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異世界殺し  作者: Tetsuさん
記録の彼方の光
506/832

505:ツインテールをなびかせて

ミナンが無造作に剣を薙ぐ。


それだけで炎が広がり、剣の周囲10数センチも恐ろしいまでの攻撃能力を持っていやがる。


アレは炎の剣というよりは、炎の棍棒という方が正しいだろう。

害なす魔の杖(レーヴァテイン)の名の通り、“剣”ではなく“杖”とは、言い得て妙なのかも知れないと変な所で納得してしまう。


『うぉっと、危ねえな、冒険者仲間に剣を向けてはいけませんって、冒険者学校で習わなかったのかよ?』


「はっ!オマエが仲間ぁ?

寝言は寝てから言いなさいよねぇ!!」


ミナンの振り回す剣筋がまるで読めず、攻め込めずにいる。

ミナンは冒険者の時にも短刀の二刀流だったが、別に誰かに師事したわけでもなく、あくまで我流だった。

それ故にかは解らないが、剣の軌道は一定ではなく割とデタラメだ。

剣術をやっているヤツの方が型が存在する分読みやすいが、これまで魔獣を仕留めるだけに振り回されたその剣技は、言ってみれば素人剣術であり、次が読めない分俺とは非常に相性が悪い。


「セーダイ殿!ここは俺に任せてくれ!」


『お、おぅ、……って、申し訳ないがオマエ誰なんだよ!?』


俺を助けてくれた恩人でもあるのだが、この非常事態だ。

つい言葉が荒くなる。

俺のその言葉に、青年はちょっとショックを受けていたがすぐに立ち直る。


「そ、そうか、大分時間が経ったからな、気付かずにいるのも無理はないか……。

俺だ、ジャックだ。」


今度は俺がショックを受ける番だった。

それぞれの世界の時間的なズレの影響だとは解るのだが、さっきまで“ちょっと背が低くて小デブで丸々としていたジャック”が、急に“長身細マッチョで口髭を蓄えたイケメンジャック”に変わっていたら、多分俺でなくてもショックを受けるはずだ。


「と、ともかく!

この場は任せてもらおう!」


ジャックが剣を両手に持ち、振りかぶる。

だが、炎の剣を相手にしていては、いささかに分が悪い。

害なす魔の杖(レーヴァテイン)を受け止める度、飛び散る炎の塊がジャックを焼く。

剣を打ち合い、間合いを開けたその隙にジャックはポーションを口に含む。


(……五分のように見えるが、炎の分だけジャックにダメージが入り続けている。

それにこのままじゃいずれジャックのポーションが尽きるか。

……何か良い手は……。)


周囲を見渡すと、崩れ落ちた俺だった魔導人形(ゴーレム)の残骸。

その近くには、途中で受けるよりは躱す方が得策と考えて放棄していた、あの巨大な盾があった。


(……これだ。)


<私の力で作り替えます。少しだけお待ちを。>


大盾を拾い上げると、マキーナが即座に黒い何かで大盾を覆う。

一瞬淡く光ると、真っ黒に周囲の縁取りが赤く光る、堅牢そうな盾へと生まれ変わっていた。


<内部に面白いモノを収納していますね。

打突式に組み替えておきました。

状況を見て使用を。>


握り手の所に、トリガーが設置されている。

なるほど、アレ(・・)をそうしてくれたか。

流石マキーナ先生だ、気が利くじゃねぇか。


<先生ではないとあれほど……今はそれどころではありませんでしたね。>


「クッ!?……しまっ……!?」


打ち合いながらもポーションを口に含むジャック。

だがその隙をミナンが見逃すはずもなく、遂に斬撃がジャックに追いつく。


『させねぇよ!!』


ジャックとミナンの間に入り、炎の剣を防ぐ。

ジャックは少しだけ戸惑ったが、そこはかつてパーティを組んだ仲間。

すぐに俺が盾を引くタイミングで斬り込む。


「オマエ等!小癪な!!」


ジャックの剣を弾き、薙ごうとするその剣を、今度は俺が体を入れて盾で防ぐ。


『ハハッ、遊撃のお前はこの連携を体験してないもんな。

どうだ?魔獣を相手にするように戦わされる気分はよぉ!!』


「ぐっ!

