517:決闘
<世界への情報改竄を行います。
少しだけ時間を下さい。>
クソッ!今からか。
この手の作業が発生すると、いかにマキーナと言えども相当な時間はかかる。
この戦闘において、多分俺に出来る事は見守る事だけだろう。
「僕のターンからだ!早速展開させてもらう!」
何となくミサト君の発言に危ないものを感じながらも、その成り行きを見守る。
どうやら、ベルトに入れたカードの束が何枚なのか解らないが、最初に5枚が手元に出現するらしい。
ついでに言うと、決闘モードの時はベルト同士が共鳴し合う様で、手番も自動で決められているようだ。
「手札から魔獣を一体生産コスト化して、そのコストで魔獣を召喚!
いでよ!緑のドローンビートル!
更に場にカードを1枚伏せて、ターン終了だっ!」
「おっと、今度は俺様の手番のようだな!
じゃあ早速、1枚ドローだっ!
……ケヒッヒッヒ!テメェ、ツイてなかったなぁ!
魔獣を1枚生産コストに!
そして赤のドレインワームを召喚だぁ!」
えっ?何?それ強いの!?
ミサト君のドローンビートルにもハゲ1号のドレインワームとやらも、頭の上に3,000という数字が出ている。
何か、普通に相打ちになりそうな予感しかしないんだけど。
「おっと、俺もいる事を忘れちゃ困るぜぇ?
俺もドロー!
おっと残念、俺は場に青のノイジーフェアリーを展開してターン終了だ。」
ハゲ2号の場には、ノイジーフェアリーという魔物?まぁモンスターか?が出現する。
頭の上に1,000と表示されており、何だか弱そうだ。
「僕のターンだ!ドロー!
……っ!よしっ!!」
何やろ?
何か良いカードでも来たのかな?
ちょっと不安だが、ミサト君の表情に自信が戻る。
「僕は手札からまた1枚生産コストに回す!
これで生産コストは2っ!
そのうちの1つを使い、速攻魔法発動!
虫焼きの鬼火!」
ミサト君が手に持ったカードをかざすと、そのカードから恐ろしい威力の炎が吹き出る。
なるほど、この世界ではあぁやって魔法を使うのか。
「クックック……甘いな、坊や。
ノイジーフェアリー、“泣き喚け”。」
炎はドレインワームとやらを狙ったが、ハゲ2号が何かを自分の場にいるモンスターに命令する。
すると、場にいたノイジーフェアリーがその名の通り喚き散らし、ミサト君が放った炎を掻き消す。
「なっ!?」
「ククク、このノイジーフェアリーはな、自身の消失と引き換えに魔法の効果を打ち消す能力を持ってるんだ。」
ミサト君的には、眼の前のドレインワームを魔法で消し去り、ドローンビートルでフェアリーを叩く作戦だったのだろうが、それが脆くも崩れ去ったようだ。
そのまま手札とにらめっこしていたが、30秒過ぎたところでターン交代の音声が流れる。
「ククク、赤のモンスターは緑に対して2倍の攻撃力を発揮する。
しかもドレインワームは接触したモンスターの数値から1,000奪う。
つまり俺のワームの6,000を、お前の2,000で受け止めるって訳だぁ!!」
ハゲ1号がドレインワームに攻撃指示を出す。
だが、ミサト君の目はまだ死んではいなかった。
「かかったな!リバースオープン!“火鼠の皮衣”!
このカードはその戦闘限りだが、一時的にパラメータを5,000引き上げる!」
数値が上回る。
攻撃したドレインワームはミサト君のドローンビートルに負け、砕けて消失すると共に、ハゲ1号のSPが1,000減って4,000になる。
<勢大、これまでの流れで、この“決闘”というシステムが把握できました。>
俺にはちんぷんかんぷんだったが、どうやらマキーナはシステム把握に努めていてくれた様だ。
いやはや、マジで助かるな城之内く……マキーナ先生。
<いい加減怒りますよ?>
はい、何でもないです。
マキーナが情報改竄と今の戦闘を観測した結果から見ると、どうやらカード束は“デッキ”と呼ばれるらしい。
1デッキ40枚のユニットから構築され、そのデッキを媒体に決闘ユニットを召喚し、そのユニット経由でモンスターを召喚して戦うシステムのようだ。
何だか子供向け番組みたいな設定だなと思うが、きっとミサト君か或いは別の転生者のイメージを元に、この世界が再構築されているからだろう。
そして、決闘ユニット同士で決闘が始まると、ユニット間通信で順番がランダムに決められ、それぞれのターンが始まる、と。
1ターンは最大30秒で、自身で終了を宣言するか、何もせずに過ぎると“行動なし”として相手にターンが回ってしまう。
ユニットもモンスター種と、魔法種とアイテム種があるらしい。
それは先程ミサト君が実演した通りだろう。
ただ、魔法やアイテムにはコストがあるモノやないモノがあるらしく、当然コストが発生するモノの方が、威力は高いらしい。
また、モンスターには属性が存在している。
赤は緑に強く、緑は青に強い。
そして青は赤に強いという、三つ巴の要素もあるらしい。
この手の遊びは学生時代にちょっとやったが、そちらのシステムに比べると洗練されているとも思うし、随分と簡略化されているようにも感じる。
現に“有利属性は攻撃が倍加”などはその最たるものだろう。
ハゲ1号のSPが簡単に1,000減った所からも、改めてミサト君の初期SP1,000がどれほど危険か思い知らされる。
これはつまり、何かが一撃掠れば即死というギリギリの戦いを強いられている訳だ。
やべぇなんてもんじゃねぇ。
<勢大、情報改竄は完了したのですが、このままでは……。>
「そんなこと言っている場合か!
いいから早く出せ!ミサト君を助けないと!!」
俺が手を広げると、手の中心に光が集まり、カードの束へと変わる。
ただ、表面が彼等のような黒い色をしておらず、真っ白だ。
「……ん?何だコレ?カードデッキじゃないのか?」
<正真正銘、カードデッキです。
ただし、“ブランク体”という、まっさらなデッキになります。>
何じゃそりゃ!?
それでどうやって戦うんだよ!?
<本来はこの“ブランク体”を使い、魔獣達と戦いカードの能力を上げていくようです。>
右目にマキーナからの情報が流れる。
このブランク体のまま決闘モードになると、武器や防具が精製される。
それを使い、魔獣等と戦うという事らしい。
「なら、アイツ等にも効果のある武器が出るって事だろ!やるしかねぇ!」
<デュエルモード、スタンバイと言ってください。
それが起動キーの様です。>
マキーナに言われ、起動キーとなるセリフを叫ぶ。
これで何も起きなかったら、ただの恥ずかしいオッサンだなと思いながら。




