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異世界殺し  作者: Tetsuさん
自由への光
535/832

534:突撃

「……ゼェ……ゼェ。

……もう絶対、セーダイさんの運転する車には乗りませんからね。」


「ハハハ、スマンスマン、つい、やっちゃうんだ☆」


“やっちゃうんだ☆じゃないんですよ!”というミサト君の抗議の声を無視して笑いつつ、バギーの速度を落とす。


道中はほぼ砂漠化しており、障害物は予め見て把握できる。

ついでに言えば、マキーナが半径数キロの地形把握と索敵を常時している。

ミサト君が目的地の方向さえ指示してくれれば、後は正直何もない道を走っているに過ぎない。

まぁ、本当はそれさえもマキーナが大雑把な方向は指定してくるので、実際ミサト君は後部座席でただ悲鳴を上げているだけだった、かも知れない。


まぁ要は、“快適で気持ちよかった”のだ。

ここ最近の中では、実に爽快な体験だった。

加速する視界、頬に感じる風。

砂漠化しているせいで地面の凹凸は激しいが、不安がなければそれさえも天然のアトラクションだ。

風の影響で小高くなった砂丘はジャンプ台、チラホラ砂の中から顔を出す残骸はゲームによくある“避けるべき障害物”だ。

久々のアトラクション感覚に俺はだいぶ機嫌が良くなっていたが、そろそろこのアトラクションも終わりのようだ。


「それよりもミサト君、これからどうするんだ?

陽動するにしたって、俺はやり方がわからんぞ?」


「それは任せてください。

ただ、セーダイさんには指示通りの運転をお願いしますからね!

本当にお願いしますからね!?」


ミサト君が背中のリュックから、爆発物らしき何かを取り出しながら、必死な表情で懇願してくる。

ハッハッハ、解ってる、解ってるよミサト君。

それアレだろ?“押すなよ?絶対押すなよ?”っていう、古くから伝わる伝統芸能だろ?任せろって。


「セーダイさん?一応言っておきますけど、これフリじゃないですからね?本当ですよ?」


いやぁ、誰も見てなくても、前フリは念入りだなぁ。

やっぱ、ボケるならこれくらい真摯に向き合わないとだなぁ。


<勢大、イジメるのもそこまでにしてあげた方が良いかと。>


やれやれ、マキーナにも怒られたから、そろそろ止めてやるか。


セコの街に入り、ミサト君が指定する場所を通り抜けつつ爆弾を放り投げていく。

それで注意を引き付けつつ、青の騎士を見つけ次第ミサト君が相手をする。

そういう簡単な流れしかないが、まぁこちらはマキーナの索敵能力で概ねの位置を把握済みだ。

特に大きな障害を受ける事もない。


「……セーダイさん、ここの敵の配置を知っているんですか?

まるで“敵兵士の配置が解る”みたいに、すんなり進めてますけど?」


「あぁ、偶然だよ偶然。

俺は運が良い方なんだ!」


まぁ、嘘だけどな。

ミサト君は驚きからの敬意半分、またからかわれているのではと思う疑い半分、といった感じの表情ではあったが、考えを切り替えたのか胸ポケットから起爆スイッチを取り出す。


そんなミサト君を横目に見ながら、少しだけ“へぇ、出来るな”と感心してしまう。

キルッフは気付かなかった事を、ミサト君はしっかり“違和感”として勘付いている。

その辺はやはり転生者だからなのか、或いはこれまでのここで生き残ってきた経験からそう思わせるのかは解らない。

だが、何にせよこういう感覚を持っている奴は、長生きできるだろう。

そういう意味では、ミサト君は正しくこの世界の主人公だ、という事だ。


「じゃあ、始めますよセーダイさん!!」


「応っ!ドカンとやってくれ!!」


次々と発生する爆発、そして爆発音と立ち上る爆炎が疾走する俺達のバギーの後を追う様に上がり始める。

混乱する中央の一般兵達。

右往左往しているところに俺達のバギーを見つけ、次から次へと追いかけてくるのが見える。

よしよし、良い感じに混乱してくれて助かる。

こいつ等は厳し過ぎる階級制度の弊害なのか、自分達を導き指導する上のクラスがいなければ、まさに烏合の衆だ。

これなら、予定通りこの廃墟の入口近くの警備はかなり薄くなるだろう。

それに、文明がメチャクチャだからか装備も銃なんて殆ど持っているヤツはいない。

たまにヘロヘロとボウガンの矢らしきものが飛んでくるが、そんなモノ、高速移動しているバギーに当たるはずもない。


「見えました!!

あそこに青の騎士がいます!!」


ミサト君の指差す先、黄色い服を着た集団の中に1人、青い甲冑姿の騎士が見える。

騎士はベルトのバックルらしい場所から、カードを引き抜こうとしているのが見えた。


「セーダイさん!!」


「解ってる!!」


全力でブレーキを踏み、車体を横滑りさせながら青の騎士の前に停まる。

ギリギリ間に合った。

ミサト君がバギーから飛び降りつつ、カードデッキをセットする。


「オイ、決闘(デュエル)しろよ。」


次の瞬間、青の騎士とミサト君を包むように、透明な膜が周囲から立ち上る。


<デュエェエェル!!ステェァンバァァァイ!!>


ハイテンションな男性の声がどこからともなく響く。


捕まえた。

ミサト君から聞いた話では、青クラスの奴等は“挑まれた決闘(デュエル)を拒否できない、そして挑んだ決闘(デュエル)から逃さない”というルールが存在するそうだ。

騎士の誓い、というヤツが関係するらしいが、ともかく青の騎士クラスになるとモンスターに自身があるヤツがその地位を狙って勝負を仕掛けてくるらしい。

ただ、そうして挑んだヤツが負けそうになると降参もせずに逃げ、無効試合にするヤツが後を経たなかったそうだ。


その為、紫が指示し作らせた特殊結界がこれなのだそうだ。

この透明な結界は内から外には脱出する事が出来ず、戦闘終了まで解除する事が出来ないらしい。

外から内には、内部の二人の同意があれば入れるのだそうだ。


ともあれこの結界の力により、挑戦者から決闘(デュエル)を申し込まれた場合にはどちらもを逃さない最強の檻が発生してしまうわけだ。


「よっしゃ、時間通りだ!」


廃墟街の入り口付近で、新たな黒煙が上がるのが見える。

キルッフ達も、どうやら侵入してきたらしい。

ここにいる奴等は、黄クラスの指揮官と赤クラスの戦闘員、そして“赤にすらなれなかった非適性者の奴隷”が殆どだ。


「赤クラスの奴等、聞け!!

俺達は中央へ抵抗している抵抗組織(レジスタンス)だ!!

お前等良いように虐げられてて良いのか!?

俺達と一緒に、中央へ反旗を翻さないか!!」


赤クラスの奴等に動揺が走る。

いいぞいいぞ、狙い通りだ。

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