528:爪を隠す
「ストーク・オブ・デス!特殊効果を発動!
“毒針の一撃”!!
この効果により、ストーク・オブ・デスは攻撃時に限り、自らのステータスに2,000追加される!!
対象はもちろん“戦士セーダイ”お前だ!!」
俺がターゲットにされたこの瞬間、俺の視界に文字が映る。
[SP/ST ?]
そう表示されている。
どうやら決闘者と狩人の2つのモードが同時に存在することによる、“意図しない不具合”というヤツなのだろう。
シールドで受けるか、ステータスで迎え撃つかを聞いているのだ。
そのすぐ脇に“5”という数字が現れ、時間とともに減っていく。
これを選ぶ時間は5秒以内という事か。
<勢大の能力であれば、STにすれば対消滅ではなく、一方的に撃破可能です。>
マキーナが最適解を教えてくれるが、俺はSPを選ぶ。
ちと面倒だが、今は勝つワケにはいかない。
まだレディメタルに伏せている特殊装備カードもあるが、それも使う必要は無さそうだ。
まぁ、いつかコイツには個人的にもリベンジとさせてもらうとしよう。
「う、うわぁぁー!!」
情けない声を出しつつ、モンスターの攻撃を食らって派手に吹き飛ぶ。
喰らう直前に、キルッフが頷いていたのも大きかった。
どうやら目的は達成したらしい。
これで安心して負けられるというものだ。
「クックック、やはり初期装備も揃えられない雑魚では、この俺の相手にすらならなかったようだな。
まぁ、喜べ、お前が弱すぎたのもあるが、それ以上に俺が強すぎたのだ。
この俺、ペリラス様と戦った事を、お前もいつかは自慢できる日が来るだろうからな、ハッハッハ!」
随分と自信満々な事だ。
ただまぁ、お前“ペリラス”というのか。
わざわざ教えてくれるとはありがたい。
覚えていたら、やり返してやってもいいな。
俺はぐったりしたフリをしながら消失していく手札を見る。
今が3ターン目の先行の手番。
俺のターンが来て、次のカードを引けばそれだけで大抵の事は終わる。
俺もこの3ターンをどうやって凌ぐか、が課題になりそうだな。
そんな事を思いながらも、手札にチラリと“ジュエルワスプ(幼体)”と書かれたカードが見える。
(このカードは進化すると敵モンスターに寄生体を産み付ける、か……。
これはこれで、面白いカードだなぁ。)
一番最初に手に入れたモンスターカード。
本当に何となくだが、愛着が無いわけでもない。
まぁ、ちゃんとしたカードバトルをするんであれば、こういうカードも軸に戦うのも、面白いかも知れないな。
<勢大、このままでは疑われます。
一度意識を消失させますので、ご注意ください。>
(あぁ解った、やってくれ。)
後頭部から脊髄にかけて、電気が走ったような痛みが流れる。
“やれやれ、もうちょっと優しく頼むと言っておくべきだったな”
そんなことを思いながら、俺は意識を手放すのだった。
「……オイ、オイ、起きろ!」
目が覚めると、また裸に剥かれて吊るし上げられてるのかとも思ったが、今回は違うようだ。
手足を椅子に固定され、頭が包まれるように重い何かを被されている様だ。
そして周囲を見渡せば、眼の前には古臭いブラウン管のテレビのようなものと、壁一面に、まるで音楽室のように小さな穴の空いた壁で囲まれている。
その構造のせいなのか、音一つしない空間が微妙に不快ではある。
そして、テレビの脇に立つのはレザーのハゲデブ。
地下で見た“所長”と言われている奴だ。
「起きたな644番。
お前は悲しい事に、偉大なる紫様への翻意があるようだな?
だが安心しろ、お前のような聞き分けの悪い子でも、すぅぐ素直になるように、この特別室が用意されている。
お前もすぐに“紫様バンザイ”と唱える、良い子になれるからな。」
所長は下卑た笑いを浮かべながら、通り過ぎざまに俺の頭をポンポンと軽く叩く。
うわ、少女漫画でお馴染み“頭ポンポン”って、こんなに不快な気持ちになるんや!?
俺絶対女の子にはやらんとこ!!
<……結構な世界で、勢大はそれやってきた気がしますが?>
うわー、最悪じゃん俺!!
そんな事を考えていると、部屋の照明が少しだけ暗くなり、ブラウン管に光が灯る。
<異常を検知。“対精神”が起動しました。>
少し前の世界から、マキーナは防御設定を複数設定できるようになっていた。
毎回困らされている事も多いため、今回は予め設定しておいて良かった。
まぁこれも神の力、“不正能力”の前では気休め程度にしかならないのだが。
(ん?何かあるな?)
ブラウン管が何かを映し出すまでの間、握っていた左手に違和感を感じる。
見てみれば、何かの紙片を握らされていた。
その紙片を頑張って開いてみてみれば、“画面を見続けるな、気を強くもて”という文字が微かに見えた。
<キルッフ氏がそれを握らせていました。>
いや、そういう大事な事は先言ってもらえます?
<私に“対精神”能力がセットされていれば、スキルによる催眠程度は完全に無効化出来ます。
“不正能力”であれば、どの道我々は無力です。
その為、特段急いでお伝えするべき内容ではないと判断しました。>
あぁそうですかい。
心の中でマキーナにそう吐き捨てながら、椅子の背もたれに体重を預け、画面をぼんやりと見る。
映像はどこかのドキュメンタリー番組のような構成だ。
旧世紀の繁栄した記録、魔獣の反乱、モンスターカード化して戦う方法の発見。
そして旧文明の叡智を回収する事を決めた、偉大なるリーダー“紫”。
その紫の……、いや紫様のお決めになられた階級制度で、功績を上げた市民は紫様から与えて頂く幸福を義務として享受し、そうでない“市民以下”は市民の為に奉仕する事で、再び市民として幸福を受け取る権利を得られる、完璧で素晴らしいシステムを構築なされて……。
<勢大?思考が引っ張られていませんか?>
あ、イカンイカン。
ちょっと映像としても面白いのズルいだろ、これ。
危うく見入って、普通に感銘を受ける所だったわ。
ただ、この世界の成り立ちが何となく解ってきた。
元の世界で言えば俺がこっちに来るよりも更に前の時代、ブラウン管のテレビに黒電話と、昭和時代らしき文明が辛うじてこの“中央”に残るくらいで、それ以外は核戦争による大破壊後の様な状況になっているワケだ。
(さて、ここを出たらキルッフとコンタクトを取らなきゃな。)
どうやら同じ映像が繰り返し流されるタイプらしい。
一度見てしまった事で退屈を感じつつ、俺はこの後の行動に思いを巡らせるのだった。




