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異世界殺し  作者: Tetsuさん
自由への光
554/832

553:切り札

「クッ、飲まれてどうする。

俺のターン、ドローだ!」


予定通り“倍化”のカードを引く。

それを即使い、ステータスを2万から4万に引き上げる。

これで次の5倍化がくれば20万にまで到達し、紫のSPを上回る。


そのまま、すぐには使え無さそうな高コストのモンスターを生産コストに回す。

そのモンスターに見覚えが無かった事から、恐らくはペリーノアとの戦い以降、マキーナがこっそりカードを入れ替えたのだと思う。


念の為残った手元にあるカードを見ると、どれもやはり俺の手札ではこれまで見たことのないカードばかりだ。


“蝶の鱗粉”という相手のターン時に攻撃を無効化する配置型カードと、コストを支払う事で手札を2枚ドローする魔法カードが見える。

ただ、その2枚ドローする魔法カードの方は、表示がグレーアウトされているようで今は使えない。


<こちらは強制ドローの弊害の様です。

強制的に引くカードを取り終わるまで、こういった手札加速化のカードは使えないようです。>


“何で使えない表示になっているんだろう?”と疑問に思った瞬間、マキーナが助言してくれる。

なるほど、こういう所でもデッキを揃えていないのは不利に当たるのか。

とりあえず、使えないものを考えていても仕方がない。

紫の言葉がハッタリでないとしたら、そろそろ攻め入られてもおかしくはない。

俺は念のためにと、先ほどの攻撃無効のカードを場に配置する。


「俺のターンはこれで終わりだ。

いいのか?早めに何かしておかないと、次に俺の番が回ってきたら、それがお前の終わりの時だぜ?」


少し余裕を見せねばと、紫に揺さぶりをかける。

だが、紫は俺の言葉に動じる事は無く、冷笑を浮かべたままベルトのデッキからカードを引き抜く。


「僕のターン、ドローです。

セーダイさん、あなたのデッキはあくまでもスターターに、恐らくはペリーノアのデッキから一部を抜き取っただけでしょう?

しかも、最初の数枚は未だ強制カードのまま。

正直、何故自ら不利な行動を選ぶのか解りませんが、それでもそれ以外はデッキのネタが割れている。

しかも、よりによってアナタが出したのはペリーノアが残したモンスターではなく、スターターに残っていたまだマシな、それでもあまり強くないジュエルワスプだ。

正直なところ、このままセーダイさんの切り札を見てからでも、僕の勝利はみじんも揺るがない。

なら、アナタが一生懸命集めているそのクズ手札、全て見切ってから倒してあげようかと思っているところですよ。」


紫は冷笑を顔に張り付けたまま、さして興味もないようにカードを展開する。

生産コストにまた1枚投入し、そして魔法カードで追加の生産コストを1つ増やす。

これで紫の総合コストは4まで増えている。


「さて、今コストを消費して魔法カードを使い、生産コストに+1するカードを使ってしまいましたので、残りはコスト2、おぉ、ちょうどこのカードが使えるじゃないか!

来い、“レッド・アント・アーミー”!!」


紫はわざとらしく説明口調で独り言のように呟くと、手札からモンスターを召喚する。

真っ赤な外皮を持つ大きめの蟻型モンスター。


それを見て、ヤバい、と冷や汗が出る。

俺のジュエルワスプは緑の属性だ。

緑属性は青属性には強いが、赤属性には反対に弱い。

しかもあの蟻型モンスター、ステータスが3,000とコスト2のモンスターにしては能力値が高い。


「このレッド・アント・アーミー、 “燃焼”という特殊能力を持っていましてね。

倒された時に発動するんですが、味方一体に自身の赤属性も付与する、っていう、ちょっと面白い能力なんですよ。」


紫は自慢気に、召喚したばかりのモンスターの説明をしてくる。

それを聞いても俺には“あぁそうかい”としか答えられないが、それでもヤバいことは解る。


つまり、次のターンにあの蟻で俺に攻撃を仕掛け、俺がそれを倒したとしてもあのゴキに赤属性を付与され、続く攻撃で俺のジュエルワスプは倒せるという事だ。


「いいですね、無表情を装っていても、僅かに見え隠れするその焦り。

さぁ、その表情をもっともっと僕に見せてくださいよ!

僕のターン、エンドだ!」


やっとだ。

やっと巡ってきた。

何とか凌いだ。

俺はデッキからカードをドローする。

“ステータス5倍化”

予定通り、想像通りに手元に舞い込んでくる。


「おや?ずいぶん自信がありそうですね?」


ようやく紫はいぶかしげな表情をし警戒するが、もう遅い。

この勝負、俺の勝ちだ。


<勢大、念の為にカードを展開しておいた方が良いかと。>


マキーナに言われ、手札を見れば先ほどの魔法カードが使えるようになっている。

まぁ、これをしなくても勝つのは目に見えているが、少しは紫の奴を焦らしてやるか。


「まぁな、それなりに自信はあるぜ?

まずは生産コストに1枚投入する。

その後コストを払ってこのカードを使い、デッキから2枚ドローする!」


もう勝ちの見えた消化試合のような気持ちでカードをドローすると、以前に入手したあのカード、“キンデリックの想い”が手元に来る。

何か不思議なモノを見た気持ちになるが、そういうめぐり合わせもあるだろうと思いつつ、手札から生産コストを+1する魔法を使う。

これで本命以外の出来る事は大体やったか。

さぁ、それでは本命といこう。


「ペリーノアの奴もそうだったが、お前も強い自分を過信したか?

そうして過信するから、足元をすくわれるんだ。

俺はこのカード、“ステータス5倍”を俺自身に使う!!

これで俺のステータスは20万!!

お前の目の前にいる雑魚諸共、お前のシールドをぶっ貫くには十分な火力だ!!」


「……そんな手が。

それが、ペリーノアを倒した奥の手、ですか……。」


紫が驚き、初めて表情を崩す。

紫の顔が歪み、焦りのような苦悶に満ちた表情を見せる。

俺は槍を構えると、ばねが縮むように身を低く構えて力を溜める。


「そうだ!

受け取れ紫!!

これが俺の全力“貫通撃”だっ!!」


全身全霊の力で飛び出す。

槍の穂先がきらりと光り、目の前にいるゴキ諸共、紫の喉笛に刃を突き立てようと進んでいく。


「……お断りします。

トラップ発動、“ミラーワールド”。」


声すら出せなかった。

紫は指を鳴らすと、伏せていたカードが光る。

その光は瞬時に人の姿を形どり、それは槍を構えて突撃する俺と全く同じ姿になる。

全く同じタイミング、全く同じ動作で、俺とソレは互いの喉に槍を突き立てる。


意識が、暗転する。

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