573:俺ツエェ!!ってまぁ、こうなるよね
「あ、ホラ、セーダイさん!また敵が出て来ましたよ!」
嬉々としながら、自分よりも強い魔物が近付いてくるのを指差す少女。
見た目は満点なくらいに可愛い。
でもなぁ、とため息をつく。
中身が女だったら、どれほど楽しかったか。
他パーティの危機を救い、颯爽と現れた俺!
圧倒的な力に、おだてる他パーティ。
ここまでは、良かった。
なんなら、良くあるチートプレイヤー系の物語の導入にもなりそうだ。
だが実際、現実はそう甘くない。
全員女の子のパーティだと思っていたが、話しているうちに何と全員、アバターを女性キャラにした野郎達の集まりだと解った。
しかも全員30代のおっさん。
剣と魔法の異世界の経験があるばっかりに、見た目が女性であれば俺はどうしても女性を守ろうと動いてしまう。
そうして、彼女等……いや彼等が倒せない魔物も難なく倒せてしまう。
それで経験値と彼等ではまだ手に入れられないアイテムを入手できてしまったから、さぁ大変。
いわゆる、“強いプレイヤーへの寄生行為”が始まってしまう。
これまでの道中、彼等は何もしていない。
何なら棒立ちで俺の戦いを観戦していたほどだ。
俺としてはサッサと彼等の案内する街とやらに向かいたかったのだが、さっきから妙に道を間違えやがる。
進行方向と逆に行こうとした時は流石に注意したが、彼等は気味の悪い笑顔を浮かべるだけで悪びれる様子もない。
「このまま行けば前線組にも……。」
「フヒヒ、これはラッキーな……。」
「このままボスエリアまで……。」
先を歩く彼等のヒソヒソ話が聞こえる。
いやもうちょっと声を落とせよ。
欲望だだ漏れじゃねぇか。
俺はため息を付くと、足を止める。
ガチャガチャと音を立てていた俺の鎧の音が止まったからか、不審に思った彼等がこちらを向く。
『お前等、俺を使ってパワーレベリングしてぇんだろうが、それもここまでにしてもらおうか。
ナンなら、次の魔物が出てきた時に、俺だけずらかってもいいんだぜ?』
その言葉に途端に顔色が変わる。
“この世界の事が解ってないからそんな事が言えるんだ”とか、“こっちだって必死なんだ”だの、挙げ句には“強いヤツのおこぼれに預かって何が悪い”と開き直る始末だ。
まぁ、チートオレツエエ系のお話は、“流石です”ってもり立てるヒロインがいないと成立せんわなぁ。
現実はこんなもんで、“いかに楽するか”しか考えねぇよなぁ。
<どうしましたか勢大?
モチベーションが下がっているように見えますが?>
『これでモチベが上がる奴がいるなら、俺はそいつを人として尊敬するぜ……。』
楽しい筈のチート系主人公ってヤツも、どうやら俺の性には合わないらしいや。
『お前等、知っている事を今この場で話せ。
でなければ魔物を呼び寄せてお前等にぶつける。』
マキーナの情報では、この世界ではプレイヤー同士には攻撃を当てても空を切るだけで、ダメージは無いらしい。
現実世界ならそんな事は当然あり得ないが、そこはまぁ、ここがゲーム世界だから仕方ないか。
「え、MPKはマナー違反ですぞ!
う、運営に言いつければBANされる行為ですぞ!!」
それでも、ちゃんと“プレイヤーを殺す方法”は存在する。
“MPK”
要は強い魔物を気に食わないプレイヤーの元に誘導し、その魔物に対象を殺させる方法だ。
当然、彼等が言うように運営に通報されればアカウントが停止されるような禁止行為だ。
だがそれも、“それが出来る運営が残っているなら”だろうが。
俺が黙っていると、観念したのか彼等のうちの一人がその場に力なく座り込む。
「お、お、お、お助けをー!ですぞー!!」
いや君、その喋り方何とかならん?
見た目可愛い美少女で、声も可愛い声なのに喋る言葉が古のオタク言語って、今どきそんなギャップ萌え流行らんからな?
『……何でもいい、助けるか助けないかは俺の気分次第だ。
良いからさっさと知ってる事を話せ。』
彼等も観念したのか、ようやく真相を話し出す。
何と、彼等はこのゲーム空間から脱出出来なくなっているというのだ。
この、ムービング・アナザーライン・クエスト、全身をすっぽりと覆う棺のようなものに入って遊ぶ、フルダイブ型のゲームということだ。
「あ、家庭用はヘッドギアと両手のコントローラーだけなんでヤンスが、こういう遊戯施設に置いてあるのは業務用の全身型なんでゲス。
業務用のは家庭用と比べて、その操作感覚や自由度がダンチなんスよ。
だから、家庭用も流行ってるのに業務用も大人気という、今までにないゲームなんでゴンス。」
とりあえず君、語尾統一しない?
その語尾のせいで、若干頭に話が入ってこないのよね。
まぁ、情報を調べていたマキーナからも似たような報告が入る。
このゲームが世界的に流行している事、マルチプラットフォーム型で、作業は家庭用、ド派手な戦闘を楽しむなら業務用、と、割と遊びわけがされているようだ。
そして、現在この施設のゲームが物理的に封鎖されており、オンライン風に見せかけたクローズドになっているらしい。
「で、で、で、街の皆で話し合って、脱出の手がかりを探しつつ、取り残されてる仲間がいないかと探しに来たんス!
これはマジッス!」
別の仲間が口を開く。
まぁ、この焦り様を見ると、そこまで嘘は言ってないようにも見える。
『……なるほど、それでついでに街の奴等にいいところを見せようと、俺を使ってパワーレベリングした、という事か?』
「そそそ、そーなんですよー!
いやー、実は僕等皆から雑魚扱いされてましてー!
これで強くなって帰ったら、ちょっと認めてもらえるかなー……なんて、ハハハ……。
……スイマセンッシタ!!!!」
四人が一斉に地面に頭を擦り付ける。
それはあまりにも綺麗な、そう、綺麗なDO☆GE☆ZAだった。
いやいや、それあきまへんで?
見た目美少女の娘さん達にそれやられたら、もうこっち何も出来なくなるからね?
ある種それ逆の暴力よ?
『……わかった、もういい。
とりあえずサッサと街まで案内してくれ。
適当に小銭稼ぎは出来たろ?』
「ほ、本当ッスかぁー!」
「いやー、お兄さんいい人でヤンスね!」
「チョロいぜ」
「そうなんですぅー!これで少しは皆を見返せますぅー!」
オイなんか今一人おかしな奴いなかったか?
兜越しにジロリと睨むが、彼等は目を泳がせる。
『……疲れた。
ホラ、サッサと案内しろ。』
俺は肩を落とし、手首だけで“先へ進め”とジェスチャーする。
やれやれ、先が思いやられる。




