549:再突撃
「マキーナ!!
ホントにこのバイク、大丈夫なんだろうなぁ!?」
<構造状態は把握しています。
このまま飛ばし続け、途中で一度休憩を挟めば明日の朝には中央に到着できます。>
あの後、3人を打ちのめしてから彼等のバイクを1台拝借し、そのまま中央へ向かっている。
それというのも、彼等と戦っている時に“キルッフ達抵抗組織が、もう一度中央に攻め入るらしい”という話が出たからだ。
瀕死の彼等を更に小突き、情報を引き出したところ、中々に面白い事が解ってきた。
どうやらキルッフは、始めからこうする予定だったようだ。
寄せ集めの抵抗組織を使って中央の戦力を消耗させ、その後で本隊を投入する。
本隊というのは、西の街の奴等だ。
つまりキルッフは、始めから西の街の人間だった、という事だ。
確かに一度攻め入られ、今は復旧している最中だろう。
“そんなに立て続けに襲ってくるはずがない”
という心理の穴を突いた作戦。
なかなか攻め方が解っている、良い手だとも思う。
俺の心情を別にすれば、だが。
彼等は“ここで真名を知ってももう手遅れだ、お仲間は一足先に戦いを仕掛けるそうだぞ”と言っていたが。
残念ながらもう、この世界に俺の味方も、仲間と呼べる存在もいない。
いや、いるとしたらマキーナくらいか。
<私はアナタを裏切りません。
もう少し信頼していただいても大丈夫ですよ。>
先程までの事を思い返していると、俺の思考を読んだマキーナの呟き。
不思議なものだ。
機械の無機質な音声のはずなのに、探るような、怯えが混じっているような、忠犬が飼い主に首を傾げて親愛を示しているかのような、不思議な音に聞こえる。
「こんな状況だ、もちろん信用してるぜマキーナ。
……でもマジで、さっきからこのバイク、変な音しねぇ?」
<はい、後10分ほどでオーバーヒートが見えてきます。
もう5分程このままで、オアシスまで辿り着いたら休憩となります。
これは勢大のためではなく、バイクのためです。>
やれやれ、休憩は不要だと言いかけたが、先を読まれてしまった。
仕方無しに言う通りバイクを走らせていると、言う通りのオアシスが見える。
本当にポッカリと、荒れ果てた大地に緑が生い茂っている。
「何か、不思議な光景だよな、こういうの。」
<そうですか?私にはただの環境破壊の残滓にしか見えませんが。>
主観の相違か、と笑いながら野営の準備をする。
バイクは相当に熱を持っていたため、自然に冷ましてから整備と補充を始める。
まぁ、俺はバイクなんか元の世界でも触ったことすらない。
全てマキーナ先生の作業指示のもと、手順に従ってただ手を動かしているだけだから、正直覚える事も無いだろう。
<勢大、以前の世界のように私と情報交換が出来ない環境も考えられます。
少しは覚える努力をお願いします。
後、毎回感じるのですが勢大の言う“先生”という単語には、若干の皮肉が混じっていますよね?>
ノーコメントだ。
まぁ、マキーナと情報交換できないとしても、その時あるもので何とかするだろ、という適当な気持ちのもと、マキーナの小言を聞き流して作業を進める。
作業が終わる頃にはすっかり夜も更ける。
俺の右目を使ったナイトビジョンモードがあるとはいえ、視界の見え方が違ってくるため、“もうここまで来たらなるようにしかならん”と開き直り、俺も体力温存のために休む事にするのだった。
<勢大、見えてきました。>
「あぁ、既にドンパチも始まってるみたいだな!」
バイクを走らせていると、中央の街、その城壁が見えてきていた。
そして、複数個所から立ち上る黒煙も。
バイクを走らせながら、城門に近付く。
幸い?というべきだろうか。
既に西の街を中心とした新生抵抗組織、いや、本隊か、そちらが攻撃を仕掛けていたため、城門は開きっぱなしになっている。
「あっ!おいお前!止まれ!!」
そう言われて止まるやつはいない。
私服やら防具付きやら、雑多で統一感のない装備の奴等が俺の前に飛び出してくるが、轢き殺す勢いで加速すると、あえなく道を開ける。
通り抜けざまにカードデッキをしょうかんすると、弓矢だの猟銃らしき音が聞こえるが、全ては見えない壁に弾かれていく。
決闘者を倒せるのは、同じ決闘者だけだ。
“これもシステムの悪用だろうな”と苦笑いしつつ、先を急ぐ。
<勢大、バイクが限界です。
それと、前方の人影に注意を。>
マキーナの声と同時に、小さな破裂音のようなモノがバイクのエンジンから聞こえると、それ以上加速できなくなり徐々にスピードを落としていく。
「ようし、よくここまで運んでくれた。
除隊を許可する。」
バイクを停めると、マキーナが言っていた人影やらのところに向かう。
また青クラスの騎士か誰かがいるのかと思いケイカイしながら近付く。
だが、そこにいた人影は、よく見知った人物だった。
「き、キルッフ!?
お前、よくも俺達を……。」
壁に持たれるように立っていたのはキルッフだった。
ここで見つけたら状況関係なく一発殴ってやろう、と、思っていた俺は小走りに近付き、そしてキルッフが腹から大量に出血している事に気付いてしまい、言葉が尻すぼみになる。
「よ、よぉ、お前、死んでなかったのか。
な、なかなか、悪運は強いようだな。」
「悪運って……。
お前こそ、何があったんだよ!?」
先程までの“会ったら殴ってやろう”という気持ちはどこかに吹き飛び、素早く近寄ると倒れ掛かるキルッフを支える。
見れば、腹に穴が開き、こぼれ出ている臓腑を抱えている。
どう見ても、もう助からない。
「へへ……、お前から、紫の名前が“シンゾー・ナカザト”と聞き出せたからな。
そこから“指名決闘”に持ち込もうとしたが、ご、ご覧のありさまだ。
……アイツ、シンゾー・ナカザトって名前じゃなかったぜ。」
それはそうだ。
その名は前世の名前で、とうに失った過去の記憶でしかない。
魂に刻み込まれていても、この異世界で祝福を受けた名前ではない。
それを、この男は知らなかった。
いや、知る筈もないか。
つまりは、この男を死地に追いやったのは、間接的に俺という事になるのか。
「……すまねぇ。
俺がもう少し説明しておくべきだったな……。」
「へ、へへ……、何言ってやがる。
お前を酔わせて情報を聞き出したのは俺だぜ?
最後に放り出す時に物資を融通したのも、俺の中にある罪悪感を少しでも薄くしたかっただけだ。
お前が悩む事なんざ、何一つ無かったんだよ……。」
口から血の泡を吐きながら、途切れ途切れになりながら、それでも余裕そうな口調でキルッフは笑う。




