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異世界殺し  作者: Tetsuさん
自由への光
543/832

542:反抗の対価

[……聞こえるか、こちらキルッフ!!

別働隊、聞こえているか!!

聞こえていたら誰でもいい!返事をしてくれ!!]


片耳に嵌めている無線機から、キルッフの焦った声が聞こえる。


「こちらセーダイだ!どうしたキルッフ!?」


[おぉ、セーダイ!

すまねぇ、作戦は失敗だ!完全に読まれてやがった!!

こちらは被害甚大!このままでは全滅する!!

こちらは生き残りをまとめて撤退する!!

お前等も早く逃げろ!!]


キルッフの叫びが無線機から響くと、堰を切ったようにあちこちから救援を求める通信が入りまくる。

マズイ、もうこれでは組織の体をなしていない。

逃げ惑う烏合の衆など、連中からすれば格好の餌食だ。


<セーダイ、お待ちを。

せめてこのペリーノアという騎士のカードは回収するべきです。>


「……いや、お前も見たろ?俺のデッキは“欠けている”からあの裏技が使えるんだ。

ここでカードを補充しちまったら、もうこの技が使えねぇじゃねぇか。」


どうやらマキーナが調べた結果、この世界では珍しい例だが、実はデッキというものは複数所持が可能らしい。

実際、このペリーノアは2つのデッキを所持していたようだ。

1つは今使った、ヤツの自慢のカードデッキ。

もう1つはそれより数段戦力が落ちる、まるで何かの接待用か趣味用のデッキがあるらしい。


<ペリーノアの主力デッキをまるごと入手すれば、セーダイのデッキに影響のない範囲で強力な別デッキを所持することができます。

この世界の最上位クラスに位置している身分の人間が使うデッキですよ?

使うことはなくとも、そのレシピを研究するだけで相手の内情を知れるため、その価値は非常に大きいと推察されます。>


マキーナの言う事は最もだ。

ただ、俺としては戦った相手の尊厳を……。


いや、コイツ、何も無かったな。


対戦相手である俺を小馬鹿にし、味方の情報をベラベラ喋って命乞いをしたヤツに、別に敬意だの尊厳だのと謳うほど、俺も人間ができてる訳じゃねぇしな。


「まぁ、コイツは良いか。

マキーナ、吸収しても別にいいぞ。

ただ、時間がない。

手早くな。」


<承知致しました、勢大(マスター)。>


ペリーノアの死体に光が伸び、ベルトからカードデッキを一束掴みだす。

そうして、そのデッキは俺のベルトへと吸い込まれていった。

その瞬間、視界に“無名デッキ”と“青のペリーノアデッキ”と、2種類のデッキ名称が並ぶ。


次の瞬間、3つ目のデッキ、“マキーナ”が出現してきて“アレ?”と思ったが、これはマキーナが俺とペリーノアのデッキを合わせて解析するためのデッキフォルダらしい。


<私はこのまま解析作業に入ります。

少しの間、シンプルサポートに切り替わります。>


[……ゴフッ……、せ、セーダイさん、聞こえますか?]


マキーナが沈黙したのとほぼ同じタイミングで、ミサト君からの通信が入る。


「ミサト君!?どうした!?」


その咳き込む音に不安を感じた俺は、とっさに彼の方へ走り出す。

ただ走り出してすぐに、廃墟の死角から青い鎧を着た騎士が姿を見せる。


「ククク、ここから先には通さぬ。

俺は青の騎士の1人……。」


「どけぇ!!」


俺の行く手を阻む様に、新たな青の騎士が立ちふさがる。

決闘(デュエル)”の悪い所を使われている感じだ。

戦うには決闘(デュエル)を通さねばならず、そして決闘(デュエル)はターン制だ。

どうあがいても時間がかかる。


[せ、セーダイさん、逃げてください。

ここは、僕が抑え込みますから……。]


「よせ!止めろ!

すぐ行くから、それまで持ちこたえろ!!」


眼の前の青の騎士も、ペリーノア程ではないが防御重視からの1発系デッキのようだ。

速攻系ならすぐに終わるのに、と歯噛みしながらも、ペリーノア戦でやった動きをそのまま再現していく。

驚くポイントまで一緒で、しかも俺としては再演状態の決闘(デュエル)だ。

それに、ミサト君の事が気がかりでならない。

こんな奴には構っていられないと、サッサと撃破する。


「ミサト君!!

ミサト!どうした!?

どこにいる!?」


「よう、ここに来たって事は、俺の仲間をやってくれたようだな。」


クソッ!!

こういう時に限って、次から次へと!!


その後も数人の青の騎士を倒したが、それだけでだいぶ時間を浪費していた。

おまけに最悪な事に、いや、最悪と言っては良くないのだろうが、逃げている抵抗組織(レジスタンス)の一部と合流してしまっていた。

一人なら容易く移動できるが、複数人が集まると移動速度はどうしても遅くなる。

そして、突撃するだけの片道切符なら出来なくもないが、現状では成功率は恐ろしく低い。

ましてや“中央を落とす”と“ミサト君を救出する”なんていう2つの目標を追い求めるのは“虻蜂取らず”ということわざ通りになってしまうだろう。


決断を迫られていた。

それに、逃げるにしても追撃を交わしきれない。

実質的に、状況は詰みに近付いていた。


[……ゴホッ。

せ、セーダイさん、聞こえますか?

今から、連中の武器庫を爆破します……。

出来るだけ仲間を集めて、ここは引いてください。]


「ミサト君!?

何やってるんだ!?お前も一緒に逃げるんだよ!!

武器庫だな?俺もすぐ行く!!」


ミサト君の声が聞こえ、俺は立ち止まり怒鳴る。

この時、複数の感情が俺の中にあった。

ミサト君が生きていた事への安堵感。

早く助けに行きたいという焦燥感。

“確かにミサト君の方法なら、自分達は逃げ切れる”と理解してしまう自分への嫌悪感。


武器庫を破壊されれば、そちらに人員を割かざるを得ない。

結果、俺達への追撃は薄くなるから、逃げ延びる確率は上がるだろう。

多分、キルッフからの連絡を聞いた時にミサト君はこれを思いついたに違いない。


だが、それでは。


「馬鹿言うなミサト君!そういうのは俺の役目だ!!

すぐに代われ!!

……それに、抵抗組織(レジスタンス)は、もう……。」


全兵力をかけた、一大攻勢だ。

これが失敗に終わった以上、もうこの組織は機能しない。

つまり、本当の意味で抵抗組織(レジスタンス)は今日、壊滅した。


ここに残っているのは、もはや戦う事の出来ない敗残兵。

いや、逃げ惑う一般人か。


[……いいえ、まだ僕がいます。]


先程までと違い、穏やかなミサト君の声。

それはもしかしたら、もう痛みすら感じない状態にたどり着いてしまったからか。


[フフ、見てて下さいセーダイさん。

こうなったら、ぼ、僕の、たった一人の反抗作戦だ。

……僕程度でも、こんな事が出来るんですよ。]


「よせ!!止めろ!!」




数瞬後に、腹に響く轟音が周囲に轟く。

音波と爆風で、周囲の窓ガラスが大量に割れる。


「……止めろって、言ったのによ。」


俺は、生き残ったやつに向けて撤退を指示する。

後ろは振り返れなかった。

ただ、ガラス片に紛れて、光る何かが頬を伝った気がした。

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