541:決闘の終わり
「クソッ、俺のターン、ドロ……。」
右手でカードを引き抜こうとした時、その手に槍を持ったままな事に気付く。
この槍は装備カード。
本来なら先程の巨大蜂の特殊効果で消失しているはずだ。
気になって自身のステータスもチラと見てみれば、こちらも20,000のままで動いていない。
“倍化”のカードも、装備カード扱いではないのか?
<勢大、これもルールの穴の様ですが、“武器を装備した勢大”が“戦士セーダイ”として認識されている様です。
そのため、どうやらその槍は“戦士セーダイの初期装備”となり、装備カード扱いされていないと思われます。
もし、勢大が別の武器を持っていたなら、どちらかの装備は破壊されていたと推測されます。
また、ステータス倍化はややこしいですが“消費カード”扱いのようですね。
消費カードは効果を発揮した後で自動的に消失します。
その為、現状で勢大のSTは20,000のままです。>
装備カード、設置カードの他に、消費カードまであるとは。
このゲーム、ちょっと煩雑過ぎん?
まぁ恐らく、現実には無いモノを形にしたため、色々なところで歪みが生まれているのかも知れない。
もしもどこかのフィールドでこの蜂と出会った場合、コイツの特殊能力で戦っているヤツ全員の装備が、いきなり剥がされてしまう事になる。
流石にそんな理不尽は、世界の方が許容出来ないだろう。
そしてこういう歪みを抑え込んでいるからこそ、この世界はエネルギーの消費が激しいのかも、と思える。
それでもまぁ、この煩雑さが今俺を助けてくれるのだから、文句言う事でも無いな。
「……なるほど。
それなら、予定通りに事が運べそうだな。」
「ククク、何が予定通りなんだ?
お前の死がか?
それとも、サンドバックになる為の準備が、か?」
俺は得意満面になっているペリーノアに薄く笑うと、カードを引き抜く。
まぁ、最初のターンにカードを全部消費したのは、確かにちょっと考えなしでやり過ぎだったかな。
コイツが自信過剰だったから助かったようなモンだ。
次はバレないようにする意味でも、コイツを引き抜くまではカードバトルっぽく準備を怠らないようにしようか。
「俺は今ドローしたこのカードをすぐに使う。
消費カード“ステータス強化”だ。
このカードの効果により、俺のステータスは5倍になる。」
俺のSTが20,000から5倍され、100,000へと強化される。
マキーナが出来得る限りの範囲で調べた結果、10万のステータスを持つモンスターはほぼいないらしい。
いるとしたらそれは伝説級、大迷宮の最奥にいる迷宮の主クラスだろうとの事だ。
「ハァッハッハッハ!!
そんなに体力を増やそうとも、私の“ウォレス・ジャイアント・ビー”に、2度殴られるだけではないか!!
所詮は下郎!体力をいくら増やしたところで、たやすく勝てるほどこの世界は甘くは無いわ!!」
「……やっぱりだ。
お前等この世界の住人は、それが常識なのか知らんが、認識が随分ズレているんだな?
だからこうして、俺が地道にステータスを上げていることも認識できていない。」
“何を馬鹿な、ステータスなど、まるでモンスターではないか”と、俺を嘲笑おうとしたペリーノアの表情が固まる。
「そうだ、今この状態、俺は“決闘者セーダイ”でありながらモンスターと同等扱いである、“戦士セーダイ”でもあるワケだ。
この意味、解るよな?」
「ば、馬鹿な……。
人間が、モンスターに勝てる筋力を出し続ける事が出来るはずが……。」
狼狽えるペリーノア。
あぁ、なるほど、これがこの世界の奴等の先入観であり固定観念なのか。
“カード化されたモンスターに襲われ続けると、人間は勝てない”
そういう事か。
ステータスの強弱があろうとも、人間本来のスタミナや筋力は別に増えるわけではない。
ステータスが1万あろうと10万あろうと、勝てない敵には勝てない。
本当の意味でステータスが身体能力と同等、というのは、この世界では滅多にいないのだろう。
「その“馬鹿な”なんだよペリーノア。
そしてな、“槍”の武器特性、何だか解るかい?」
これは俺もさっき、カードを取り出す時に見えて驚いた事だ。
「ま、まさか!?」
“貫通”
槍はその武器特性として、始めから“貫通”持ちなのだ。
これがあると、いやあってしまうと、モンスターを貫いてまだ余りある攻撃能力は、相手に届いてしまう。
「終わりだ、ペリーノア。」
「まままま待った!!
ぼ、暴力は良くない!ここは話し合おう!!
そ、そうだ、何故こんなにもこちらの布陣が厚いのか、それを聞きたくないか!!
俺はその秘密を知っているんだぞ!!」
一歩踏み出す。
途端にペリーノアは力が抜けたようにその場にへたり込み、両手を前に出して命乞いを始める。
「……喋れよ。
その時間だけ、お前の命は伸びるぞ。」
槍を構え、腰を深く落とす。
ご自慢のウォレス・ジャイアント・ビーが通用しないからか、途端に正座のような体制を取り、頭を地面に擦り付ける。
「た、助けてくれ!
この布陣は、紫様の考案なんだ!!
お、お前等レジスタンスの中に、始めから内通者がいるんだよ!
その内通者から、お前等の戦力の本命はこっちだと、紫様から教わったんだ!!
内在する反乱分子をレジスタンスに纏めて、ある程度の規模になったら潰しておこうという、紫様の名案でな!!
ど、どうだ、内通者の名前は解らないが、俺は使えるだろう!!
ここは見逃してくれないか!?」
「そうか、知ってるのはそこまでか。」
槍の穂先をペリーノアに向ける。
ペリーノアを守るように、ウォレス・ジャイアント・ビーが立ちふさがる。
なんともまぁ、モンスターの方が忠義に厚いとはね。
「養殖だったっけか?
あの場で俺が何をしたのか、お前は聞かされてないのか?」
「し、知らん!!
俺は紫様からの情報を聞いているだけだ!!
あの時、紫様からの指示でお前に養殖を受けるように所長に伝達はしたが、別件であの場にはいなかった!!
だから最後までは見てないんだ!!
何があったか知らんが、助けてくれ!!」
俺は腰を落とし、両足に力を溜める。
見ていようといまいと、見逃したところでその紫への忠誠心の高さから、どうせ元通り敵になる事は目に見えている。
そして“養殖”での決意。
“武器をこちらに向けたなら”
「お前の望みは叶わない。残念だなペリーノア。
喰らえ!!“貫通撃”!!」
踏み込み、槍を突き出す。
主人を守る蜂は槍を突き立てられると光の粒子となり、そして突き抜けた槍は怯えた表情のペリーノアに向かう。
「やれやれ、騎士を名乗ってる癖に、最後に無様に死ぬヤツがあるかよ。」
<デュエェェェル!!エァンデッッッッドゥゥゥ!!!>
ハイテンションで激しいオッサンの声が響き、勝負の決着を告げていた。




