表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界殺し  作者: Tetsuさん
薔薇の光
55/831

54:迷宮の奥に潜むモノ

30分は走っただろうか。

途中、トンファーで地面や壁面、天井などに傷を付けながら走ったところ、恐らく俺達はループさせられているという結論に達した。


途中、様々な罠にかかり敵とも対峙したが、その全ては強引に突破した。

また、途中までは罠の残骸や敵の死体などもあったが、今は出てくる敵もいない。


『この状況、どう思う?

俺が思うに、恐らく王子パーティは何処かに誘導された後で、俺等は“アイツらと合流させないように”終わらない転移をさせられているんじゃねぇかなぁ?と、思うんだけど。』


「同感ですね。

ただ頭の中で地図化していましたが、我々は恐らく外周をグルグル走っているのかなぁ?という感じです。

これは、打つ手なし、という感じですかね?」


いやこの人スゲえわ。

よくこんなワープゾーンまみれの状況で、冷静にマッピング出来るもんだ。


俺なんか、悪魔を仲間にして進むゲームのダンジョンとかで、ダークゾーンとワープゾーンまみれの場所とか、絶対攻略本見ないとクリアできなかったのに。


だが今は感謝しかない。

ネタが割れればこっちのモンだ。


『いや、そうでもねぇ。よく気付いてくれた。』


俺は、13号氏が言う“内側”の壁に手を添える。


『百歩神拳・改、と。』


百歩神拳が“空気を押し”て百歩先のロウソクを消す事を応用しての、“間にある物理的な存在そのものも押す”事は出来ないかと、前の世界でも暇なときに練習していたのだ。

他にも幾つかネタ的な技も編み出していたが、使い道があって良かった。

やっぱり、どんな些細なことでも人生役に立つもんだなぁ。


そんな事を思いながら、拳を打ち抜く。

てっきり拳サイズの穴が空くだけかと思ったが、打ち抜いた衝撃で壁中に蠢いていた謎の文字が消え、壁だったモノは砂へと変わっていく。


自分の限界である、百歩先までの壁を綺麗に打ち抜けたようだ。

見える壁が次々崩れて砂になっていく。

そこを通り抜けると、至る所に黒い文字がのたうつ、不気味な教会の大聖堂のような空間に出た。


見れば王子パーティと、全身黒ずくめの神父のような男が対峙している。


「クァハハハ!実に素晴らしい!

まさかこのような幸運があるとは!

では第二王子よ、……む?我々の逢瀬を邪魔する者は何者かな?」


中々良いタイミングで入れたようだ。

王子パーティもボロボロにはなっているが、重傷者はいなさそうだ。

この迷宮に不法滞在して、作り替えていた犯人が悪さをし出す前にご対面できた。

とりあえずはセーフ、後はコイツとっちめるだけか。

僅かな空気の流れで、13号氏が気配を消して回り込んでいるのを感じた。


『御用聞きの三河屋ですよ、神父さん。

ロウソクやらワインやら、ご注文が無いかお伺いに来ましたよ。』


左手のトンファーを半回転させ、長い方を前に出すオフェンスポジション。

左足を半歩前に、気付かれないように腰を落とし膝に遊びを作る、変形左前中段の構えをとる。


「クァハハハ!それはいい。

だが困ったな、欲しかった“この迷宮を暴走化(スタンピード)”させるための魔力も、この国を混乱させるための主要貴族の子息の命も、この者達だけで間に合ってしまうのだ!

少なくてすまないが、祝杯を挙げるためのワイン位しか注文できそうにないぞ!クァハハハ!」


高笑いの瞬間に、一気に間合いを詰めて喉元へ突きを繰り出す。

背後に回っていた13号氏も、それに合わせて背中から斬りつける。


「五月蝿い御用聞きだな。

芸の押し売りはいらんぞ。」


命中する直前で見えない壁に当たったかのように、俺のトンファーも13号氏の剣もピタリと止まる。

次の瞬間、周囲に雷が落ちたのかと見間違うほどに電撃が流れ、俺も13号氏も吹き飛ばされる。


<回復、起動します。>


マキーナが電撃で壊れないだけ良かった。

吹き飛ばされた後、麻痺したように体が完全に動かなかったが、回復が聞いてきたのか徐々に緩和されていく。


俺は何とか立ち上がり構え直すが、13号氏には回復の手段が無いからか、吹き飛ばされてピクリとも動かない。


「我等の神よ、皆に癒しと祝福を!」


リリィの声が響き、第二王子達が淡い光に包まれる。

例の光の回復魔法だろうか。

膝をついていた第二王子達が立ち上がり、剣を構え直す。


「お二方!よく時間を稼いでくれた!

