526:有名なあの一言
「アンタ……セーダイだったか。
いやはや凄ぇな、それは何かのカードの……いや、そうじゃねぇのか?」
キルッフは首を傾げながら、今起きている事を何とか自分の常識でも解る範囲に納めようと、アレコレ考えを浮かべている様だ。
「……おい、キルッフさん、この人じゃねぇのか?」
俺の言葉に、ハッと現実に返ったキルッフが駆け寄ってくる。
瓦礫を撤去しきった俺の目の前。
足元に、ボロボロの赤い服、いや布切れを纏った白骨がある。
頭骨の割れた部位を見ても、一瞬であの世に逝ったらしい事が見て取れる。
苦しまずに逝けた事は、この場合まだ救いがあると言えるのだろうか。
「あぁ、すまねぇ、すまねぇ……!!
こんなに時間かかっちまって、本当にすまねぇ……!!」
キルッフは白骨に飛びつくが、やはり限界だったのたろう。
触れたところから骨はサラサラと崩れ、灰になっていく。
衣服も同様だ。
触れば崩れていく。
サラサラと風に流され、崩れたその後に残っていたのは、錆びて読めなくなった1枚のドッグタグ。
それすらも、触れれば崩れ落ちてしまいそうだ。
<“世界の変換作業による影響”……なるほど、少し状況が飲み込めました。>
マキーナから情報が流れ込んでくる。
世界が不足するエネルギーを、死んだ人間からも回収しだしている、という事らしい。
死んだ人間からエネルギーの吸収をする際に、身に付けている衣服等もそれに引っ張られるため、通常よりも劣化が激しくなるらしい。
(なるほどな。だが、考察は後だマキーナ。)
見れば、キルッフが何かを悩んでいる。
「キルッフさん、どうした?
そのタグを拾わねぇのか?」
「あ、いや、そうしたいんだが、また崩れたらと思うと怖くてな。
カードに封印して確保しておこうにも、俺は今予備のカードストックまで使い切っちまってるんだ。
だから、どうしようかと思ってな。」
確かに。
あのドッグタグも、言ってみればこの白骨さんの持ち物だ。
過剰なエネルギー回収の餌食にあっていると見るべきだろう。
「……なぁ、キルッフさんよ。
正直に話すとな、俺は目的があって、というか、ある人物からヒントを貰ってアンタに近付いた。
そして、俺はちょうどカードに空きがあるんだ。
これを一時的にでも俺の方で回収するから、俺の話を聞いてはくれないか?」
しばしの沈黙。
キルッフが険しい表情で何かを考えていたが、最後には両手を軽く上げて降参のポーズを取る。
「解った、既にアンタにゃ手伝ってくれた借りがある。
しかもここで彼の遺品を回収してくれるってんなら、俺に出来る事なら大抵の事は協力するよ。」
「いや、ここまでの発掘作業は、俺がそうしたかったからしただけだ。
そっちは借りにしなくていい。」
大真面目に答えたが、キルッフは本当に面白いものでも見たかのように、顔を歪めて笑う。
「……解った、頼む。」
キルッフの頼みを叶えるため、俺はカードデッキを呼び出すと錆びたドッグタグを吸収する。
吸収したカードを見ると、無事にアイテム化されたようだ。
“キンデリックの意志”
カード名は、そんな名称だった。
-警告!警告!カード反応!-
俺の首輪から、突然の警告音と音声が流れる。
「よし、時間がないぞセーダイさんよ。
多分この位置なら奴等が来るまで5分か10分か、って所だ。
急いで要件を教えてくれ。」
キルッフの言葉でなんとなく察する。
俺は急いで、ミサト君のメモを頼りにキルッフを探し当てた事を伝えると、キルッフの目が少し輝く。
「……なるほど、ミサトのやつが。
よし、それならセーダイさん、ちょっとアイツ等から手に入れたいものがある。
悪いが、少し芝居に付き合ってくれるか?」
キルッフが、急いでこの後の事を説明する。
そうして説明が終わった頃には、キルッフの予想通り黄クラスの監視員が俺達のもとに現れていた。
「くぉら貴様等!!
何をやっているんだ!?」
「た、助けてくださいよ監視員さん!!
この新入りがですね、お前の荷物を寄越せ!って言って襲いかかってきたんですよ!!」
キルッフが、俺に殴られながら必死に助けを求める。
「違う!コイツが俺の漁ってるところに、後から来やがったんだよ!!」
俺も、迫真の演技でキルッフを殴りつけるフリをする。
「えぇい!貴様等!醜い争いなぞするな!!
全ては紫様の持ち物だろうが!!」
スタンガンのようなものを俺に押し当て、電気を流すのを感じる。
マキーナのアンダーウェアモードによって、殆ど痛みは感じないが、一応効いたフリをする為“ギャッ”と言いながら吹き飛ばされた様に転がる。
「痛ぇな!何しやがる!?
何が紫様だ!!
元々はここの住人の物をかっぱらってるだけだろうが!!」
俺が吠えると、黄クラスの奴等から、スッと表情が消える。
「オイ、決闘しろよ。」
黄クラスの中でも一番強そうな奴が、スッとカードデッキを取り出す。
あ、すげぇ、やっぱそういう入りなんや。
うわー、俺真顔でそういうセリフ言う奴初めて見たわ。
「お、おぉ、やってやらぁ!!」
一応、キルッフから聞かされた流れがあるから、挑発に乗ったように見せる。
握りしめていたカードデッキを前に突き出し、決めポーズを取る。
「決闘モード、スタンバイ!」
<デュェル!!ステェァンバァァァイ!!>
またあの良く解らない機械音声のようなオッサンの声が響いたかと思うと、腰にベルトが巻き付く。
ベルトにカードデッキを差し込み、カードを5枚引くと、俺の左側にピコピコという電子音とともにSP5,000という文字が表示され、その後すぐに“後攻”という文字も浮かぶ。
「クックック、俺の先行逃げ切りデッキを相手に後攻になっちまうとは、運はないようだな新人。
俺はカードを1枚生産コストに!
更に特殊魔法、“生産ライン強化”を使用する!
このカードは次のターンから生産コストとして使用できる!
そして更にモンスターを召喚!
いでよ、レインボーインセクター!
そして俺のターンは終了だ!」
甲殻類らしい、虹色の羽を持つ虫が召喚される。
コイツには1,000という表示があるところを見ると、あまり強くない序盤の繋ぎモンスター、という所か。
「俺のターンだな?
じゃあ、ドローだ!」
カードを一枚引く。
そして、想像は確信へと変わる。
やはり、狩人モードの槍を引いていた。
これはもしかしたら、このゲームの抜け道を見つけたかも知れない。




