527:実力を測る
(ここから多分4枚……いや、3枚はアレが来るとして……。)
手札にあるカードを見、そして自分自身の状態を確認する。
あの良く解らない半透明の鎧は着ていない。
狩人モードにはなっていないという事だ。
でも、手札には狩人モード用の槍がある。
「俺はこの槍を使う。
そして生産コストに1枚捧げて、このレディメタルとやらを召喚。
更に召喚したレディメタルに1枚カードを装備させて、ターン終了だ。」
何もないところから現れ、地面に突き刺さった槍を引き抜く。
やはり半透明の鎧は出て来ないが、俺の左脇に“戦士セーダイ”の文字が浮かぶ。
恐らくシステム的には、狩人と決闘者が同時に発生しており、キメラのような状態になっているのかも知れない。
当然の事ながら、狩人用の手札が重いため、手札にはコストの重いモンスターが殆どで、ソイツ等を呼び出すには生産コストが足りてない。
今はこの、ステータスが1,000しかない丸っこい虫型モンスターを呼び出すのが精一杯だ。
よく見れば銀色のボウルを逆さまにしたような、何となく愛嬌のある見た目をしている。
召喚されたそのターンは、肉体を物質化するのに費やされるらしく、一生懸命モゾモゾしている。
虫系が嫌いなら耐えられなかっただろうが、別段そこまで苦手でもない俺から見れば、その姿も何となく愛らしく見えてくるから不思議だ。
「ケケッ!
やっぱり“カード足らず”ってのは、お前の事か!
お前、その槍を装備しちまったから、“モンスター扱い”になってるって、知らなかったのかよ!!」
黄クラスの男が余裕綽々という表情で、カードを1枚引く。
よほど良いカードを引けたのか、自然と笑みが広がっている。
驚くふりはしておいたが、良い情報が聞けたと内心ほくそ笑む。
「俺は黄の中でも上位にランクされてるからなぁ!
もうじき緑も見えてきてる俺様との戦いだ、光栄に思っていいぞ!」
男はカードを1枚生産コスト化すると、眼の前の空間にカードを浮かべる。
「俺は、このカードを場に配置し、このターンを終える!
さぁ、お前のターンだ。
せいぜい残されたこのターンを楽しむといい。
お前の命は、このターンで終わるからなぁ!」
随分と自信満々だ。
だが、それは好都合。
コイツはつまり、“黄クラスの中では上位の腕前”という事なら、コイツが強さの尺度になるという事だ。
この手のカードゲームは大学生時代に少しだけ触った事がある。
その経験から言うなら、この黄クラスの男は“回しが遅い”と感じる。
コイツが恐ろしく強いなら、俺に手番など寄越さない。
つまりはその程度の腕前、という事だろう。
これで緑クラスまで通じると言うなら、緑の上位以上までは警戒しなくても良さそうではある。
俺は手札を1枚引く。
想像通り、ステータス倍加の狩人用カードが手に入る。
しかも、順番も一緒だ。
この手のカードゲームにおいて、“引けるカードの順番が解る”というのは結構重要だ。
下手したら不正能力クラスだろう。
ただまぁ、本来は誰しも、自分の肉体で戦う事は恐ろしいだろう。
モンスターは消失してもカードがあれば何度でも復活するが、人間はそうはいかない。
誰もが我先にとモンスターカードを入手するから、或いは“決闘者には攻撃が通用しづらい”という固定観念が、この状況を生んでいるのだろう。
「俺は手札を1枚生産コスト化する。
それと、“倍加”のカードを使い、俺自身のSPを10,000に上げる。」
槍を装備した“戦士セーダイ”のSPが10,000まで跳ね上がる。
それを見ても、黄クラスの男の表情には余裕が浮かんだままだ。
「ククク…、いくら防御を上げようと無駄な事。
それだけでいいのか?
今なら俺のモンスターに攻撃出来るチャンスだぞ?
相打ちになってでも、場のモンスターを減らしたほうが良いんじゃないか?」
俺のレディメタルも奴のレインボーインセクターも、同じステータス1,000のモンスター。
このまま殴り合えば、互いに対消滅しておしまいだ。
ただ、ここで鮮やかに勝ってもあまり意味がない。
本当はまだモンスターも出せるが、少しは手を抜いておこう。
「いや、その伏せてあるカードが怖い。
このターンはここで終わらせておこう。
次のターンには生産コストが3になる。
そこからが本番だろう。」
何となくデッキを見ていて思った事だが、モンスター関連はコスト3くらいが主力カードなのかな?という印象を受ける。
コスト1〜2のモンスターはステータスが低い代わりに、何となく変わった能力を持っていることが多い。
俺のレディメタルも、その能力に“その硬い装甲で一度だけ相手からの攻撃を無効化する”という能力が付いている。
そのお陰もあってか、アイツは攻めて来ないのだろう。
そしてコスト2の一部〜3になると、ステータスが5,000前後になり、純粋な殴り合いに強くなる。
中には“攻撃無効効果を無効にする”みたいなワケのわからん能力もあったりと、まぁとにかく“主力となる攻撃”はこのコスト帯からで、決闘の優勢劣勢はこの時の戦いで決まりやすい。
コスト4から上は、基本的に1つ頭が抜けた上位コスト帯で、最低でも8,000という強いステータスを持つものが多い。
ま、特殊能力も複数持ちだったり強力だったりするものが多く、これを先に場に出せばほぼ勝ちが確定する。
それほどに強力なカードなのだ。
「クックック、所詮は素人だな。
俺が最初のターンに何をしたか、もう忘れたらしい。」
「な、何だと!?」
“知ってるよ”と思いながら、一応形式的に驚いておく。
コイツは1ターン目に、“次のターンから生産コストに+1する”というカードを使っていた。
つまりコイツは、俺よりも早くコスト4のモンスターを呼び出せるという事だ。
「ククク……、忘れたなら思い出させてやる!
カード、ドロー!
生産コストに1枚ささげ、俺の生産コストは4に到達する!!
いでよ、“ストーク・オブ・デス”!!」
轟音と閃光と共に、巨大で赤黒いサソリが姿を表す。
ピコピコという電子音が鳴り、サソリの上に8,000という数値が浮かぶ。
中々強力なモンスターを召喚してきたな、と見上げる。
ただ、言うてそこまで強いとも思えないステータスだ。
申し訳ないがコスト4相当の、“それなりに強力なモンスター”といった所か。
「クックック、お前今、“一撃では殺られないな”と思って安心しただろう?
だがその表情、どこまで保っていられるかなぁ?」
今の俺の考えを見透かしたかのように、黄クラスの男が顔の前に手のひらを持ってくるポーズを決める。
いや、それ別の漫画の立ち方じゃねぇ?




