表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界殺し  作者: Tetsuさん
自由への光
529/832

528:爪を隠す

「ストーク・オブ・デス!特殊効果を発動!

“毒針の一撃”!!

この効果により、ストーク・オブ・デスは攻撃時に限り、自らのステータスに2,000追加される!!

対象はもちろん“戦士セーダイ”お前だ!!」



俺がターゲットにされたこの瞬間、俺の視界に文字が映る。


[SP/ST ?]


そう表示されている。

どうやら決闘者(デュエラー)狩人(ハンター)の2つのモードが同時に存在することによる、“意図しない不具合”というヤツなのだろう。


シールドで受けるか、ステータスで迎え撃つかを聞いているのだ。

そのすぐ脇に“5”という数字が現れ、時間とともに減っていく。

これを選ぶ時間は5秒以内という事か。


<勢大の能力であれば、STにすれば対消滅ではなく、一方的に撃破可能です。>


マキーナが最適解を教えてくれるが、俺はSPを選ぶ。

ちと面倒だが、今は勝つワケにはいかない。

まだレディメタルに伏せている特殊装備カードもあるが、それも使う必要は無さそうだ。


まぁ、いつかコイツには個人的にもリベンジとさせてもらうとしよう。


「う、うわぁぁー!!」


情けない声を出しつつ、モンスターの攻撃を食らって派手に吹き飛ぶ。

喰らう直前に、キルッフが頷いていたのも大きかった。

どうやら目的は達成したらしい。

これで安心して負けられるというものだ。


「クックック、やはり初期装備も揃えられない雑魚では、この俺の相手にすらならなかったようだな。

まぁ、喜べ、お前が弱すぎたのもあるが、それ以上に俺が強すぎたのだ。

この俺、ペリラス様と戦った事を、お前もいつかは自慢できる日が来るだろうからな、ハッハッハ!」


随分と自信満々な事だ。

ただまぁ、お前“ペリラス”というのか。

わざわざ教えてくれるとはありがたい。

覚えていたら、やり返してやってもいいな。


俺はぐったりしたフリをしながら消失していく手札を見る。


今が3ターン目の先行の手番。

俺のターンが来て、次のカードを引けばそれだけで大抵の事は終わる。

俺もこの3ターンをどうやって凌ぐか、が課題になりそうだな。


そんな事を思いながらも、手札にチラリと“ジュエルワスプ(幼体)”と書かれたカードが見える。


(このカードは進化すると敵モンスターに寄生体を産み付ける、か……。

これはこれで、面白いカードだなぁ。)


一番最初に手に入れたモンスターカード。

本当に何となくだが、愛着が無いわけでもない。

まぁ、ちゃんとしたカードバトルをするんであれば、こういうカードも軸に戦うのも、面白いかも知れないな。


<勢大、このままでは疑われます。

一度意識を消失させますので、ご注意ください。>


(あぁ解った、やってくれ。)


後頭部から脊髄にかけて、電気が走ったような痛みが流れる。

“やれやれ、もうちょっと優しく頼むと言っておくべきだったな”

そんなことを思いながら、俺は意識を手放すのだった。






「……オイ、オイ、起きろ!」


目が覚めると、また裸に剥かれて吊るし上げられてるのかとも思ったが、今回は違うようだ。

手足を椅子に固定され、頭が包まれるように重い何かを被されている様だ。

そして周囲を見渡せば、眼の前には古臭いブラウン管のテレビのようなものと、壁一面に、まるで音楽室のように小さな穴の空いた壁で囲まれている。

その構造のせいなのか、音一つしない空間が微妙に不快ではある。


そして、テレビの脇に立つのはレザーのハゲデブ。

地下で見た“所長”と言われている奴だ。


「起きたな644番。

お前は悲しい事に、偉大なる紫様への翻意があるようだな?

だが安心しろ、お前のような聞き分けの悪い子でも、すぅぐ素直になるように、この特別室が用意されている。

お前もすぐに“紫様バンザイ”と唱える、良い子になれるからな。」


所長は下卑た笑いを浮かべながら、通り過ぎざまに俺の頭をポンポンと軽く叩く。


うわ、少女漫画でお馴染み“頭ポンポン”って、こんなに不快な気持ちになるんや!?

俺絶対女の子にはやらんとこ!!


<……結構な世界で、勢大はそれやってきた気がしますが?>


うわー、最悪じゃん俺!!


そんな事を考えていると、部屋の照明が少しだけ暗くなり、ブラウン管に光が灯る。


<異常を検知。“対精神”が起動しました。>


少し前の世界から、マキーナは防御設定を複数設定できるようになっていた。

毎回困らされている事も多いため、今回は予め設定しておいて良かった。

まぁこれも神の力、“不正能力(チート)”の前では気休め程度にしかならないのだが。


(ん?何かあるな?)


ブラウン管が何かを映し出すまでの間、握っていた左手に違和感を感じる。

見てみれば、何かの紙片を握らされていた。

その紙片を頑張って開いてみてみれば、“画面を見続けるな、気を強くもて”という文字が微かに見えた。


<キルッフ氏がそれを握らせていました。>


いや、そういう大事な事は先言ってもらえます?


<私に“対精神”能力がセットされていれば、スキルによる催眠程度は完全に無効化出来ます。

不正能力(チート)”であれば、どの道我々は無力です。

その為、特段急いでお伝えするべき内容ではないと判断しました。>


あぁそうですかい。


心の中でマキーナにそう吐き捨てながら、椅子の背もたれに体重を預け、画面をぼんやりと見る。

映像はどこかのドキュメンタリー番組のような構成だ。

旧世紀の繁栄した記録、魔獣の反乱、モンスターカード化して戦う方法の発見。

そして旧文明の叡智を回収する事を決めた、偉大なるリーダー“紫”。

その紫の……、いや紫様のお決めになられた階級制度で、功績を上げた市民は紫様から与えて頂く幸福を義務として享受し、そうでない“市民以下”は市民の為に奉仕する事で、再び市民として幸福を受け取る権利を得られる、完璧で素晴らしいシステムを構築なされて……。


<勢大?思考が引っ張られていませんか?>


あ、イカンイカン。

ちょっと映像としても面白いのズルいだろ、これ。

危うく見入って、普通に感銘を受ける所だったわ。


ただ、この世界の成り立ちが何となく解ってきた。

元の世界で言えば俺がこっちに来るよりも更に前の時代、ブラウン管のテレビに黒電話と、昭和時代らしき文明が辛うじてこの“中央”に残るくらいで、それ以外は核戦争による大破壊後の様な状況になっているワケだ。


(さて、ここを出たらキルッフとコンタクトを取らなきゃな。)


どうやら同じ映像が繰り返し流されるタイプらしい。

一度見てしまった事で退屈を感じつつ、俺はこの後の行動に思いを巡らせるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