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異世界殺し  作者: Tetsuさん
自由への光
541/832

540:窮地

「ククク……、生産コストにカードを入れることもせず、挙げ句に全てのカードを配置してしまうなど、愚の骨頂!!

やはり貴様は、身体能力は高くともカードバトルは素人であるようだな!!」


「身体能力の高さを認めて頂いているようで、そりゃどうも、ってヤツだな。

だが、お前さんの前で暴れた記憶は無いんだがなあ?」


この手のゲームで、精神攻撃は基本だからなぁ。

そう思い適当な返事を返していると、動揺しない俺があまりお気に召さなかったらしい。

ペリーノアは少し苛立ったような顔でカードを一枚引くと、今の状況では不要だったのか、すぐにそのカードを生産コスト化する。

そのコストを使い、俺が持っているのと同じようなエメラルド色の芋虫を召喚する。


「ククク、コイツが場に召喚された時点で、お前の勝機はかなり減ったぞ?

さて、何ターン後にアレ(・・)が来るかなぁ?

おっと、コイツは大喰らいだからな。

準備はしっかりしないとなぁ。」


何を言っているか解らないが、手札から1枚を場に伏せ、更に魔法カードを使用する。

何処かで見た、“次のターンから生産コストを1増やす”という効果だが、こちらはノーコストで使用できるらしい。

随分有利なカードもあるものだ、と感心する。


俺のターン、想像通り槍が来る。

即座に使い、手持ち武器に変換する。


「ククク、やはりカードが揃っていないのは不便だなぁ。

どうしても“必ず自身への装備カードが来てしまう”というのは、この決闘においては致命的な欠陥だ。

お前のデッキからは後3枚、必ず装備カードが来てしまうからなぁ。

その3枚を引いた時、お前の命運は尽きるのだ、フハハハ!!」


よく喋る野郎だ。

槍を装備した俺の左側に、“戦士セーダイ”という文字と、“ST10,000”という文字が浮かぶ。

てっきりまた1,000からのスタートだと思ったから、これは有り難い。

これも、ハンデの1つ、なのだろうか。


「ククク、気付いたか?

最高階級である青の俺様と、赤以下のお前では勝負にすらならんからな。

多少は色を付けてやったぞ?

まぁ、それでも俺のSPは50,000もあるからな。

お前如きでは、このSPは貫けまい。

どうだ?絶望を感じたか!?」


非表示(マスク)されていたSPをあえて表示しながら、嬉々として語りかけてくるペリーノア。

例え非表示(マスク)されていても、モンスターによるアタックが相手に抜ければ自動的に表示される。

コイツ、普段はそうやって相手に絶望を突きつけているのだろう。


「そうかい。

だが、大事なモンスターちゃんはST1,000しかないぜ?

ここで俺が攻撃すれば、大事なペットは即死しちまうな。」


「それは困る。

まずは攻撃を封じさせて貰おうか。

“不戦の誓い”発動!!

このターンと次のターン、お互いのモンスターは攻撃を禁じられる!!」


俺がエメラルド色のモンスターを攻撃しようとした時、ペリーノアは伏せていたカードを展開する。

途端に俺の足元から光る鎖が出現し、俺の手足を拘束する。

ただ、攻撃しようとすると逆に引っ張られるだけのようで、試しに頭を掻いてみたが特に動きに制限がある感じではなかった。


「へっ、いいのか?

その効果だと、お前の攻撃も次にはできないぜ?」


「あぁ、まだ構わんな。

まだ、その時ではないからな。」


<勢大、恐らく相手は大型のモンスターを召喚し、場を制圧するタイプのようです。>


だろうな。

ガチガチの守りから高火力モンスターを召喚、覆せない戦力差でこちらを圧倒する系のデッキなのだろう。

わざわざこちらの体力を増やしたのも、“それを圧倒できる火力があるから”に他ならない。

ただ、俺の準備ももうじき終わる。

その時、立っているのがどちらか、少し楽しみになってくる。


「さて、私のターン、おや、まだ来なかったようだ。

仕方無いので生産コストにして、そして私はこのカードを愛しの“ウォレス・ワスプ”に装備させる。

“アイアス・シールド”!!

このカードはいかなる攻撃も一度だけ無効化する!!

さて、次のお前の攻撃も怖くなくなったところで、私は余ったコストでこの魔法“生産ライン強化”を使わせてもらおう。」


以前見た事があるカードだ。

確か、コストを消費して次のターンに生産コストを+1するヤツだったか。

やっぱりあぁいうカードは皆使うんだな、と、自分でも良く解らない所で感心してしまう。


「俺のターン、ドローしてすぐにカードを使う。

“ステータス倍化”だ。

これで俺の数値は20,000になる。

……ターンエンドだ。」


「ククク、どんなに倍化しても、モンスターのそれには及ばない。

つまり、貴様がどんなに体力を増やそうとも、ただのサンドバックになる時間が増えてるだけだぞ?」


ニヤつくペリーノア。

やはり、この世界の住人はそう感じるのか。

俺はそんな事を考えながら、ペリーノアに先を促す。

やはり挑発にのらない事が気に入らないのか、不貞腐れた顔でカードを引き抜く。


「フン、私のターン、ドロー。

お、遂に来ちまったなぁ、この時がよう。

フフフ、お前の命運、ここで尽きたぜ?」


余程良いカードが来たのか、ペリーノアはますます余裕の表情を押し出してくる。

この男、むしろ逆に感情が読みやすい。


「生産コストに1枚投入し、俺はこのカード、“存在進化”を使う!!

存在進化の効果により、場にいるモンスターを上位モンスターへと進化させる!!

いでよ!“ウォレス・ジャイアント・ビー”!!

その巨体で、あらゆる敵を押し潰せ!!」


生産コストが一気に消費され、存在進化のカードが光り輝く。

光り輝くカードがウォレス・ワスプに吸い込まれていくと、そのイモムシのような体が割れ、中から巨大な蜂……いや、蜂というよりはクワガタ?なのかと思える、大アゴを持つ巨大な虫が出現する。

パッとステータスを見ると、その数値は破格の50,000。

5万というと、ほぼ最上位の攻撃力だ。

流石は青の騎士なだけはある。


「おぉ、中々立派な姿してるじゃねぇか。

だが、“攻撃が通らなきゃ”俺にダメージは無いぜ?」


俺の場にはいくつかの伏せカードがある。

その中には当然、罠カードとして相手の攻撃を無効化するものも仕込まれている。


「ククク……。

まぁ、そう思っちゃうだろうなぁ?それだけカードが伏せられていればな?

だが、存在進化したモンスターは、召喚直後の行動制限を受けない!!

すぐに行動することが出来るのだ!!

ウォレス・ジャイアント・ビー!特殊能力発動!!

押し潰せ!!」


巨大な蜂型モンスターが、空へと羽ばたき飛び上がると、大地に叩きつけるように降りてくる。


その瞬間、ウォレス・ジャイアント・ビーに装備されているカードもそうだが、俺の場に伏せてあるカードが全て光の粒子となって消滅していく。


「なっ!?」


「ククク、コイツには召喚直後に発動する特殊能力がある。

効果は“敵味方問わず、場にある全てのモンスター以外のカードを除去する”という効果だ。

さぁ、これで場はリセットされたぞ?

もう、お前を守る壁は存在しないなぁ?」


一筋の汗が、俺の頬を伝った。

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