……なら、お望みの魔獣を出してやろうじゃないか!!」


ミナンは飛び退ると剣を振り、地面を燃やす。

燃え盛る地面から、ゆらりと4体の燃え盛る獣が現れる。

犬のようにゆっくりと歩くそれは、半円状に俺達を囲む。


「さぁ、冒険者に相応しい敵よ2人共。

しっかり倒してちょうだいね?」


ミナンが指を鳴らすと、4体の魔獣が一斉に俺達に襲い掛かる。

盾を横にして2体を食い止めるが、残りの2体が俺の両脇をすり抜けてジャックへと向かう。


「ぬっ!?ぐっ!?」


ジャックは一体を頭から真っ二つにするが、もう一体に脇腹を噛みつかれて振り払っている。

俺は急いで盾に噛み付く2体を叩き潰すと、ジャックの脇腹に噛み付く炎の魔獣を蹴り飛ばす。

ジャックの鎧の一部が砕かれ、おびただしい血が吹き出している。

だが、ジャックは悲鳴すら上げず、ポーションを口に含むと瓶を投げ捨てる。


そんな俺達の姿を見たミナンはニヤリと笑うと、また同じ様に炎の魔獣を召喚する。

先程の魔獣よりも一回り大きく、今度は犬というよりは虎のサイズだろう。


「……セーダイ殿、まだ行けるな?」


『おぅ、前の体とは違って、こっちが本来の体だからな。

比喩表現抜きに、全力で戦っても3日くらいはぶっ続けで動けるぞ。』


俺の発言に少しジャックは引いているが、すぐに心配そうに懐のポーションを数えている。

その仕草が、この間まで一緒にいた子供時代のジャックの仕草と全く同じで、やっぱり本人だと安心する。


『そういやジャック、頼んどいたモンは手に入ったのかよ?』


この世界に来る前、少年時代のジャックに頼んでいたことがある。

それがあれば、この状況を打開できるはずだった。


「それならここに来る前に、ツインテパッピルちゃん殿に頼んでおいた。

俺よりもカルーア殿の方が相応しいと思ったのだが、カルーア殿はもうお亡くなりになられていてな。

聞けばカルーア殿から神聖魔法を教わっていたというので、俺よりも魔導人形(ゴーレム)の彼女の方があそこでは有用と思えたのでな、彼女に託したのだ。」


聞けば、カルーアちゃんは老衰で亡くなったらしい。

その事に小さく驚く。

時間軸の進み方が違うとは思っていたが、ここまで時の流れが違うとは思わなかった。

ただ、カルーアちゃんは幸せなまま逝ったと聞き、安心する。


『ツインテパッピルちゃんって、アイツすげぇオモシロ融合してんじゃねえか。』


それとは別に、ツッコまずにはいられない。

いやそこは普通にパッピルちゃんとか、パッピルツインテちゃんとかに融合しろよ。




そんな事を思った次の瞬間、はるか上空の空間が割れ、両腕を頭の前に組んだメイド服の存在が飛び込んでくる。




<セーダイがっ!私を!蔑ろにしている気がするデスゥゥゥ!!>



空中でくるりと回転し、黒髪のツインテールをたなびかせて、土埃とともにスーパーヒーロー着地をしているメイド型魔導人形(ゴーレム)


<お待たせしまシタ!アナタの超メイド型天使魔導人形(ゴーレム)

ツインテパッピルちゃん様、ここに参上!デス!!>


立ち上がり、ピースサインを横にして目の所に持ってきて決めポーズをしているその姿が、何だか懐かしく、そして僅かにイラッとさせられる。


だが、ようやくらしくなってきた。

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