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異世界殺し  作者: Tetsuさん
自由への光
563/832

562:オンリ・ハジメの華麗なる冒険譚④(2/2)

「……申し訳ありませんが、チャンプ様はアポイントのある方かジムリーダーの方以外はお会い出来ません。」


「だから、俺はジムリーダーだよ。

ホラ、これ見ろよ。

オンリジムのリーダー、“ハジメ・オンリ”だ。」


“ジムリーダーのあかし”という、何故か“(あかし)”の文字がひらがなで書かれているカードを見せる。

この“ポコっとモンスター”の世界では、総合チャンピオンになると“チャンプ”という称号で呼ばれ、この世界で一番高いビルに住む事が出来、しかもジムリーダー以外は勝手に対戦を申し込めなくなるのだ。

その為に俺もわざわざ“一人ジム”みたいなモノを立ち上げる羽目になったのだが、まぁこれも不正能力(チート)コピーの為には仕方無い。


こんなキテレツな世界なのだ、きっと面白い不正能力(チート)に違いない。

それに、この文明力だ。

もし不正能力(チート)で組み上げているとしたら、他の世界で転用できるかも知れない。

もうなんか、住みやすい世界がないなら自分で作ればいいじゃない、パンが無ければケーキを食べれば良いじゃない!の精神になってきたのだ。


この世界も非常に文明的で過ごしやすく、居着くならこんな世界だな、と思える快適さなのだが……。


「いかんせんエロがなぁ……。」


性欲だって、発散させたいじゃない!じゃないじゃない!

っつーか、マジ不健全だと思うんスよ、自分。

抑圧されすぎたエロは、いつか爆発しまっせ、ヤマオカはん。

フフ、下手っぴさ、ここの転生者は下手。

欲望の解放のさせ方が下手っぴ。


……あぁ、イカンイカン、昨日の夜セルフプレイすら出来なかったからか、俺もちょっとおかしくなってきたわ。


いやさぁ、マジ聞いてよちょっと!


ナニをナニしてゴシゴシしようと思ったらさ、“プレイエリア外です”とか出てきてさ、握る事すら出来ねぇでやんの!!

洗ったり排泄の時は普通なのに!!

しかも洗うフリしてゴシゴシしようとしたら即“プレイエリア外です”ですってよアータ!!

何この仕様?設定した奴ぶっ飛ばすぞ?


あぁ、やべぇ、この無機質な受付嬢すら見てるだけでムラムラしてきたわ。


「……あの?

オンリジムリーダーさん?

チャンプがお会いするそうです。」


「あ、あぁ、それでは案内してくれたまえ、受付のキミ。」


考えを誤魔化す為に、ちょっと尊大な感じで受付嬢に対応する。

ちょっと不機嫌そうな顔をした受付嬢は立ち上がると、ビル中央にある側面が全てガラス製になっているエレベーターまで案内してくれる。


「こちらがチャンプへの直通エレベーターになりますので。」


うわ、ムダな構造してるな、これ。

なんだよ直通って。


まぁ、ファンタジー空間ならこれも仕方ないのか。

諦めて乗り込むと、僅かに不快な重力を感じながら音もなくエレベーターは上っていく。

静かにエレベーターが止まり、微かなノイズ音と共に扉が開く。


「……誰さん?

ここはチャンプの部屋だよ。」


痩せて青白い肌、ボサボサの髪に目の下のクマと、不健康を絵に書いたような青年がそこにいた。


「アンタがチャンプさん?

手っ取り早く言うけどさ、アンタ転生者だろ?

その不正能力(チート)、俺にコピーさせてくれよ。」


「あぁ?アンタ何者だ?

……まぁ、何者でもいいや、この碌でもない能力くらい、いくらでもコピーさせてやるよ。

……俺に勝てたらな。」


青年はニヤリと笑うと、見たことのない真っ黒なポコモンボールを取り出す。

まぁ、あれこれ説明するよりは手っ取り早いなと思った俺も、ポコモンボールを取り出して放る。


「こい、ミャースリー!」


「……まさか、実際にミャースリーを捕まえる奴がいるなんてな。

なら、俺はこれだ!

