表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界殺し  作者: Tetsuさん
記録の彼方の光
507/832

506:隠し玉

<勢大、アレ(・・)はなんですか?>


何故かマキーナが若干不機嫌な声を上げる。

現地で知り合い助けてもらった魔導人形(ゴーレム)だとすぐに説明したが、何だかマキーナの様子が冷たい。

だが、相棒の良くわからない反応は置いておいて、ミナンに集中する。


先程の虎のような炎の魔獣は、ツインテパッピルが着地をした衝撃で吹き飛ばされている。

攻め込むなら、今が好機だろう。


<むっ、セーダイが今“ちゃん”を抜かした様な気がするのデスが、考えが読めなくなっていマス。

何故デスカ?>


微妙にカスッているのが腹立たしいが、またしても小さな疑問が解けた。

なるほど、俺の考えが読めているのかと思ったが、今までの俺は自分でも気付かずに魔導人形(ゴーレム)に俺の記憶を写し取ったモノだったのだ。

だからなのか、同じ魔導人形(ゴーレム)仲間のコイツには思考が筒抜けだった訳か。


『悪いな、ようやく本来の体を取り戻してよ。

ともかくミナンを倒すぞ、手伝え!』


ツインテパッピルに状況を説明しながら、ジャックの突進に合わせて駆け出す。


<そう……デスカ。

ツインテちゃん様、少し残念デス。

ですが、カルーア師の約束通り、お二人を援護しマス!

“身体強化”!デス!>


俺達の体に力が湧き、動きが加速する。

ジャックが打ち込み、切り返すミナンの斬撃は俺が受け止める。

行ける!このまま押し切れば……。


「ククク、やはり中々に強いわね、2人共。

じゃあ、趣向を変えてこういうのはどうかしら!?」


害なす魔の杖(レーヴァテイン)を大きく横に薙ぎ、俺達から距離を取る。

すぐに左手に持っていた絶望の匣(レーギャルン)に剣を納めると、その2つの魔力を使って何かを呼び出す。


「きっ、貴様!?それは!?」


ジャックが思わず言いよどむ。

呼び出されたそれは、全身に鎖が巻き付いたカルーアちゃんだ。

鎖が全身を締め上げているのか、苦悶の表情を浮かべている。


「セーダイさん……ジャック……助け……。」


「ハハハハ!!

どぉう?この趣向は?

アタシは神なのよ?死んだ人間の魂をこうして召喚するくらい、簡単に出来ちゃうの!

アーハハハハ!さぁ、どうするのぉ?

こういう時、仲間がいると不便ねぇ?」


その卑劣さに、唇を噛むジャック。

動きが止まったソレを、ミナンが見逃すはずもない。

抜刀術の様に素早く剣を抜くと、炎の衝撃波がジャックを襲う。

だが、ジャックはロクな抵抗もせず、ただ炎に斬られ大きく吹き飛んでいた。


「さぁ、次はセーダイ、お前の……!?

な、何をしている?カルーアの姿が見えないのか!?」


盾を地面に突き刺し、腰を落として中段に構える。


『死んだ人間を生き返らせる、か。』


全力で右の拳を振り抜き、軌道上の空気を押す。

拳の形の分だけ空気はズレ、打ち出される拳と同じスピードで空気を押し出されていく。

百歩先のロウソクの炎すら消す、武における1つの極点。


その狙いは、鎖で縛られ苦しそうにしているカルーアちゃんの頭。


狙いは寸分違わず頭へ吸い込まれ、そしてカルーアちゃんの首から上は掻き消えるように吹き飛ぶ。


「ひゅっ……。

お、あ、アンタ、おかしいのか?

