーナ。

俺はそんなに高尚な事は望んじゃいない。

元の世界に戻って、妻と二人でこじんまりと人生を生きてる、ただの小市民だよ。

……それくらいがお似合いだ。」


マキーナが黙る。

どうやら今度は本当にこの会話を諦めたらしい。


「……何にせよ、あのガキ共のネタも割れた。

多分、あの空間を作れたヤツ、多分SOGAに関連してる誰かが転生者側って事で間違いないだろう。

まず探すのはそっち側からだな。」


あの、マキーナが探せなかったという空間。

あの時は“地下への入口かよ”と茶化したが、そんな事はない。

マキーナの探知能力なら、“地下への入口”という事を把握できるはずだ。

それが把握できず“探知不能エリア”と認識した、ということがそもそもおかしい。

ならば“マキーナの能力が突破出来なかった”あの場所を作れるヤツの方が、かなり転生者に近い。


そして恐らく、転生者がこの世界にとって害と認識されているなら。

……転生者を止めれば、カウンター役の子供達も危険な思いをする事は無いハズだ。


「……そうであって欲しいがね。」


<何か?>


いや別に、とマキーナに返し、SOGAの広報にアクセスする様にマキーナに指示する。

先日の事件はまだ世間的に大々的なニュースにはなっていない。

恐らくはSOGAが後ろでメディアに金を回し、報道規制を強いたのだろう。

いくつか信憑性のないゴシップ紙が騒いでいるだけだ。

なら、“学生の体験会”とでも銘打てば、連中もイメージアップのために喜んで飛びつくだろう。

……彼等も、少しは調べやすくなるはずだ。


「やれやれ、何で余計な事を考えるのかねぇ。」


俺はため息とともにタバコの煙を吐き出すと、バケツに吸い殻を投げつけつつ、歩き出す。


さて、このアイデアを職員会議にかけなきゃだな。

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