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異世界殺し  作者: Tetsuさん
自由への光
557/832

556:後始末

<勝者、田園勢大。

人の子等よ、良い魂の輝きであった。

決闘(デュエル)の終了をここに宣言する。>


どこからともなくまた女らしき声が聞こえ、暗転していた空や地面が元の色を取り戻し始める。


「なん……何と言うことだ。」

「紫様が負けた……?」

「俺達はこれからどうすれば……。」

「あの、どこから来たかも解らない男が、俺達の新しい王なのか……?」

「そんな事よりも、俺もジュエルワスプを手に入れて来ないと……。」


どうやら先程までの戦い、俺達だけの別世界に飛ばされて誰も見ていない戦いだと思っていたが、立体映像的なモノで映し出されていたらしい。

だからなのか、ショックで思考停止している青の騎士や、目端の利くヤツはここから抜け出して新たな“人権カード”になりそうな、俺が使っていたジュエルワスプを狩りに行こうと抜け出し始めている。


「やれやれ、話が早くて助かるが、どう収集つけたもんかねぇ。」


紫は曲がりなりにもここの統治者だった。

ソイツがいきなり消し飛んじまったとしたら、混乱は必須だ。

転生者がいなくとも、世界は回る。

少なくとも、この世界の住人達はただ巻き込まれただけの被害者だ。

多少なりとも、自立できるようにしておかなければならないだろう。


<それでしたら勢大、私に良い考えがあります。>


“ワタシにいい考えがある”なんて抜かすヤツは、大抵ろくな事を考えていないだろうが、それでもノーアイデアの俺よりはマシか。

トラックがトランスフォームするあの司令官も、実際はそこまで失敗はしていない。

なら、マキーナなら滅多なことは起きないだろう。


「……解った、やってくれ。」


マキーナに任せると、俺の右目に何やら様々な文字が浮かんではスクロールしていく。

スクロールが落ち着いたと思ったら、近くの通信塔が怪しく光り、周辺の受信機からノイズが鳴り出している。


<あー、あー、ワタシはマザーコンピューター、お前達がM.A.Cと呼ぶ者である。>


マキーナが先ほどの決闘(デュエル)で聞こえていた女の声を模して、スピーカーから通信しているらしい。

右目にこれから言うセリフの文章が表示されると、その通りに音声が流れていく。


<民よ、この場所を支える市民よ。

この男、セーダイが新たな勝者です。

彼の言葉を聞きなさい。>


「マザー様の声だ!?」

「紫様にしか聞こえなかったはずでは!?」

「あの男が紫様に勝ったから、マザーの声が聞こえるようになったのか!?」

「まさか、あの男こそ救世主!?」

「セーダイとか言っていたぞ!」

「おぉ!セーダイ様!!」


民衆とは勝手なものだ。

既に壊れていたマザーコンピューターの声が聞こえただけで、様々な話題が広がっていく。

アレコレと勝手にストーリーが作られ、そうして多くの人間が俺に跪き始める。


(おい、これどうすんだよ!?)


<勢大、右目に表示されている文章を読み上げてください。>


「え、えーと……。

“お前等!いつまでもカードゲームで遊んでないで働け!”

え、ホントにこれで良いの……?……あ、そう。

“今この時より、カードによるバトルはサービス終了だ!”

“各自、この国を、この世界を立て直すために働け!”

“人間は、幸福を追求する必要がある!”

“これより、幸福は義務である!”

……おい、最後に何かヤバい事付け加えたろ?」


<さぁ?勢大の気のせいでは無いでしょうか?>


まさかマキーナが、あのテーブルトークの世界に近付けようとするとは思わなかった。


……ていうかそれやったらめっちゃディストピアになるじゃねぇか!!


<多分大丈夫です、……保証はしませんが。

それよりも、見てください。>


ずいぶん適当に丸め込まれた気がするが、マキーナが示した方を見て驚く。

跪いている民衆が持つカードデッキ、そこから光が放出し天に昇っていくのが見える。


「……どういう事だ?これは?」


<“神は言葉である”という事なのでしょう。>


昔、武の師匠から教わった事を思い出す。

“言霊”という言葉もあるように、俺達が普段使う言葉には力がある。

良い言葉をかけられた人間は幸福感に包まれ、良い結果を生みやすくする祝いとなる。

そして悪い言葉をかけられた人間は不幸感に苛まされ、悪い結果が生まれやすい呪いとなる。

それくらい、普段口にしている言葉というものは、気を付けなければならない。

確か、そんな教えだったと思う。


だがそうだとしても、この効果は強すぎる。

まるで……。


「あ、そうか、もしかしてこれがアイツの不正能力(チート)って事か。」


<恐らくは。

“言葉により世界を造り上げる”という能力だったのではないかと推測されます。

ただ、カードゲームのルールに関してはそれなりに真摯に取り組んでいたようですね。>


逆だろ?

カードゲーム以外はいい加減に創造していたから、こんなに酷い世界になってるんじゃねぇか。


そう言いたかったが、もう紫はいない。

ここで文句を言っても始まらないだろう。


「……そういえば、何でお前は(ヤツ)の能力を使えるんだ?」


<随分といい加減な能力だったようで、不正能力(チート)の殆どが、この壊れたPCと通信機器が無ければ使えない能力だったようです。

その為、これをハッキングした際に使用権限も含めて全て乗っ取る事が出来ました。>


やれやれ、本当にカードゲーム以外はどうでもよかったらしい。


いや、もしかしたら、心の内にあった欲望みたいなものだろうか?

アイツは人を殺す事にも快楽を感じていた。

多分それは、不意をついた殺人に感心が向いていたのだろう。

不正能力(チート)を使えば、確定で人を殺せてしまう。

多分だが、それを良しとはしなかったのだろう。


「……あんまり、理解したか無ぇ感情だな。」


<何か言いましたか?>


いや別に、と返すと、俺は跪いている民衆に向き直る。

まずはこいつ等に普通の生活……いや開墾をさせないと無理だな。

そう言えば、全てが終わったら自分の元に来いと言っていた爺さんがいたな。

アレはきっと、この時の事を言っていたのだろう。


<それに関しては勢大、この不正能力(チート)を使えば何とかなるかも知れません。>


マキーナの説明では、今見えているモノに関しての修正は恐ろしくエネルギーを消費するが、見えない部分、つまり地下であればそこまでのエネルギーの消費がかからないらしい。

それならばやらない手は無い。


「俺のエネルギーからも少し負担しておいてくれ。

この世界の負債はあまり大きくしたくない。」


<もちろんです。

この世界における勢大のエネルギーだけで十分事足ります。>


確かに、この世界ではカードバトルが殆どだったからなぁ。

と、ぼんやり思った時に思い出して、マキーナに頼み世界のステータスを呼び出す。

それは全てがグレーアウトしており、“閲覧不可”の表示が出ている。


「……おかしくないか?

転生者が死んだなら、この表示は自由に閲覧できたよな?」


嫌な予感がする。

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