なんでそんなに躊躇せずに……。」


結果を確認した俺は、また盾を地面から引き抜く。

盾を右手に持つと、突撃の構えをとる。


『もしもカルーアちゃんが、まだ生きてるとか、生死不明とかだったら、流石の俺でもためらったさ。

だが、俺は既に彼女が“老衰で死んだ”と聞いている。

いいか、よく聞けよ神様。

……死んだ人間はな!絶対に生き返らねぇんだ!!』


叫びとともに、盾をかざして突撃する。

死の間際にいる人間をその世界から摘み取り、別世界に移動させる。

それは何度も聞いてきた。

死の淵にあった奴が、蘇らせてもらって異世界に送り込まれた、なんて話も聞いた。

だが、死んでからしばらくして、生き返らせてもらった奴はいない。

聞いた事がない。


“神の力の限界”


数万回と渡り歩いてきたこの異世界で体感的に知った、それは絶対のルールだ。

現に、ミナン自身、ニノマエを生き返らせようとしてあれこれやっていた訳だしな。


ならばアレはまやかし。

恐らくはミナンの記憶の中にあるカルーアちゃんを、擬似的に造り出したに過ぎない。


『俺は!死人を冒涜する奴が!一番許せねぇんだよ!!』


盾で剣を弾き、その回転を利用して回し蹴り。

真っ直ぐに蹴り込んだそれは、ミナンの腹部に突き刺さる。


「ふぐぅ!?そんな、そんな理由で……!?」


口から血と吐瀉物を撒き散らしながらも、害なす魔の杖(レーヴァテイン)を振り上げるミナン。

だが、その腕は何かに固定化されたように、ビタリと動きを止める。


<させまセン!アナタを拘束させてもらいマス!……デス!!>


「にぃんぎょょおぅ風情がぁぁぁ!!

邪ぁ魔するなぁぁぁ!!」


怒りに震えるミナンが両目を見開くと、ツインテパッピルがその場で爆発四散する。


懐へ肉薄しかけていた俺を見ると、ミナンは距離を開けようと後ろへ飛ぶために腰を落とす。




だが、そこから足腰のバネを使い、後ろへ飛ぶことは出来なかった。


「ふ、フフ、ミナンよ、“鋼糸術は、(ノワール)の庭でもありふれた技術だ”と、教えなかったか……。」


ツインテパッピルが光る魔糸術を使うその影で、ジャックが見えにくい鋼糸術を使っていたのだ。


鋼の糸に絡め取られたミナンは、盾の先端を押し当てる俺を見、驚愕の表情を浮かべる。


『これで終いだ、亜神サマ。』


握り手に仕込まれたトリガーを引く。

盾の先端から、強力なバネに押し出された針のような短剣が飛び出し、ミナンの腹に突き刺さっていた。


「ぐぁぁ!?このっ!!」


痛みからか、ミナンは左手にもつ絶望の匣(レーギャルン)で俺に殴りかかり、弾き飛ばす。


何とか盾で防ごうとはしたが、盾は粉々に破壊され、まるで丸太で打ち抜かれたような衝撃を受けて俺は地面を転がる。


「はぁっ、はぁっ……。

ざ、残念だったな。

吸血鬼でも退治するつもりだったのか?

残念、神であるアタシは、心臓を撃ち抜かれたくらいじゃ死なないんですねぇ!

それどころか、アタシ不老不死なんだよねぇ。

だから、アンタ等がどうやってもアタシは死なないの!

あれぇ、これ、言ってなかったっけぇ?」


ミナンが顔を歪ませ、ゲタゲタと笑う。


「セーダイ殿、これでは……もう……。」


ジャックが体を引きずるようにして俺のもとにたどり着く。

ツインテパッピルも、恐らくギリギリ動かせるのであろう右腕だけで、こちらに這ってこようとしている。


「アーハッハッハ!良いわねジャックのその表情!!

アタシにもっと見せてぇ。

……セーダイ、アンタも早く悔しがれよ!」


どうやら、微動だにしない俺に苛立っているらしい。

そうだな、せっかくだから表情を見せてやるか。


『マキーナ、解除だ。』


<戦闘モード、終了します。>


一瞬の光に包まれ、俺は元のスーツ姿に戻る。

そのまま俺はスーツの内ポケットからタバコを取り出して火をつける。


「安心しろよジャック、もう大体終わった。」


「ハハハハ!何を強がりを!!

恐怖で気でも触れたか!?

ならば今楽に……!?

えっ……!?」


始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