こい、“ミャーフォー”!」


いやいやいや、待て待て待て。

ミャーフォーとか、アニメにもゲームにもいなかったじゃねぇか。


その事を抗議するが、青年はニヤニヤ笑うだけだ。


「……なるほど、その黒いボール、怪しいな。

鑑定(サーチ)”!」


別世界で手に入れた不正能力(チート)を使い、ヤツの能力を覗き見る。




“良い勝負”

相手のモンスターよりも少し強いモンスターを必ず呼び出すことができる

このバトルの後、対戦相手が“名前持ち(ネームド)”の場合、その健闘を讃え能力所持者に心酔する

この能力所持者がバトルに負けた場合、対戦相手にこの能力は移譲される。

この能力が移譲された場合、世界は一旦常識的で平凡な世界へと再構築される

再構築後に、新たな能力所持者が世界の方針を決定する

※当異世界における限定能力




見ていて、“ん?”となった。

モンスター云々は別にいい。

問題はその後の文だ。


……これ、下手したら俺も心酔して、コイツに取り込まれるって事か?

しかも、必ず俺より強いモンスター出してくるって事は、普通に考えたら俺じゃ絶対勝てねぇじゃねぇか。

努力?根性?創意工夫?

んなもん、不正能力(チート)の前じゃ霞むだけだ。


挙げ句に“バトルに負けたら”とか、条件達成型の効果は結構強制力が強い。


例えば仮に“火炎攻撃を無効”という不正能力(チート)があったとしよう。

他方、“じゃんけんに負けた場合、火炎攻撃でダメージを負う”みたいな不正能力(チート)があった場合、効果を発揮するのは後者の方だ。

つまりこの例の場合、無効持ちもじゃんけんに負ければ火炎ダメージを食らう。

“条件達成型”は、難易度が上がれば上がるほど、その威力が先鋭化されていく、というイメージだ。

“この世界限定”で“勝負に負けた場合”という条件、特に“世界限定”は、その場所においてほぼ最強の強制力に近い。


それなら。


頑張ったって結果が伴わないなら、頑張り損だ。

このオンリ・ハジメ、“やる前から無駄だと解りきっている事はやらない主義”なんだよぉ!


「あ、やっぱいいや。

その世界限定の能力とか、俺興味無いし。

賭けが不成立だから、この勝負無効ね。」


三十六計逃げるに如かず、という言葉があるように、ここは逃げの一手だ!


俺はミャースリーをポコモンボールに戻すと、脱兎の如くエレベーターに駆け出し、下ボタンと閉まるボタンを連打する。


「待ってぇぇぇぇ!!!

勝ってよぉぉぉ!!!

勝ってこの能力奪ってぇぇぇぇ!!!

もうエッチなのが無い世界嫌だぁぁぁぁぁ!!!!」


物凄い勢いで転生者が追いかけてきたが、何とかギリギリエレベーターのドアが閉まり、静かに下に降り始める。


あっぶねぇ、下手なホラー世界よりホラーだったわ。


[ククク、絶対に逃さねぇぞぉ……。]


エレベーターが急停止し、何故か上昇を開始する。

しまった、あの部屋からコントロール出来るのか。


「てんっ……転送だっ!!」


俺は胸から下げたペンダントを握りしめると、別の異世界へと転送を開始する。

扉が開き、転生者が俺を掴む寸前、ギリギリで転送が間に合った。


危ねぇー……。

次からは、こういうのも警戒しないとだな。

オンリちゃん反省。


まぁ、あの転生者も何か叫んでいた気がするが、望んだ世界にいるんだ。

これからも楽しく過ごすだろう。


俺はサッサと忘れると、次の世界を楽しもうと、降り立った異世界を歩き出すのだった。

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