561:オンリ・ハジメの華麗なる冒険譚④(1/2)
「困ったなぁ……。」
俺はため息と共に、空を見上げる。
コンクリート造りのビルが立ち並び、そのビルの間と間を透明なチューブが通っている。
透明なチューブの中には、そのチューブの中を浮かんでいる電車らしき物体が走っている。
正直、小さい頃に見た空想科学系の雑誌にあった“未来の都市はこれだ!”みたいな風景だ。
「……こんなに発展しているのになぁ。」
俺はもう一度ため息を漏らすと、今の仮住まいであるホテルへと足を向ける。
「お前!オンリジムのオーナー、“オンリ・ハジメ”だな!
俺とバトルしろ!!」
まただよ。
ちょっと外を歩けばすぐコレだ。
「あー、ハイハイ、良いですよ。
そっちの準備は良い?
ハイそれじゃ“ポコモンバトル、スタート”ねー。」
俺は特にやる気もなく腰につけていたボール……おっと、前じゃないぞ?腰の後ろに専用装置があって、そこに接続されているボールだぞ?……から一つ取り出し、目の前に放る。
放ったボールが開くと、“ポコン”という音と共に中のモンスターが飛び出してくる。
「クッ!いきなり最強の“ミャースリー”を出してくるなんて!!」
白いヌルッとした、二足歩行のトカゲの様な俺のモンスターを見て、挑戦者は怯む。
「いや、そういうの良いから、サッサとお前もモンスターを出せよ。」
「クソッ!出てこいペケチュー!」
挑戦者もボールを放ると、中から真っ黒のネズミ型モンスターが出てくる。
ある意味どっちに転んでも危ない気がして、何故だか見ていてヒヤヒヤする。
「ミャースリー、“ひゃくれつけん”だ。」
本来ならモンスター同士にも相性があるらしい。
その相性により、効果が出なかったり、逆に凄い効果になったりするらしい。
だが、俺の持つこのモンスターにはそれがない。
有利相性が無い代わりに、不利相性も無くなっているのだ。
更にこのモンスターは、全てのステータスが999で固定されている。
他のモンスターが特化型で1つだけステータス500、後は10とか20でメタメタ、みたいなものだと考えれば、これの壊れ具合が解るというものだろう。
まぁねぇ、この“つよさ”はギリ解るとして、“すばやさ”とか“かしこさ”、果ては“うんのよさ”とか、誰がどう決めているのか超気になるんよね。
ステータスの1はどう決めてるの?
何?1馬力とか何かなの?
それだとじゃあ1馬力の“うんのよさ”って何なん?って話だ。
「クソッ!ずるいぞ!
絶対に手に入らない筈じゃなかったのかよ!!
お前も、アイツみたいなウルテク使いやがったんだな!!」
フッ、甘いな。
表示上は0%だが、実際はコンマ数%の確立でこのモンスターはゲットする事が出来るのだよ。
大丈夫、オンリさんの攻略だよ?
あと、ウルトラテクニックの略でウルテクとか、今の若い子に通用しないから、それ。
そんなインド人を右に行くような事を考えてしまったが、何故俺がここに詳しいのか。
“神の力”の存在もあるだろうが、それだけではない。
そう、ここは俺も転生前によくアニメやゲームで見ていた世界、“ポコッとモンスター”の世界そのものなのだ。
多分この世界の転生者は俺と同世代くらいなのだろう。
また、随分と熱心だったようで、大手掲示板などであった“この世界の住人達の生活はどのようなものか”まで、キッチリ再現されている。
ユーザー達が妄想していた二次創作的な設定も再現しているのを見た時は、感動すら感じたほどだ。
「……ただなぁ、エロがなぁ。」
せっかくの世界観再現、登場キャラ再現までしてあるのに、エロが無い!!
ポコッとモンスター、略称でポコモンの世界では、世界各地に主要な“ジム”が存在する。
そこのリーダーは大抵女性の事が多く、しかも皆きわどい衣装を着ていたりと、“少年の性癖破壊ゲーム”などと陰で言われているほどだ。
当然、アンダーな世界ではあられもないあんな事やこんな事になっている薄い本もあるのだが、ここの転生者はそういうのはお気に召さないらしい。
潔癖なのか元設定を遵守するタイプなのか、そっちの世界観までキッチリ再現しているのだ。
……子供は愛し合った男女が手を繋ぐと出来るとか、マジでそこまで低年齢対応の世界観再現しなくて良いから!!
「何を言っていやがる!
まだ俺とのバトルは終わって……!?」
「いや、無理だから。
力こそパワーだから。」
ミャースリーのひゃくれつけんが、挑戦者の最後のモンスターを撃破する。
これもゲーム準拠の設定なのだが、強くなって“モンスタートレーナーランキング”が上がると、その座を狙って挑戦者がどこからか現れるようになるのだ。
これが非常に面倒くさい。
流石に食事中や風呂入っている時、そしてトイレで狙われたりは“一応”無いのだが、道を歩いている時には高確立でこういうエンカウントが発生する。
“一応”というのは、外出を嫌って引きこもっていると、どんな状況でも強制的にエンカウントが発生しだすのだ。
正直、この世界最強のモンスターを前世の記憶から即回収したから、すぐにでもトレーナーランキング1位はとれる。
ただ、それをやるとエンカウントのダルさや転生者の目についてしまう可能性があるため、ある程度転生者の目星がつくまでは低ランク帯で探りを入れていた。
「く、クソッ!お前もアイツと同じ妙な強さをもってやがって!覚えてろよ!!」
(でもまぁ、もうそろそろ確定かな?)
このランダム挑戦者達、何故か勝てないくせに色々な奴と対戦しているのか、戦っている最中や終わり際に、こういった情報をポロポロ漏らす。
毎日最低一回以上のエンカウントがあり、挑戦者達のこういった話をポロポロと拾い集めると、俺と同じような“おかしな火力”を持っている奴が一人浮かび上がっていた。
ゲーム的な影響なのか、どのジム、どの対戦者も1系統のモンスターを使う傾向にある。
例えば草タイプとかの属性を持つジムとそこの参加者は、草タイプのモンスターだけで固めている、みたいなイメージだ。
草タイプの弱点属性は基本的に炎タイプなのだが、たまに炎タイプが弱点で無いモンスターもいたり、弱点属性を変えてしまう特技もあったりと、まぁ一筋縄にはいかなかったりする。
ただ、例の“おかしな火力”を持っている奴は、相手に合わせて的確な弱点属性のモンスターを使いこなし、しかも常に相手よりワンランク上のモンスターを出してくるという。
そこまで解れば、怪しいなんてモンじゃない。
もう転生者でクロ確定だろう。
そいつは俺とは違い凄いスピードでランキングを駆け上がっているらしく、“新進気鋭”とか“新たな英雄”という感じで、連日ニュースを賑わせていた。
「んじゃあ、明日にでも会いに行ってみますかねぇ。」
俺はサッサとホテルに引きこもると、明日までの時間潰しにとセルフプレイに勤しむのだった。




