540:窮地
「ククク……、生産コストにカードを入れることもせず、挙げ句に全てのカードを配置してしまうなど、愚の骨頂!!
やはり貴様は、身体能力は高くともカードバトルは素人であるようだな!!」
「身体能力の高さを認めて頂いているようで、そりゃどうも、ってヤツだな。
だが、お前さんの前で暴れた記憶は無いんだがなあ?」
この手のゲームで、精神攻撃は基本だからなぁ。
そう思い適当な返事を返していると、動揺しない俺があまりお気に召さなかったらしい。
ペリーノアは少し苛立ったような顔でカードを一枚引くと、今の状況では不要だったのか、すぐにそのカードを生産コスト化する。
そのコストを使い、俺が持っているのと同じようなエメラルド色の芋虫を召喚する。
「ククク、コイツが場に召喚された時点で、お前の勝機はかなり減ったぞ?
さて、何ターン後にアレが来るかなぁ?
おっと、コイツは大喰らいだからな。
準備はしっかりしないとなぁ。」
何を言っているか解らないが、手札から1枚を場に伏せ、更に魔法カードを使用する。
何処かで見た、“次のターンから生産コストを1増やす”という効果だが、こちらはノーコストで使用できるらしい。
随分有利なカードもあるものだ、と感心する。
俺のターン、想像通り槍が来る。
即座に使い、手持ち武器に変換する。
「ククク、やはりカードが揃っていないのは不便だなぁ。
どうしても“必ず自身への装備カードが来てしまう”というのは、この決闘においては致命的な欠陥だ。
お前のデッキからは後3枚、必ず装備カードが来てしまうからなぁ。
その3枚を引いた時、お前の命運は尽きるのだ、フハハハ!!」
よく喋る野郎だ。
槍を装備した俺の左側に、“戦士セーダイ”という文字と、“ST10,000”という文字が浮かぶ。
てっきりまた1,000からのスタートだと思ったから、これは有り難い。
これも、ハンデの1つ、なのだろうか。
「ククク、気付いたか?
最高階級である青の俺様と、赤以下のお前では勝負にすらならんからな。
多少は色を付けてやったぞ?
まぁ、それでも俺のSPは50,000もあるからな。
お前如きでは、このSPは貫けまい。
どうだ?絶望を感じたか!?」
非表示されていたSPをあえて表示しながら、嬉々として語りかけてくるペリーノア。
例え非表示されていても、モンスターによるアタックが相手に抜ければ自動的に表示される。
コイツ、普段はそうやって相手に絶望を突きつけているのだろう。
「そうかい。
だが、大事なモンスターちゃんはST1,000しかないぜ?
ここで俺が攻撃すれば、大事なペットは即死しちまうな。」
「それは困る。
まずは攻撃を封じさせて貰おうか。
“不戦の誓い”発動!!
このターンと次のターン、お互いのモンスターは攻撃を禁じられる!!」
俺がエメラルド色のモンスターを攻撃しようとした時、ペリーノアは伏せていたカードを展開する。
途端に俺の足元から光る鎖が出現し、俺の手足を拘束する。
ただ、攻撃しようとすると逆に引っ張られるだけのようで、試しに頭を掻いてみたが特に動きに制限がある感じではなかった。
「へっ、いいのか?
その効果だと、お前の攻撃も次にはできないぜ?」
「あぁ、まだ構わんな。
まだ、その時ではないからな。」
<勢大、恐らく相手は大型のモンスターを召喚し、場を制圧するタイプのようです。>
だろうな。
ガチガチの守りから高火力モンスターを召喚、覆せない戦力差でこちらを圧倒する系のデッキなのだろう。
わざわざこちらの体力を増やしたのも、“それを圧倒できる火力があるから”に他ならない。
ただ、俺の準備ももうじき終わる。
その時、立っているのがどちらか、少し楽しみになってくる。
「さて、私のターン、おや、まだ来なかったようだ。
仕方無いので生産コストにして、そして私はこのカードを愛しの“ウォレス・ワスプ”に装備させる。
“アイアス・シールド”!!
このカードはいかなる攻撃も一度だけ無効化する!!
さて、次のお前の攻撃も怖くなくなったところで、私は余ったコストでこの魔法“生産ライン強化”を使わせてもらおう。」
以前見た事があるカードだ。
確か、コストを消費して次のターンに生産コストを+1するヤツだったか。
やっぱりあぁいうカードは皆使うんだな、と、自分でも良く解らない所で感心してしまう。
「俺のターン、ドローしてすぐにカードを使う。
“ステータス倍化”だ。
これで俺の数値は20,000になる。
……ターンエンドだ。」
「ククク、どんなに倍化しても、モンスターのそれには及ばない。
つまり、貴様がどんなに体力を増やそうとも、ただのサンドバックになる時間が増えてるだけだぞ?」
ニヤつくペリーノア。
やはり、この世界の住人はそう感じるのか。
俺はそんな事を考えながら、ペリーノアに先を促す。
やはり挑発にのらない事が気に入らないのか、不貞腐れた顔でカードを引き抜く。
「フン、私のターン、ドロー。
お、遂に来ちまったなぁ、この時がよう。
フフフ、お前の命運、ここで尽きたぜ?」
余程良いカードが来たのか、ペリーノアはますます余裕の表情を押し出してくる。
この男、むしろ逆に感情が読みやすい。
「生産コストに1枚投入し、俺はこのカード、“存在進化”を使う!!
存在進化の効果により、場にいるモンスターを上位モンスターへと進化させる!!
いでよ!“ウォレス・ジャイアント・ビー”!!
その巨体で、あらゆる敵を押し潰せ!!」
生産コストが一気に消費され、存在進化のカードが光り輝く。
光り輝くカードがウォレス・ワスプに吸い込まれていくと、そのイモムシのような体が割れ、中から巨大な蜂……いや、蜂というよりはクワガタ?なのかと思える、大アゴを持つ巨大な虫が出現する。
パッとステータスを見ると、その数値は破格の50,000。
5万というと、ほぼ最上位の攻撃力だ。
流石は青の騎士なだけはある。
「おぉ、中々立派な姿してるじゃねぇか。
だが、“攻撃が通らなきゃ”俺にダメージは無いぜ?」
俺の場にはいくつかの伏せカードがある。
その中には当然、罠カードとして相手の攻撃を無効化するものも仕込まれている。
「ククク……。
まぁ、そう思っちゃうだろうなぁ?それだけカードが伏せられていればな?
だが、存在進化したモンスターは、召喚直後の行動制限を受けない!!
すぐに行動することが出来るのだ!!
ウォレス・ジャイアント・ビー!特殊能力発動!!
押し潰せ!!」
巨大な蜂型モンスターが、空へと羽ばたき飛び上がると、大地に叩きつけるように降りてくる。
その瞬間、ウォレス・ジャイアント・ビーに装備されているカードもそうだが、俺の場に伏せてあるカードが全て光の粒子となって消滅していく。
「なっ!?」
「ククク、コイツには召喚直後に発動する特殊能力がある。
効果は“敵味方問わず、場にある全てのモンスター以外のカードを除去する”という効果だ。
さぁ、これで場はリセットされたぞ?
もう、お前を守る壁は存在しないなぁ?」
一筋の汗が、俺の頬を伝った。




