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異世界殺し  作者: Tetsuさん
自由への光
519/832

518:しくじり

「な……んだよこりゃぁ!?」


カードデッキ、“ブランク体”とやらを使い、決闘(デュエル)モードを起動する。

カードデッキの束を格納したベルトはミサト君達と同じだが、何故だか半透明の鎧らしきものを身にまとっており、しかもいつの間にか持っていたのか、片手剣と小ぶりの盾も装備している。


<勢大、良く似合いますよ。>


「……オメェ等風に言うなら、“皮肉を検知しました”ってヤツだな。」


無機質なはずのマキーナの声が、どこか笑いを堪えているように感じる。

ふと自分の左側を見れば、“戦士セーダイ”という表示と“LP1,000”という文字が見える。


なんじゃこりゃ。

つまり俺は、この世界でのモンスター扱いって事か?


<いいえ、それが初期装備の“狩人(ハンター)モード”の様です。

自分のターン毎にデッキからカードを引き抜き、出てきた初期アイテムを駆使し、モンスターを倒してモンスターを入手する、と、説明書に書いてあります。>


説明書とかあるの!?


ともあれ、出てきたものを使うしかない。

俺はミサト君側に立つと、ベルトからカードを一枚引き抜く。


「ここからは俺も参戦させてもらうぜ!

カードドロー!

……あん?何だこりゃ?」


引き抜いた手札はすぐに光に変わり、光がおさまると槍が地面に突き刺さっている。


「な!?無茶です!!

ハンターモードで決闘(デュエル)するなんて、聞いたことないです……あっ、しまった!?」


後で知ったことなのだが、自分の手番となる30秒間でカードをドローすらしないでいると、“降伏(サレンダー)”となり、自動的に敗北が決定してしまうらしい。

ミサト君もそれに気付き、慌ててカードを引く。

だが、そこで30秒が経ってしまい、ハゲ1号の手番へと移ってしまう。


俺の突然の参入が、かえってミサト君の思考を邪魔し、何も出来ないまま相手へと手番を渡してしまう結果となったのだ。


「ヒャッハー!ついでにそこのオッサンも餌食にしてやるよ!

生産コストを更に1追加!

いよいよだ!来い!ポイゾネス・モス!」


ハゲ1号がカードを引き、1枚のカードを宙に放る。

放り出されたカードは黒い霧のようなものを撒き散らしながら、一匹の巨大な蛾の姿になる。


「ヒャハハハハ!!

コイツは場に出た瞬間、全てのデュエラー、モンスター問わず1,000のダメージを与える!

つまり、お前らのシールドは無条件で0だっ!」


「ぐっ!?ゴホッ!ゴホッ!!」


黒い鱗粉があたりに撒き散らされ、その場にいる全員に1,000のダメージが入る。


ハゲ達はまだSP(シールド・パワー)に余裕があるが、俺達はそうではない。


視界に映る“敗北”の文字と、薄れゆく意識。


“あぁ、余計なことをしちまったな”という後悔の念と共に、俺は意識を手放すのだった。






「……はっ!?ここは!?」


目が覚めると、ジメジメと苔むした石畳の地面。

四方を見れば、左右の壁も天井もコンクリートのようなもので覆われており、正面には鉄格子。

立ち上がろうとした時に、両手両足、それと首に金属質の輪っかがハマっている事に気付く。


来ていたスーツも無くなっており、代わりに麻でできたようなゴワゴワした服に変わっていた。


これではまるで囚人の、それも凶悪犯にするソレだ。

状況が飲み込めずに辺りを見渡すと、すぐ近くに似たような格好で倒れている青年を発見する。

ミサト君だ。


「オイッ!オイッ!

大丈夫か!?」


声をかけて揺さぶると、少しの間があったが目を覚ましてくれた。

良かった、見たところ、そこまでダメージを負っているわけではなさそうだ。


「う、うぅーん……。

あっ!?おじさん!無事ですか!?」


「それはこっちのセリフだ、大丈夫かミサト君。

……それと、さっきはすまなかった。

邪魔しちまった。」


本当にさっきの出来事なのかは疑わしいが、お互い意識が戻ったのが今なのだから仕方が無い。

俺の謝罪に、ミサト君は一瞬ポカンとなったが、すぐに苦笑いを浮かべる。


「そんな、別にいいんですよ。

僕を助けようとやってくれたのだと、ちゃんと理解していますから。」


「それは助かるよ。

……あぁ、そうだ、これはお願いなんだが、おじさんは止めてくれ。

セーダイと呼び捨てて貰って構わないよ。」


あまり異世界でおじさんと呼ばれる事が少なかったからか、微妙に違和感を感じていたのだ。

モノのついでと言ってみたが、ミサト君はクスリと笑うと了承してくれた。


「解りました。

じゃあ、僕の事も“ミサト”と呼び捨ててくれますか?

こう見えて、もう成人してるんですよ?

もちろん、転生前の世界基準でも、です。」


聞けば、ミサト君は元の転生前で18歳だったそうだ。

そしてこの世界に転生してからは、今年で21歳になるらしい。

“年齢の割に随分童顔だな”と、チラと思う。

この手の過酷な異世界では、やはり“生きる事すら困難”な環境ゆえ、大抵の場合年齢よりも老けて見える事が多い。

何処かの異世界で、筋骨隆々で生傷だらけの歴戦の勇士そのもの、といったベテラン女戦士が、実は18歳だと聞かされた時は本気で驚いたものだ。


それと比べると、ミサト君は線が細く、元の世界なら高校生だと言われても違和感が無いくらいだ。

もしや、彼は元々貴族みたいな裕福の生まれだったのだろうか?


「あの、何ですか?

そんなに見つめられると何か怖いといいますか……。」


「あ、いや、スマン、安心したのか、ボンヤリしちまったよ。」


何故かミサト君はホッとしたように胸をなでおろす。


「良かった。

あの、気を悪くしないでほしいんですが、てっきりセーダイさんは、その、そっちの趣味があるのかと……。」


ちょっとヒドないそれ!?


思わずジワリと怒りが滲んでくるが、それに気付いたミサト君が早口に現状を説明してくれる。

俺達は人間狩りから“中央”に売り飛ばされたであろう事。

この首輪にはカードを召喚する能力を封じる力がある事。

恐らくは“赤”の身分として、奴隷の様な扱いが待っている事。


その早口の説明を聞いていて、今自分が置かれた立場を思い出す。

そうだ、きっかけを作ってしまったのは俺の不用意な行動だった。

滲んでいた怒りは霧散し、改めて鉄格子の先を見る。

似たような鉄格子の檻がいくつか並んでいるが、薄暗くて向こうの様子は伺えない。

どうしたものかと考えていると、扉が開く音と複数人の足音が聞こえてきた。

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