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異世界殺し  作者: Tetsuさん
自由への光
542/832

541:決闘の終わり

「クソッ、俺のターン、ドロ……。」


右手でカードを引き抜こうとした時、その手に槍を持ったままな事に気付く。

この槍は装備カード。

本来なら先程の巨大蜂の特殊効果で消失しているはずだ。

気になって自身のステータスもチラと見てみれば、こちらも20,000のままで動いていない。

“倍化”のカードも、装備カード扱いではないのか?


<勢大、これもルールの穴の様ですが、“武器を装備した勢大”が“戦士セーダイ”として認識されている様です。

そのため、どうやらその槍は“戦士セーダイの初期装備”となり、装備カード扱いされていないと思われます。

もし、勢大が別の武器を持っていたなら、どちらかの装備は破壊されていたと推測されます。

また、ステータス倍化はややこしいですが“消費カード”扱いのようですね。

消費カードは効果を発揮した後で自動的に消失します。

その為、現状で勢大のSTは20,000のままです。>


装備カード、設置カードの他に、消費カードまであるとは。

このゲーム、ちょっと煩雑過ぎん?


まぁ恐らく、現実には無いモノを形にしたため、色々なところで歪みが生まれているのかも知れない。

もしもどこかのフィールドでこの蜂と出会った場合、コイツの特殊能力で戦っているヤツ全員の装備が、いきなり剥がされてしまう事になる。

流石にそんな理不尽は、世界の方が許容出来ないだろう。

そしてこういう歪みを抑え込んでいるからこそ、この世界はエネルギーの消費が激しいのかも、と思える。


それでもまぁ、この煩雑さが今俺を助けてくれるのだから、文句言う事でも無いな。


「……なるほど。

それなら、予定通りに事が運べそうだな。」


「ククク、何が予定通りなんだ?

お前の死がか?

それとも、サンドバックになる為の準備が、か?」


俺は得意満面になっているペリーノアに薄く笑うと、カードを引き抜く。

まぁ、最初のターンにカードを全部消費したのは、確かにちょっと考えなしでやり過ぎだったかな。

コイツが自信過剰だったから助かったようなモンだ。

次はバレないようにする意味でも、コイツを引き抜くまではカードバトルっぽく準備を怠らないようにしようか。


「俺は今ドローしたこのカードをすぐに使う。

消費カード“ステータス強化”だ。

このカードの効果により、俺のステータスは5倍になる。」


俺のSTが20,000から5倍され、100,000へと強化される。

マキーナが出来得る限りの範囲で調べた結果、10万のステータスを持つモンスターはほぼいないらしい。

いるとしたらそれは伝説級、大迷宮(グランドダンジョン)の最奥にいる迷宮の主(ボス)クラスだろうとの事だ。


「ハァッハッハッハ!!

そんなに体力を増やそうとも、私の“ウォレス・ジャイアント・ビー”に、2度殴られるだけではないか!!

所詮は下郎!体力をいくら増やしたところで、たやすく勝てるほどこの世界は甘くは無いわ!!」


「……やっぱりだ。

お前等この世界の住人は、それが常識なのか知らんが、認識が随分ズレているんだな?

だからこうして、俺が地道にステータスを上げていることも認識できていない。」


“何を馬鹿な、ステータスなど、まるでモンスターではないか”と、俺を嘲笑おうとしたペリーノアの表情が固まる。


「そうだ、今この状態、俺は“決闘者(デュエラー)セーダイ”でありながらモンスターと同等扱いである、“戦士(ウォーリアー)セーダイ”でもあるワケだ。

この意味、解るよな?」


「ば、馬鹿な……。

人間が、モンスターに勝てる筋力を出し続ける事が出来るはずが……。」


狼狽えるペリーノア。


あぁ、なるほど、これがこの世界の奴等の先入観であり固定観念なのか。

“カード化されたモンスターに襲われ続けると、人間は勝てない”

そういう事か。

ステータスの強弱があろうとも、人間本来のスタミナや筋力は別に増えるわけではない。

ステータスが1万あろうと10万あろうと、勝てない敵には勝てない。

本当の意味でステータスが身体能力と同等、というのは、この世界では滅多にいないのだろう。


「その“馬鹿な”なんだよペリーノア。

そしてな、“槍”の武器特性、何だか解るかい?」


これは俺もさっき、カードを取り出す時に見えて驚いた事だ。


「ま、まさか!?」


“貫通”


槍はその武器特性として、始めから“貫通”持ちなのだ。

これがあると、いやあってしまうと、モンスターを貫いてまだ余りある攻撃能力は、相手に届いてしまう。


「終わりだ、ペリーノア。」


「まままま待った!!

ぼ、暴力は良くない!ここは話し合おう!!

そ、そうだ、何故こんなにもこちらの布陣が厚いのか、それを聞きたくないか!!

俺はその秘密を知っているんだぞ!!」


一歩踏み出す。

途端にペリーノアは力が抜けたようにその場にへたり込み、両手を前に出して命乞いを始める。


「……喋れよ。

その時間だけ、お前の命は伸びるぞ。」


槍を構え、腰を深く落とす。

ご自慢のウォレス・ジャイアント・ビーが通用しないからか、途端に正座のような体制を取り、頭を地面に擦り付ける。


「た、助けてくれ!

この布陣は、紫様の考案なんだ!!

お、お前等レジスタンスの中に、始めから内通者がいるんだよ!

その内通者から、お前等の戦力の本命はこっちだと、紫様から教わったんだ!!

内在する反乱分子をレジスタンスに纏めて、ある程度の規模になったら潰しておこうという、紫様の名案でな!!

ど、どうだ、内通者の名前は解らないが、俺は使えるだろう!!

ここは見逃してくれないか!?」


「そうか、知ってるのはそこまでか。」


槍の穂先をペリーノアに向ける。

ペリーノアを守るように、ウォレス・ジャイアント・ビーが立ちふさがる。

なんともまぁ、モンスターの方が忠義に厚いとはね。


「養殖だったっけか?

あの場で俺が何をしたのか、お前は聞かされてないのか?」


「し、知らん!!

俺は紫様からの情報を聞いているだけだ!!

あの時、紫様からの指示でお前に養殖を受けるように所長に伝達はしたが、別件であの場にはいなかった!!

だから最後までは見てないんだ!!

何があったか知らんが、助けてくれ!!」


俺は腰を落とし、両足に力を溜める。

見ていようといまいと、見逃したところでその紫への忠誠心の高さから、どうせ元通り敵になる事は目に見えている。

そして“養殖”での決意。


武器(さつい)をこちらに向けたなら”


「お前の望みは叶わない。残念だなペリーノア。

喰らえ!!“貫通撃”!!」


踏み込み、槍を突き出す。

主人を守る蜂は槍を突き立てられると光の粒子となり、そして突き抜けた槍は怯えた表情のペリーノアに向かう。


「やれやれ、騎士を名乗ってる癖に、最後に無様に死ぬヤツがあるかよ。」


<デュエェェェル!!エァンデッッッッドゥゥゥ!!!>


ハイテンションで激しいオッサンの声が響き、勝負の決着を告げていた。

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