539:突撃、そして
「各員!門を潜ったら予定通り固まって動け!
青の騎士を見つけたら戦わず、すぐに知らせろよ!!」
ハンドル片手に、手持ちの無線機で周囲の奴等に怒鳴る。
車に、無線機に、個々人が出来得る最強のデッキ。
流石に中央を攻めようというのだ、抵抗組織も、今ある“使えるもの”は全て投入している。
このエンジン音と風切り音で、俺の叫びがどこまで聞こえたかは解らないが、後続のバギー達は予め決めておいたグループに少しずつ固まっていく。
「セーダイさん!
でも、どうやってあの扉を通り抜けるんです!?
こんなバギーじゃ、逆に潰されちゃいますよ!?」
中央の街の裏口、石造りの城壁に設置されている木製の大扉。
俺達が近付くのを察知したのか、慌てて閉じられていくのが見える。
ピタリと閉まり、何か擦るような音が響いた感じからすると、カンヌキでもかけたか。
「任せろ、力技は得意なんだ!」
バギーを運転しながら神経を集中。
気合とともに、百歩神拳で扉のカンヌキ部分をぶち抜く。
扉の中心部分に空洞が出来、ガタリと大きな音が響く。
どうやら無事に後ろのカンヌキごと吹き飛ばせたらしい。
中々曲芸じみた事をやってみたが、存外に上手くいくもんだ。
「……セーダイさん、今の何ですか?」
「ん?企業秘密、ってヤツだ。
それよりも、頭を引っ込めてろよ!」
ミサト君にウインクをすると、バギーを加速させ、強引に大扉に突っ込む。
激しい衝撃音とともに、突破口が開かれる。
「……ホントにもう、無茶苦茶なんだから。」
バギーは前輪部分がオシャカになり、ノロノロと進んだ後で煙を吹いて完全に停止する。
まぁ、こんな軽くて脆い車体なら、あの大扉をぶち抜いただけでもメッケもんか。
「こういうのはスピードが命だからな。
さぁ、こっからは走って向かう事になるが、準備は良いか?」
「もちろんです!
散々潜入してたり赤クラスの時に街の清掃に駆り出されていたりしたんですから。
大抵の地理は覚えましたよ!」
“上等だ”と笑った時に、通りを少し行った先から爆発物の音が聞こえる。
これは青の騎士と遭遇した時用に、全員に持たせている閃光手榴弾の音だ。
青の騎士を相手に、悠長に通信をしている暇は無いかもしれないからと、目くらましと合図を兼ねて渡してある。
この音を合図に、俺達がそちらに行く手筈なのだ。
「……?
随分遭遇が早いな?
青の騎士達が前線に出ていないのか?」
遭遇する事はもちろん想定していたが、それにしてはいやに遭遇が早い。
想定ではキルッフ達の方に集中しており、こちらは本部を守る青の騎士以外はいないだろうと想定していたのだが。
「何にせよ、数を減らすいいチャンスです!
行きますよセーダイさん!!」
「おう!……って、何!?」
そちらに向かおうとしてすぐに、アチコチから閃光手榴弾が次々と音を立てる。
[こ、こちら、青の騎士と交戦中!急いで来てくれ!!]
[こっちにも青の騎士出現!た、たす……うわぁぁぁ!!]
[ここにも!?そんなバ……。]
この通信量、いくらなんでもあり得ない。
閃光手榴弾の音だけでなく、引っ切り無しに救援を求める無線通信も入ってくる。
この数からすると、こちらにほぼ全ての青の騎士が配置されている可能性が高い。
これではまるで、こちらの動きが……。
「せ、セーダイさん、どうしましょう!?」
思考が止まりかけた俺の頭に、ミサト君の悲痛な叫びが耳に入る。
いかん、ここで一緒になって焦っている暇はねぇ。
飲まれかけた俺が言えた事ではないが、流石にまだ若いミサト君ではこの非常事態で決断できる訳がないな。
俺は呼吸を整えると立ち止まり、黙考する。
一緒になって慌てたら終わる。
こういう時こそ立ち止まり、冷静になる必要がある。
「……仕方ない、二手に別れよう。
俺は左手側の青の騎士を叩いて回る。
ミサト君は右手側の奴等を頼む。
中央の施設前で、キルッフと共に落ち合おう。」
「で、でも、セーダイさんはカードが!?」
“揃ってないから戦えない”
そう言いかけて、ミサト君は黙る。
やっぱりコイツは優しいヤツだ。
この土壇場でも、俺と俺のプライドを傷付けまいとしてやがる。
「なぁに、やりようはある。
俺の方は安心して任せろよ。
それよりも、ミサト君こそ心配だぜ?
ここまでの流れがあるのに、まさかすぐに負けたりしないだろうな?」
「ばっ、バカにしないでください!
良いですか?
僕は一対一なら、今まで誰にも負けた事が無いんですからね!!
それを見せてあげます!
後は通信で!!」
そう言って駆け出すミサト君の背中に、“上等だ”と呟き俺は笑う。
その背中は、中々に頼もしい。
「さて、俺も行きますかね。」
左手側の近場、閃光手榴弾が鳴った場所へ走る。
ミサト君がいれば、あっち側は大丈夫だろう。
問題は俺の方だ。
初見殺しになるから今まで温存していたが、そろそろ出さざるを得ないだろうな。
「……ホゥ、どうやら俺の方が当たりか。
ククク、奴等も残念がるな。」
殺したレジスタンスメンバーの死体を積み重ね、そこに腰掛けていた青い鎧の男が俺を見る。
見覚えがある。
捕まった時、檻に来た奴だ。
「確か……ペリーノア、だったか。」
「フン、低能なレジスタンスにしては良い記憶をしているな。
そうだ、俺の名はペリーノア。
紫様を守護する11人の精鋭騎士、円卓の騎士の1人、“青のペリーノア”だ。
俺の名を覚えていた褒美だ。
名乗っていいぞ、下郎。」
ペリーノアはゆっくりと立ち上がると、カードデッキを呼び出す。
「別に、どこの誰でもない。
唯の人間、名前は田園 勢大だ。
いざ、尋常に。」
「「決闘ッ!!」」
デッキを収納するベルトが現れ、互いの腰に巻き付く。
ベルトに収めたデッキから5枚のカードが飛び出し、俺の眼の前で静止する。
「こう見えて俺は優しいからな。
先行をお前に譲ってやろう。」
同じように飛び出してきた空中のカードを受け取る前に、ペリーノアがそう告げる。
<デュエェェルゥ!!ステンバァァァイ!!>
いつものハイテンションなオッサンの電子音声が聞こえたかと思うと、俺の目の前に“先攻”の文字が浮かぶ。
なるほど、指定があればいつもの様にランダムではなく、先攻と後攻を決めることも出来るのか。
「そりゃありがたいね。
俺はこのゲームの初心者でね。
優しくしてくれるとありがたいよ。」
手札を見れば、装備や罠カードばかりの碌でも無い構成。
はは、普通なら泣けてくるだろうな。
「やぁ、これはまずい。
俺はこの手札を全て場に伏せておいて、ターンエンドだ。」
これだけでも、配置系かトラップ系、装備系かで絞られる。
“モンスターが一枚も手札に無い”事が解ったからか、ペリーノアはますます笑みを深くする。
さぁ、ここからが勝負どころだ。




