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異世界殺し  作者: Tetsuさん
自由への光
525/832

524:情報にはご用心

「オラッ!早く答えろよ!!」


緑服の連中は4人組。

男が3人に、女が1人の男女混合パーティ。

街の治安を守っているのは主に青階級の人間だが、突発的、しかも小規模のトラブルに柔軟に対応できるほど頭数は多くない。

そこで、“中央”は少数精鋭で機動力のあるトラブルバスター、“エージェント”を配置していると聞く。

多分、彼等がそうなのだろう。

噂には聞いていたが、実際に目の当たりにするのは初めてだ。

元黄階級の市民で、その職務の都合から緑階級に上がったため、“自身が選ばれた特別な人間だ”と認識している事が多く、割と黄や赤の階級にいる人間を見下す輩が多いらしい。


眼の前にいる輩も例に漏れず、清掃業務に従事しているだけの赤の人間に対して、高圧的な態度を取っている。


「オラッ!使えねぇヤツだな!」


筋骨隆々の緑服が、締め上げていた赤服を殴り飛ばす。

この街にいる人間は基本的に決闘者(デュエラー)としての適性があり、人間同士の攻撃には多少の耐性がある。

それでも、同じ決闘者(デュエラー)同士では耐性も多少薄まるらしい。

緑服に殴り飛ばされた赤服は、血を撒き散らしながらゴミの集積所に飛ばされる。

ゴミ袋と衝突した後に゙ピクリとも動かないところを見ると、若干ヤバい状態かも知れない。


「な、止めてください!本当に解らないんです!」


両手を広げて緑服の前に立ちふさがった男がいる。

勇敢だなと思い見てみれば、ミサト君だった。


(あっ、マズい。)


とっさに踏み込む。

筋骨隆々の緑服が、今まさにミサト君に向けて拳を振り上げる。

殴りつけようと一歩踏み出したその足めがけ、ホウキを差し込む。


「赤服がうるせ……おわっ!?」


「あ、すいませーん。

掃除中だったんですが、突然近付くと危ないですよー?」


殴るための軸にしようと思った足にホウキを差し込まれ、筋骨隆々の緑服がたまらず転倒する。

そんな緑服の男に、俺は努めて笑顔で緑服達に話しかける。


「テメェ!何しやがる!?」


故意か偶然かは解らなくとも、“邪魔された”という事実から、緑服の男は相当頭に来たようだ。

素早く起き上がると、俺の胸ぐらを掴んで締め上げる。


「あっ、い、いえ、それよりも!

先程の放送は大丈夫なんですか?

何か会議室がどうとか言ってましたが……?」


締め上げられながらも、笑顔を崩さないようにさり気なく情報を流す。

途端に緑服の男は、“何っ!?お前聞き取れたのか!?”と、目の色を変えて俺に怒鳴りつけてくる。


「へ、へぇ、アタシは耳が良いもんで、先程の放送も聞こえてまして。

本部第()会議室に集合とか、そんな内容でしたね。」


「おぉ、お前良くやった!

褒美にここでの事は不問にふしてやろう!

いいか、紫様の為にしっかり働けよ!」


上機嫌になった筋骨隆々の緑服は、締め上げていた手を離すとすぐに仲間の元へ走り、何かを会話している。


……残念、お前のその情報は欺瞞(フェイク)だ。

もう少し時間を消費してでも、俺一人だけでなく他のヤツも締め上げて情報の正確性を確認するべきだったな。


<……何と言うか、勢大は底意地が悪いですね。>


TRPG(この手のゲーム)じゃ、“ヤケに簡単に与えられる情報には疑ってかかれ”ってのは鉄則だぜ?

あの赤服のカタキと、ちょっとした授業料、ってヤツさ。)


見れば4人組は、今度は移動手段で揉めているらしい。

そこまで仲が良い訳ではないのか、言い争いをしていたかと思うと1人の男はその場から本部方面へ走り出す。


「へっ、あんなんじゃすぐには着かねぇぜ。

オラ、そこの黄色!その車を俺に寄越せ!」


先程の筋骨隆々の男は、近くで停まっていた黃の市民から車を強奪する事にしたらしい。


「わー、スゴーイ!アタシも乗せてー!」


女は上手く車に滑り込む作戦らしい。

筋骨隆々の男も満更ではないのか、鼻の下を伸ばしながら女を誘導する。


「フン、そんなオンボロ車、いつ爆発してもおかしくはないだろうに。

俺は“中央”が作った転送装置で、先に向かわせてもらおう。

なぜ貴様等は紫様が御造りになられた“無事故・絶対安全”の転送装置を使わんのか、神経を疑うな。

これは紫様への不敬として、後で報告させていただこう。」


残された男は悠々と歩きながら、どこかへと向かっていった。


やれやれ、あんな感じの不仲でバラバラな奴等に、トラブルをバスター出来るのかね?


「おっと、それどころじゃねぇな。

久しぶりだなミサト君!

無事だったのか!

……その、主に尻とか、尻とか、後は尻とか。」


オブラートに包んだ物言いをしようとしたが、つい本音が漏れてしまう。


「尻……な、何を言うんですか!?

僕にそんな趣味ありませんよ!?」


ミサト君はキョトンとした後、ちょっと顔を赤らめて尻に手を当てながら怒る。

最初は“そうか、誰にも触れられたくない繊細な話題だったな”と慰めようとしたが、本気で怒られてしまった。

どうやらあの日の深夜、ミサト君は“デッキ所持者”として先に連れ出され、こうして赤服として先に労働に従事していたらしい。


「あ、あー、なるほどね?

いや、そうかー、ハハハ、ゴメンゴメン!

でも、君の尻が無事で本当に良かった!!」


「セーダイさん、本気で怒りますよ?」


イヤだってほら、センシティブやん?そういう話題。

俺はジト目で静かに抗議するミサト君に、ただ笑って誤魔化すしかなかった。


「ギィヤァァァァ!!」


どこか遠くで誰かの悲鳴が聞こえる。

不審に思っていたが、ミサト君が独り言のようにボソリと“多分なんですけど、転送装置がある方向ですね、今の悲鳴”と、遠い目をしながら教えてくれた。


それを聞きながらふと、“あぁ、無事故ってそういう”という考えがよぎる。

乗りたがらない転送装置の正体、それは“死人に口なし”という事なのだろう。


どんな事故でも、報告者がいなければそれは“無事故”なのだ。

そして、無事転送できたヤツしか残らないなら、それは確かに“絶対安全”だろうさ。


「……まぁ、こうしてミサト君が無事で良かったよ。

君は、これからどうする予定だ?」


次に会えるのは何時になるか解らない。

ここでこの先の方向性を確認しておかないと、俺一人で脱出するかの判断に迷う。


「いやー!本当に助かりました!

助けていただきありがとうございます!」


ミサト君は周囲に聞こえるように大きな声で俺に感謝を伝えると、握手を求めてくる。


ここで握手しないのは不自然と思い、頭に?マークを浮かべながら差し出された手を握る。


手のひらに、モノがある僅かな違和感。


「運が良ければ、またお会いしましょう!

アナタは命の恩人だ!

ではワタシはこれで!

お互い紫様のために、労働に励みましょう!」


「あ、あぁ、そちらもお達者で!」


こうして、ミサト君との僅かな邂逅は終わりを告げる。

微かに開いた俺の手の中には、丸めた紙切れの存在が見えた。

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