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異世界殺し  作者: Tetsuさん
自由への光
523/832

522:市民レベル「赤」

[よぅし、これにて“養殖”を終了する。

ナンバー644番、何をしている?

早くカードを回収しろ。]


片手斧に付着する、魔物のモノと混ざり合い、濁った赤い液体。


俺は、それをただ見ていた。

ゆっくりと滴り落ちる液体が、地面に小さな水たまりを作っていた。

時間と共に片手斧が消失し、刃に付着していた液体がいっぺんに落ちてシミとなる。


<勢大、急ぎ落ちている魔物を吸収してしまいましょう。

勢大?……勢大!!>


「あ、お、おぅ。……何だ?」


マキーナが珍しく、大きな音声で警告を出していた。

何か異常事態かと周囲を見渡すが、追加で魔物が現れる等、特に異常があるわけではない。


<……魔物の吸収を。>


言われて、今の状況を思い出す。

俺は腰のベルトからカードデッキを引き抜くと、魔物を吸収し始める。


(ん?このカード、“これを装備したモンスターを進化させる”とか書いてあるな?)


比較的原型を留めている魔物はモンスター化出来ているが、バラバラの残骸みたいになってしまっている魔物は、どうやらアイテム化するらしい。

甲虫の羽だけを吸収しようとしたら、“存在進化”という名前のカードが出てきていた。


<勢大、落ちている魔物は重複を除けばこれで全てです。

デッキを完成させるには、後5枚ほど足りません。>


チラとカードを見ると、35/40という表示が見える。

途中で魔物を制限した影響と、“同じモンスターはデッキに2枚までしか入れられない”という制限もあるらしく、俺のデッキは中途半端なまま終わっていた。


<また、今回経験を積んだことによりSPが5,000まで上昇しました。

これは負けるとリセットされる様です。>


なるほど、そういう効果か。

恐らくミサト君もあの戦いに至る前に何かあって、それであの時1,000しか無かった、という事か。

“保ってくれよ”という言葉の意味も、何となく合点がいく。


[どうした644?早くデッキを完成させろ。]


「完成も何も、もう魔物は吸収出来ねぇみたいだが?」


俺は両手を広げながら、ガラス張りの向こうにいる人影を睨む。

魔法の影響か、俺が突き刺した槍の跡は綺麗に消えていた。


[あるではないか、カードならそこに。]


言われて、気付く。

“敵”……いや、死んだ子供達が組み上げかけていたデッキがある。

そこからカードを引き抜け、という事らしい。


<今は従う方が賢明かと。

検索した結果、アチラと、……アチラの子供は、この中では強い方に分類されると思しきモンスターカードを吸収しておりました。

オススメはその二人です。>


右目に、対象の亡骸に矢印が表示される。


「いや、このままで良い。」


俺はマキーナの声には耳を貸さず、ガラス張りの方へ向き直り、そう声をかける。


[正気か?そのままでは……。]


「このままで良い、と言っている。」


マキーナの警告もガラス張りの向こうにいる奴等の動揺も無視して、ただ静かにそう答える。


小さな、本当に小さな俺の譲れないモノ。


彼等と俺は、互いの生命と自由を賭けて戦った。


あの時の賭け金はそれだけ(・・・・)だ。


切っ先を向けた敵ならば。

決闘として命の奪い合いをした敵同士なら。

相手からそれ以上の尊厳は奪わない。


<……どうせ後で、他のデュエラーが奪うと思いますが。>


それでも、だ。

一度“敵”として認識した以上は、相手が子供でも手は抜かない。

そして子供であっても、戦った相手には敬意を払う。

せめて俺は、今はそうでありたいのだ。

それに、このデッキシステムに対して思うところもあった。


ガラス張りの向こうで、紫色の服の男が周囲に何かを伝えている。

その結果を受けたからなのか、声は落ち着きを取り戻す。


[……よかろう、これにて“養殖”を完全終了とする。]


その声と共に、俺の両手足のリストバンドから鎖が飛び出し、それぞれを繋ぐ。

1つの檻が地面から現れ、その口を開ける。


足を引きずりつつ黙ってそれに乗ると、檻はひとりでに閉まり、内側に緑色の霧のようなものが立ち込める。


<ポーションを霧状にして噴霧しているようです。

勢大の足もこれで完全に治ると思われますが、念の為多少は吸い込んでください。>


一瞬、睡眠薬か何かの類と思い息を止めたが、マキーナの言葉で普通に呼吸する。


吸い込んだポーションの霧は、本来なら味がしないはずなのに、その時の俺には何故か苦く感じられていた。






「よぅし、お前達は改めてここ“中央”に所属する、栄誉ある“市民”となった。

始まりの色、“赤”からとなるが、デュエラーであるお前達はその腕一本で上り詰めることも可能となる。

以後、紫様に感謝しつつ、労務に励むように!」


緑色の男がそう怒鳴ると、黄色い服を着た男達が次々と現れ、俺達の前に赤い服を置いていく。




あの後、1人用の檻で運ばれた俺は、先に転送していた子供達のいる、大きめの檻に辿り着いていた。

子供達は俺と距離を取り、遠巻きに怯えてみているだけだ。

檻の前にでかいスクリーンがあるところを見ると、どうやら先程の戦いは一部始終を見させられていたらしい。


その、俺達がいるでかい檻とスクリーンの間に緑の服の男がふんぞり返っていた。

側面の入口から黄色の服の男達が入ってきて先程配り、また出ていった、という訳だ。


「おぉ、これはこれは紫様!ご機嫌麗しゅう!!

こちらにいらっしゃるとは、お珍しい!!」


そうして、俺達が服を着替える間、ずっとふんぞり返っていた緑服が突然慌て、入口まで飛ぶようにして走ると腰を低くして、一人の人間に揉み手をしながら暑苦しい笑顔を向ける。


青い甲冑達に囲まれた、紫の男?がこの場に現れたからだ。


紫服は頭に真っ黒な頭巾を被っており、全く顔が見えない。

体型も、男といえば男なのだが、ちょっと胸が小さめの女といえばそうかもしれない、という、微妙な中肉中背。


「お前が、“カード足らず”か。」


紫服は緑服など意に介さず檻の近くに来ると、俺に声をかけてくる。

その声も、何かの機械か魔法なのか、ボイスチェンジャーのようなもので音が変えられており、ますます男女の区別がつかない。


鉄格子の間から手を伸ばして、その胸倉でも掴んでやろうと思ったが、微妙に距離が遠い。


「おぉ、色々回収したが、カードが足りなかったみたいでな。

良かったらお前の持ってるデッキから一番強ぇのでもくれよ?」


「貴様!!紫様に不敬であろう!!」


緑服の男が怒鳴るが、紫のコイツが手を上げるとすぐに静かになる。


「面白い男だ。

一番強いのはやれないが、後で何か届けさせてやろう。

あの戦闘を切り抜けた報奨だ。」


周囲が、青い甲冑の奴らも何人かは動揺を見せる。

それ程に凄い事、なのだろうか。


「やっぱりそんなモンはいらねぇ。

代わりに、お前の名前を教えろ。」


周囲から“不敬な”とか“貴様、調子に乗るなよ!”といった暴言が聞こえるが、俺は静かに紫服を見つめる。


「それが報奨ですか、良いでしょう。

私の名は“ムラザト・シンゾー”。

……きっと、貴方と同じ出自でしょうね。」


それだけ言うと、紫服……いや、ムラザトは出て行った。


「……クソッ、二人目の転生者か。」


転生者が複数人いると、それだけ事態が煩雑になる。

世界の力の消費も増える。


厄介な事態に巻き込まれたようだ。

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