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異世界殺し  作者: Tetsuさん
自由への光
534/832

533:抵抗運動

「……以上が、本作戦の概要だ。


繰り返しにはなるが、ミサトとセーダイには別働隊として動いてもらう、重要な立ち位置だ。

だが、恐らく俺の見た所、現状の最高戦力はお前等2人だと俺は信じてるからな。

頼んだぞ、2人共。」


「解りました!

キルッフさんもどうぞご無事で!」


キルッフの敬礼に合わせ、ミサト君も勢い良く敬礼している。


二日酔いにやられ、頭が痛くて動けない俺はゆっくりと敬礼の真似事をするのみだ。

まぁ、あまり正規の組織でもなし、こんな堅苦しい事やらんでもええやろ、みたいな気持ちも少しあるが。


今回、中央からみて北部にある街“セコ”が青クラスの騎士に襲われているらしい。

セコの街にはそれこそ青クラスの騎士とも互角以上に渡り合えるヤツがいるらしく、ソイツを救助しつつ連合軍となって中央に攻め入る作戦の様だ。


「特にセーダイ、お前は“カード足らず”なんだから、決闘(デュエル)は極力避けろよ?

そういうのはミサトに任せれば良い。

お前にはそれ以外の、あの時見せたような怪力を期待してるぜ。」


キルッフは俺とミサト君を“抵抗組織(レジスタンス)の最高戦力だ”と評価していた。

俺の単純な腕力ではこの世界で通用しないと思っていたが、どうやらそういう役目を期待していたらしい。


「あー、まぁ、善処するよ。

ところでキルッフ、アンタはリーダーとは付き合いが長いのか?

どんな奴だか、会ってみたいとは思っていたんだが。」


「あ?アイツとか?

まぁ、この作戦が片付いたら会えるんじゃないか?

アイツも意外に臆病な奴だからな、中々人前には姿をあらわさないのは勘弁してやってくれ。

ペリラスの奴にも今度言っておくよ。」


話を聞けば、キルッフとは幼少期からの付き合いらしい。

名前はペリラスというらしいが、キルッフが俺に“アイツ、そこまで期待するようなイケメンでもないぞ?”と笑いながら言っているところを見ると、どうやら実在の人物ではあるようだ。


(同一人物って線は無くなった、のか……?)


少しだけ、疑ってかかっていた。

あの紫という中央の指導者が、実はレジスタンスのリーダーなのではないかと。

体制に不満を持つ者を炙り出すために、マッチポンプの演出、ってのは、考え過ぎか。


<まだそう決めるには結論が早いかと思われます。

現に勢大は、一度もあの紫、ムラザト・シンゾーなる人物の顔も声も確認しておりません。>


確かにな。

レジスタンスではペリラスと名乗り、中央では紫なのだとしても、同一性が1つもない以上、同一人物か別人かは判断できないだろう。


(って事は、仮に紫とリーダーが同じだった場合、ペリラスという男は転生者、という事か。)


あの神を自称する少年、真面目な時と手抜きの時があるのか解らないが、結構な頻度で“そのまま転生”をやっている時が多い。

まぁ、ちゃんと“赤ん坊から生まれ変わり転生”も少なくはないので、今の情報だけでは判断がつかない。


ただ、と思う。


(赤ん坊からの生まれ変わりの場合、名前が全く引っ張られてない(・・・・・・・・)のは、あまり見ねぇんだよなぁ……。)


不思議な事に、転生すると元の名前をもじった名前になっている事が多かった。

いや、殆どそうだった、と言ってもいいだろう。

“シンゾー”が“ペリラス”に変わるのは、あまり例を見ない。


<それも、体感的なものかも知れませんよ。

いつでも、“最初の1回”は起こり得ます。>


まぁ、マキーナの言い分も正しい。

異世界を渡り歩くのに慣れすぎて、“まぁ、いつもの流れだな”と思う事が一番危ない。

現にこの世界では俺の腕力はあまり役に立たない。


(まぁ、警戒しつつ状況の様子見、という所かな)


<……“何もしない”と言った方が解りやすいかと。>


思わず苦笑いしそうになるが、今はまだキルッフとミサト君との最後の打ち合わせ中だ。

表情筋を抑え込みつつ、二人の会話に混ざる。


とはいえ、行動自体は単純だ。

俺とミサト君がバギーで先行し、セコの街に潜入する。

対象を見つけたら“一騎打ち”に持ち込み、その間にキルッフ達本隊が侵入して不意打ち決闘(デュエル)でその後を掃討する。


結局の所決闘(デュエル)というシステムが邪魔しているからなのか、敵も味方も集団戦は出来ず、少し変わった戦闘をするしかない。


決闘(デュエル)では、やれても2対2が限界だ。

それに決闘者(デュエラー)の力は凄まじい。

能力者でない一般人の集団だったりすると、魔物の一撃で“集団モブ”扱いされ皆殺しにされる事もありうるからだ。


「さぁ、それじゃあ行きましょうかセーダイさん。

運転はどうします?僕が運転しても良いですけど。」


「いや、それじゃカードバトルになった時に面倒な事になる。

俺が運転するから、ミサト君はバトルに備えてくれ。」


廃墟に隠されていたバギーに乗り込みながら、俺はハンドルを握る。

キルッフも、この役割を期待しているはずだ。

助手席、というか後部座席にミサト君を座らせると、エンジンに火を入れる。

想像より軽い音で、バギーが眠りから目を覚ます。


「2人共、頼んだぞ!!」


「おう、任せとけキルッフ!

それよりも、いざ俺達で戦い始めたはいいが、予想外の出来事があったんで出撃は取りやめて、ミサト君と俺を見殺しにしてみました、みたいなネタだけはやらないでくれよ!!」


俺のボケに、キルッフは満面の笑みで笑う。

“安心しろ、その時は天国にいけるように皆で祈ってやる”と笑っていたが、ミサト君からは怒られてしまっていたようだ。

ハハ、ミサト君にはこの手のブラックジョークは、まだ解らないか。


「全く!!

今はそんな冗談言ってる場合じゃないでしょうに!!

あ、セーダイさん、僕がナビしますよ。

色々さすらいましたからね、北部の街まで完璧に案内してみせますよ。」


「おぅ、助かる!

飛ばすからな!しっかり掴まっててくれよ!!」


何か言いかけたミサト君の声を置き去りにして、俺はアクセルを踏み込み加速させる。


見た目はボロボロのバギーだが、足回りや大事な部分はシッカリと整備されている事が、マキーナに観測してもらわなくても感じられて、楽しくなってくる。


車を走らせる、いや、機械を操作するのは何時ぶりだろうか。


「ホラ、しっかり道案内してくれよな!!」


ミサト君には悪いが、俺は久々の文明的な機械操作に、目的も忘れかけてしばし童心に帰っていたのだった。

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