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異世界殺し  作者: Tetsuさん
自由への光
516/832

515:廃墟の生存者

<勢大、通常モードを起動しますか?>


(……いや、まだだ。)


通常モードに変身してしまうと、全身が装甲に覆われることになる。

頭部は特に髑髏の意匠から、下手したら味方になれたはずの相手までその印象から警戒され、敵意を持たれかねない。

変身すれば全てのマキーナの機能が使えるから便利なのは間違いないが、やっぱり便利なだけではないのだ。


こういう、相手の出方がわからない中で危険そうな外見に変わるわけにはいかない。

俺は腰を落とすと、静かに周囲を警戒する。


(周囲に人影は見えないが……。)


微かに衣連れの音や、足音を忍ばせて移動している音は捉えてる事が出来た。

足音が軽い。

子供か?という疑念がよぎる。


「うっ、動くなっ!

お前は包囲されてるぞ!」


足音の方に近付こうと動き出した時、突然茂みから青年が立ち上がると、こちらにライフルのようなものを向ける。


「待て!解った、動かない!

俺は、水が飲みたくてここに来ただけだ!

君等をどうこうする気はない!」


青年の銃を持つ手は微かだが震えている。

こういう時は、先に敵意がない事を伝えないと、興奮して引き金をうっかり引く事もあり得る。


すぐに両手を上げると、顔だけで青年を見る。

黒髪に黒目、やや平坦な顔。

整ってはいるが、どう見ても日本人顔だ。


「君はもしかして、日本人なのか?」


「えっ、日本語……?」


最初に俺が使ったのはダヴィフェット王国公用語だったが、彼を見て日本語で話しかける。

それを聞いた彼は、半信半疑ながらも銃口をおろしてくれた。


「あの……、アナタは、“M.A.C”から派遣された兵士……って訳じゃ無いですよね?」


「……マック?ハンバーガー屋かパソコンか、どっちの従業員に見える?」


その言葉に、俺は頭に?マークを浮かべる。

俺の冗談が伝わったのか、青年は少しホッとした表情を浮かべる。

ほら見ろマキーナ、俺のユーモアだって、通じるヤツには通じるんだからな。


<別に彼は貴方の冗談を笑った訳ではないと思いますが?>


クッ、あぁ言えばこう言いやがって。


「驚かせてしまってすいません。

ここに人が来ることなんて予想していなかったので。

……あの、アナタももしや転生してこの世界に?」


俺が苦虫を噛み潰したような表情をしていると、青年は俺が警戒したままだと思ったのか、銃を肩に担いで歩み寄ってくる。


「……説明の前に、水飲んで良いかね?

喉がカラカラなんだ。」


青年は慌てて腰につけていた水筒を取り出すと、噴水から水を汲む。


「ここの水は汚染が少ない方ですから、そのまま飲めますよ。どうぞ。」


青年から水筒を受け取る。

“汚染が少ない”という事は、裏を返せばこの水も既に汚染されている、という事だ。


“やべぇ世界に来ちまったな”と思いながらも、喉の乾きには変えられない。

マキーナも浄化してくれるし、まぁいいかと水を飲む。

噴水の水は生温く、そして僅かに死臭がした。




「皆、出てきて大丈夫だよ、この人は悪い人じゃなさそうだ。」


青年が声を掛けると、周囲の草むらから子どもたちが飛び出してくる。

子供達はそれぞれ水をいれる容器を取り出すと、一目散に噴水の近くに集まっていった。


「包囲……ね。」


俺は呆れたような声を出すが、青年は悪びれた様子はない。


「えぇ、包囲です。

子供とはいえ、我々の貴重な戦力ですから。」


お互いニヤリと笑うと、握手を交わす。

聞けば、どうやら青年は子供達を引き連れて水を汲みに来たらしく、そこで俺を目撃したらしい。


「あぁ、申し遅れました、僕はミサトって言います。

よければお名前を伺っても?」


「あぁ、俺は田園(たぞの) 勢大(せいだい)だ。

ミサト君は、名字は何て言うんだ?」


俺の言葉に、ミサト君は困った表情をする。

何かまずい事を聞いちゃったのかな?と思ったが、どうやらそうではないらしい。


「実は僕、あんまり記憶が無くてですね。

日本人としての前世がある、っていう事と、前世ではミサトという名前だった、という事くらいしか、覚えていなくて。

どうしてこの世界にいるのかも、正直解ってないんですよね。」


“記憶喪失”という言葉に思わず警戒してしまう。

少し前の異世界で、別の転生者に記憶を封印されている転生者、というヤツに会ったせいだ。

だが、色々と話を聞いても彼に“相方”と呼べそうな存在は無さそうだ、とは思えた。


<勢大、警戒し過ぎでは?

彼からは何かを隠している、または能力を抑えられている、という様な兆候は見られません。>


ほな、マキーナはんもそう言うなら、俺の考えすぎかぁ……。


<なんですかその“マキーナはん”というのは。

変な呼称を増やさないで下さい。>


感情の少ない声でありながらも、どこか非常に嫌そうな声を上げるマキーナを放置して、俺はミサト君からこの世界に関してのあらましを聞いていた。




「中央政府の心臓部、彼等がその言葉を信じて止まない機械の女王、マザー・オートインテリジェンス・コンピューター、通称“M.A.C”と呼ばれる存在と、そのM.A.Cの言葉を伝える最上位管理者、“紫”と呼ばれる存在がこの世界を牛耳っているんです。」


どうやら、ここには“中央”と呼ばれている政府があるようだ。

その“中央”という政府は機械で全てが管理されており、人類は残された資源を効率的に分配するため、厳しい階級制度の下、機械の指示に従って生産活動をしているらしい。

位置関係から推測すると、多分いつも王都だったり首都がある場所、そこが“中央”とやらなのだろう。


<機械で出来た神ですか、人間は時に変わった思想を持つのですね。>


マキーナの感想を聞きながら、“解らなくもないかも知れない”という率直な感想が出てくる。

多分、この世界の人間は何かにすがりたかったのだ。

なんの利益も生まない空想の神ではなく、現実具体的であり、利益を生む助言者。

機械の吐き出す正確な予測が、いつしか神託にも等しくなったのだろう。


ただ、全ての人間がその言葉を信じているわけでは無さそうだ。

先ほど、厳しい階級制度、といったが、どうやらここでは色により身分が定められているらしい。

一人しかいない“神の代行者”と言われる紫。

紫の手足となって人々を取り締まる青。

この青は特に“円卓の騎士ナイト・オブ・ラウンドテーブル”と言われる、いわゆる雲の上の存在らしい。

その下、上級国民と言われる緑。

更にその下に、元の世界の一般人レベルの存在であり下級国民と言われる黄。

最後に、一番人数が多く奴隷として強制的な労働に従事している赤。

そんな感じの身分制度らしい。


どうやらここにいる子供達やその親は、赤出身の人々の寄合所帯のようだ。


そこまで聞いて、俺は何となく嫌な予感がしていた。

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