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異世界殺し  作者: Tetsuさん
自由への光
548/832

547:原点の存在

「ここが……、あの爺さんが言っていた場所だよな?」


<そうですね、周辺の特徴とあの老体が言っていた要素が一致しております。

ほぼこちらで間違いは無いと推測されます。>


マキーナの観測も同様の結果を伝えていることから、ここが目的の場所で間違いないのだろう。

目の前には、それなりにしっかりした造りの一軒家が存在している。

この辺りの住居にしては珍しいくらい、ちゃんと家の体を保っている。


……ただ、目の前の建物を改めて見て気付いたのだが、外から(・・・)施錠されている(・・・・・・・)ようなのだ。

誰かが誰かを監禁している?何故そんな事を?

その意味は解らないが、ただ目的の場所がここだというのなら開けて入らざるを得ない。

そう思い建物の扉に近づこうとすると、数人の男達が近付いてきた。


「兄ちゃん、ここの人に何か用か?」

「悪いが、ここには入れられねぇんだ。」

「物盗りなら他所に行きな、それとも……。」


それぞれがよく鍛えこまれ、手にはナイフや棍棒を持っている。

決闘者(デュエラー)には効果が薄いだろうが、普通の人間であればそれは十分な脅威だろう。


「あぁ、俺はとあるヤツの事を調べている。

その事を、この街でずっと暮らしているという老人に話したら、ここを案内された。

俺には何の事か解らないが、案内されて通してもらえないというなら、力づくでも押し通るだけだ。」


静かにデッキを召喚する。

その辺のチンピラであれば、普通はこれを見ればすぐに退散する。

まともにやっても勝ち目が無いのは明白だ。

だが、俺に声をかけてきた奴等は何か覚悟が決まっているのか、これを見ても青い顔はするが、誰一人逃げ出そうとしない。


(……?変だな。何か脅されているのか洗脳でもされているのか?

いや、それにしては表情が普通だ。

普通に(・・・)怯えている(・・・・・・)?)


「……あの、ちょ、ちょっと強い事言っちゃいましたけど、引けない理由とか、ある感じです?」


何だかあまりにも哀れになり、思わず下手(したて)に出てしまう。


「あっ、いや、あの、俺等もここの人には恩があるっつーか、出来れば守ってやりたいなって……。」


“コミュ障同士の会話か!”とツッコみたくなったが、俺の言葉に気が抜けたのか男達の一人が恐る恐る回答してくれる。

その言葉を聞き、老人にも言われた事を思い出してデッキをしまう。


「あの、そういえばここを教えて貰った爺さんに、“精神安定剤(トランキライザー)があるなら譲ってやれないか”って言われてまして……。」


「マジか!それを早く言ってくださいよ!」


いや言わせてくれる空気やなかったやん。

緊張感ビリビリだったやん?


<勢大も先に薬の存在を伝えていれば、このような事態は回避出来たと思いますが?>


ハイ出た結果論―!

マキーナ先生、そういうの良くないと思いまーす!


<……。>


しまった、言い過ぎた。

マキーナの無言の怒りをヒシヒシと感じながら、俺は男達に薬を渡す。

渡された男は、施錠してある扉の鍵を開け、ノブに手をかける。


「ニムエさん、俺です!ペレアスです!

いいですか?入りますからね?」


この家を守っていた男達のうちの一人が、声をかけるとそっと扉を開ける。

中に入ると、何か争いあうような音が少しの間聞こえ、そして静かになる。

静かになってからしばらくして、中に入っていた男が扉から出てくる。

服が少し破かれていて、顔に引っかき傷が出来ていて痛々しい。


「えぇと、アンタ、名前何だっけ?」


「あ、あぁ、セーダイだ。」


男は“そうか”というと、また扉の中に入っていく。

今度は特に物音がせず、少しの後にもう一度先ほどの男が出てくる。


「セーダイさん、中に入ってくれ。

ただ、今は一旦落ち着いているとはいえ、彼女は非常にその、“不安定”だ。

一応、新しい仲間っていう事で紹介するから、あまり刺激を与えないようにしてくれ。」


俺はただ頷くだけしか出来ない。

“彼女”だの“不安定”だのと言われていても、何がどうなっているのか状況がサッパリ見えない。

言われるがまま扉の中に入る。


入ってすぐに気付くのは獣臭のような、すえた臭い。

薄暗がりの中で、ぼさぼさ髪の人間が、うずくまるようにしてこちらの様子を伺っているのが解った。


「……誰?」


やや高い声。

女か。


「ニムエさん、今話した、俺等の新しい仲間です。

えぇと、そう、セーダイって奴なんです。

ニムエさんをお守りする、新しい仲間ですからね、安心してくださいね。」


引っかき傷の男、確かペレアスだったか。

彼が優しくそう話すと、うずくまっていた女性が僅かに顔を上げたように見えた。


「おいアンタ、何か聞きたいことがあるんだろう?

アンタが持ってきてくれた薬が効いている間は、多少の事は答えてくれる筈だ。

聞くなら今のうちだ。」


ペレアスがそっと耳打ちする。

どうも、あまり時間は無いらしい。


「あ、あぁ、それじゃニムエさんだったか、いきなりで申し訳ないんだけど、“ミサト”という人物を知っているか?

俺は彼の事を探している内に、ここの人と意気投合して仲間にしてもらったんだ。」


適当に彼等の言っていた話と合わせつつ、ミサト君の事を聞く。


「……だぁれ?それ?」


うずくまったまま、どこかボンヤリとしたような表情と声でニムエが答える。

俺は思いつく限りのミサト君の特徴を上げていく。

それでも、それらにピンとくるモノは無かったようで、微かな声で“知らないわ”と告げてくるのみだ。


「……では、“シンゾー・ムラザト”という名は?」


うずくまっていたニムエが、少し身じろぎした。

まるで寒気を感じた時のように、不快な虫が体を這った時のように、ブルリと体を震わす。


「あの子のね、本当の名前は、いえ、最初に名付けた名前は、アーサーというの。

でもね、あの子はアーサーじゃなかったんだって。」


一瞬だが、目が見えた。

ボサボサの髪の隙間から見えた、深い闇。

濁った黒目、その目に浮かぶ虚無。

ポツリポツリと話し始めた彼女の言葉は酷く散発的で、色々な所に話が飛ぶので理会するのは中々に困難だった。

だが、黙って話を聞き、時に相槌を打ちながら先を促し、そうして自分の中で彼女の話をまとめる。


もう臭いなど気にならなくなっていた。

それほどに、彼女の言葉は一つ一つが重たく、苦しい。


“転生者の母親”


多分恐らく、転生者という存在にまつわるこの世界で、一番最初に不幸になった女性。


その女性の、独白だった。

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