我等も参戦させて貰う!

覚悟せよ、賊め!」


その高らかな物言いに、“バカが”という感想が真っ先に出て来ていた。

貴族同士の決闘ならいざ知らず、正体不明の賊退治にわざわざ名乗りを上げて、相手に準備する時間を与えてどうする。


“次に起こる最悪”を想定し、リリィの元へ駆け出そうとするが、まだうまく体に力が入らない。


「ホゥ、光の魔法を使える者がいるのか。

その力は危険だな……。

一人減るがまぁ、まだ魔力量に問題はないか。

《氷の槍》よ、貫け。」


黒ずくめの神父の手の平から放たれた、氷で出来た槍は真っ直ぐ正確に、リリィの中心を貫いた。


「あ……、え……。」


全員の時間が止まる中、ゴボリ、と口から大量の血液を吐き出し、リリィが崩れ落ちる。


「リリィ!!ダメ!!ダメよ!!

死んではダメ!!」


サラの声が響く。

マキーナを解除して、ヨロヨロとそこに駆け寄り膝をつく。

氷の槍は消え、より激しい出血が始まる。


「先……生……、だったん……ですね……。」


「バカ、そんな事喋らなくて良いから、早く回復魔法を!」


リリィは力無く微笑むと、傷口を押さえている俺の手の上に、自分の手を重ねる。


「光の……使い手は……、じ、自分では、治せ……ない……です。」


俺に重ねた手が、どんどんと冷たくなっていく。

周りを見ても、三馬鹿は戦闘中、聖魔法には治癒は無いらしく、死なないでと叫ぶサラの瞳には、絶望が映っていた。


「あり……がとう……。パパ、大好……き……。」


マキーナをリリィの傷口に乗せる。


「マキーナ、権限を一時的に委譲。

対象は“リリィ・フルデペシェ”。

蘇生と回復を至急実行せよ。」


リリィの全身を赤い光が包むが、その段階で一旦止まる。


<error、セーダイ・タゾノの回復が終了していません。>


「俺の回復はキャンセルだ!

最優先だ!最優先でリリィを回復させろ!」


<……了解しました。>


マキーナが一瞬返答に詰まったように聞こえた。

なんだお前、存外に人間味があるじゃねぇか。

リリィの全身を、懐かしい白銀の鎧が包むと同時に、俺への回復がキャンセルされ全身に激痛が走る。


痛い。

痛いが痛くねぇ。

心の方がもっと痛い。


立ち上がり、トンファーをホルダーにしまいながら振り返る。

三馬鹿がまだ攻めあぐねていた。


「ガキ共、退け。」


疲労と攻めきれない怒りからか、険しい顔でこちらを見る三人が俺を見てビクリとする。

悪いな、今はからかってる余裕がないんだわ。


「その剣貸せ。」


第二王子から剣を借りると、黒衣の神父の前に立つ。


「フム、御用聞きよ、お前の出番はもう無いぞ?」


退屈そうに火球を放つ。

こちらも退屈さを出しながら、その火球を剣で弾き飛ばす。


「いや、先にお代を頂戴しようと思ってな。」


剣先をリリィの傷口と同じ位置、神父の体の中心に合わせ、一歩一歩歩んでいく。

火球、氷の槍、電撃、全て剣で切り払い、また剣先を戻して進む。

王族なだけあって、良い剣持ってるな。

伝説級の武器なんだろうか。


剣先が神父の体に当たる少し前、見えない障壁に防がれる。


「ククク、無駄なことをする。

先程の装備も無い、たかが人間風情に、この障壁が破れるわけが無かろう。」


俺の力を、先程までの装備のお陰、と、侮ってくれたようで何よりだ。

全力で突き刺し、少しずつ剣先が見えない壁にめり込み始める。


「なっ!馬鹿な!人間如きにこの障壁が!?

貴様本当に人間か!?」


めり込んだことで、必死に両手を突き出し障壁を強化する。

だがそんな事でめり込む速度は落ちない。


「そうだ、人間だよ。

名前は田園たぞの 勢大せいだい、どこの何でも無い、ただの人間だ。」


いや、今この瞬間は違ったな。


「そうだな、人間ではあるが、訂正するぜ。

名前は田園たぞの 勢大せいだい、リリィの父親だ。

愛する娘の、家族の前なら、父親は格好いいところを見せたくなるんだ。」


次の瞬間、全力で障壁を貫き、体の中心に剣を突き刺した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