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異世界殺し  作者: Tetsuさん
自由への光
555/832

554:絶体絶命

<……を発動します。

この効果により、勢大はステータス1の状態でフィールドに戻ります。>


「……はっ!?えっ!?

ど、どうなったんだ!?」


マキーナと違う女性のような声が聞こえ、意識が戻る。

一瞬何があったのか解らず、周囲を見渡し、喉元に手をやる。

突き刺されたはずの槍の跡は無く、俺の体も問題はなさそうだ。

ただ、手元の槍は無くなっていた。


「……ど、どういう事だ!?

決闘者(デュエラー)を復活させるカード”なんて、今まで見た事は無かったぞ!?」


対戦相手の紫も焦ってるところを見ると、誰もこの状態を飲み込めていない。


<勢大、手元にあったあのカード、“キンデリックの想い”の効果です。>


ただ1人、まぁ1人でいいか、マキーナだけが冷静に状況を説明してくれる。

慌てて消えかけているカードを見ると、“キンデリックの想い”と書かれたそのカードの、見えなかった特殊効果が追記されていた。


(なになに……“このカードは一度だけ、フィールドにいる全ての対象からこのカードが選んだ1体を復活させる、但しステータスは1になる”か……。)


フレーバーテキストに、“我が心を救ったお前に、微力ながら力を貸す”と書かれていた。




馬鹿野郎、粋な事をしやがって。




カードが光に還る。

もう二度と、こんな幸運は訪れないだろう。

だが、それで十分。

これで十分だ。


まだ(・・)終わっていない(・・・・・・・)


俺にはまだフィールドに展開されているモンスターと、手札がある。


「このターンはうまくはいかなかったが、まだ勝負は終わっちゃいねぇぞ?

俺のターンは終了だ。

さぁ引けよ紫。」


「う、うるさい!

ぼ、僕のターン、ドローだ!!」


紫は先程までの冷静さはどこへやら、あからさまに動揺している。

“自分の知らないカードが存在している”という不安が、紫に動揺を与えている。


「フフ、見たこともないカードに焦りましたが、そんな珍しいカードは複数枚手に入れる事は至難の業!

ならば、結果だけを見れば、自滅したアナタのライフは1しか残っていないという事!!

オーバーキルも甚だしいですが、このカードの真の姿を見て、そしてもう一度死ぬといい!!

まずは生産コストにカードを投入し!」


紫はそう叫ぶと、手札から1枚抜き取り、高々と天に掲げる。


「生贄魔法!“悪食”発動!!

場にいるアント・アーミーを生贄に、僕は更に生産コストを得る!!」


フィールドの蟻が地面に溶けると、ムラサキの生産コストが更に1増える。

4ターン目にして、紫は生産コストが6にまで跳ね上がっていた。

コスト6クラスとなると、伝説級も呼び出せるコストになる。

遂に紫の方も、自身の切り札を場に呼び寄せる気か。


「来い!“アーマード・アース・ドラゴン・ジャイアント”!!

虫けらと馬鹿にされたお前の!!

真の晴れ舞台だ!!」


暗い空に、更に真っ黒な暗雲が立ち込め、ヤツのモンスターに雷が落ちる。

次の瞬間、雷を受けたモンスターは一軒家……いや、数階建ての雑居ビル程度の大きさまで形を変えながら膨れ上がる。


昆虫の分厚くて頑丈な外皮を維持しつつ、虫のような爬虫類のような特徴が混ざり合った巨大な竜が、轟音と共に着地し現れる。

そのステータスの表示は50,000。

1万でも珍しいのに、5万ともなると確かに俺も見たことはない。

恐らく、ステータス強化などの追加をしない限り、他のモンスターではコイツは倒せないだろう。


「フフフ、どうですセーダイさん?

これが僕の誇る最強の手札、アーマード・アース・ドラゴン・ジャイアントです。

しかもね、先ほど生贄にしたレッド・アント・アーミーの効果がこいつに乗ることで、こいつは青と赤の2属性持ちに変わっています。

更に、“攻撃力上昇”は、アナタだけの特権じゃない。」


紫は残った最後の手札を表示する。

そこに書かれている文字は“ステータス5倍”。

その効果は俺が一番よく知っている。

ノーコストで、ノーリスク。

完全にバグか不正能力(チート)の世界だが、確かにこの世界に存在するカードだ。


だが、本来このカードの入手は“超希少”に位置しているらしく、戦士モードの時の初期設定は、いわゆる“救済措置”にあたるらしい。

その超希少カードを当たり前のように持っている所も、この男のいやらしさか。


「あぁ、勿論このドラゴンは“貫通”を持っていますよ?

どうですか、セーダイさん?

これこそが純然たる暴力。

さぁ行け!

“全てを滅ぼす地獄の業火、レヴァンティン・ブレス”!!」


ドラゴンは息を吸い込むと、炎のような黄色いブレスを俺に向けて吹く。

ステータスが5倍化され、25万まで跳ね上がったその攻撃が俺を襲う。


「クッ!罠カード!“蝶の鱗粉”!!」


相手の攻撃ターンに使用することが出来、1度だけ全ての攻撃を無効化するこのカード、配置しておいて助かった。

だが、それだけだ。

結局のところ、“このターンは生き残れた”というだけに過ぎない。

相手の脅威は何も変わっておらず、俺の場にはジュエル・ワスプが所在なさげにいるだけだ。


「ハハハ、そういえばペリーノアがそんなカードを持っていましたね。

しかし、それでどうするのです?

このターンは凌げましたね、おめでとう。

他にやる事もありませんし、これでターン終了してあげましょう。

でも、次のターンはどうですかねぇ?」


紫はニヤリと笑うと、ターン終了を宣言する。

俺のターン、どう進めていいか悩むが、それでもデッキからカードを引かなければ始まらない。


「俺のターン、ドローだ!!」


“何か良いカードが出てくれ”

そう願いながらデッキからカードを引き抜く。

手にしたカードは“存在進化”。

紫の話では、ジュエル・ワスプを進化させたところでステータスは5,000程度とか言っていた。

しかも特殊な何かがあるわけでもないとも。


(……とはいえ、もう俺にはこれしか道は無いか。)


生産コストに1枚を投入し、存在進化のカードを場に配置する。


ジュエル・ワスプの存在進化に必要なコストが“5”と表示されている。

ちょうど条件も揃ったと言えば揃った。

次のターンには貫通で俺と共に撃破されてしまうだろうが、せっかく一番最初に手に入れたモンスターだ。

コイツの進化した姿を見てやるのも一興か。


「紫、俺も存在進化のカードを手に入れることが出来た。

だからせっかくだ、俺はこいつを“存在進化”する!!

来い、……えっと、“エメラルド・パラサイテック・ワスプ”!!」


進化先のモンスター名を呼びながら、存在進化の許可を出す。

緑の炎がジュエル・ワスプから噴き出し、緑の火柱となる。

火柱がおさまった後には、人間サイズまで大きくなった蜂がそこにいた。

思わず見とれてしまう程、エメラルドグリーンの外皮の輝きが美しい、空飛ぶ宝石のような蜂が現れてくれた。

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