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異世界殺し  作者: Tetsuさん
記録の彼方の光
505/832

504:再会

「ハハハ!どうしたの?何か言わないのぉ?」


「……しゃべ、喋らせたいなら……、もう少し……ゆ、緩めろよな……。」


全身の骨が軋む。

見えない手で全身を握りつぶされそうになっているこの現状、喋る事はおろか呼吸する事すら出来ずにいる。

視界も赤い。

涙のように何かが頬を伝っているが、口に入った鉄の味から想像するに、恐らくは血だろう。

このまま抜け出せずにいれば、口や尻から全ての臓器をぶち撒ける事になる。

だが、あまりにも強大な神の力の前に、俺はなすすべを持たない。


「アラァ?随分苦しそうだけど、先程までの軽口はどうしたのかしら?

ホラ、そろそろ抜け出さないと、本当に全身グシャグシャになっちゃうわよぉ?」


「グッ……、この……!?」


焦りとは裏腹に、頭がぼぅっとし始める。


ミナンの声が遠くに聞こえ始める。


ミナンの声は遠ざかり、小さい頃の思い出が頭をよぎる。


小学生の時の初恋の女の子は今、どうしてるかなぁ。

中学生の時に大怪我した記憶、それがきっかけで、高校では灰色の、無気力な生き方をしたなぁ。

周りに言われるがまま大学に進学し、そこで今の妻と出会ったんだっけか。

そうして世界に色がつき始めて、武術を学んだっけなぁ。

社会に出て、初任給で指輪を買って妻にプロポーズして。

あの結婚式の神父、式が始まる前に酒なんか飲んでやがって、ただ外国人ってだけの、胡散臭くてろくでも無いオッサンだったなぁ。

でも、あの時の妻は可愛かったなぁ。


妻……?


何かが、……おもいだせそうなんだ。


あぁそうだ、もうすこしで、かのじょのな……。






「セーダイ殿ォォォ!!」


ぼやける視界の中で、空間が割れ、そこから飛び出した立派な顎髭を蓄えた騎士鎧の青年が、ミナンに向けて剣を振るう。


不意の一撃。

流石にミナンも直前まで気付けなかったのか、その攻撃を受けるために意識を俺からその青年に向ける。


次の瞬間、糸の切れた人形のように、不可視の手から抜け出した俺は、白い地面に落ちていた。


「だ、誰……オゲェェ……。」


押し潰される寸前から開放された俺は、飛び込んできた騎士の名を訪ねようとしたがたまらず胃の中のモノを吐き出してしまう。


吐き出した吐瀉物の中に、ウネウネと動くものがある。

ギョッとしてそれを見ると、それはパッピルがダメージを受けた時に傷口から顔をのぞかせていた、あの良くわからない生物だった。


ソレを理解した時に、俺の中で何かのピースがハマる。


「セーダイ殿!今助けますぞ!

ミナン!何故(・・)セーダイ殿を(・・・・・・)ぶら下げている(・・・・・・・)!」


騎士姿の青年は、果敢にミナンに剣を振るう。

ミナンも不意の攻撃からの防戦となり、意識は完全に青年に向けざるを得ないようだ。


あぁ、やっぱりそうだ。

俺はポッカリと空いた逆三角の空間にいるソレを見る。

その空間に囚われているのは、白骨死体なんかじゃない。


その幻影が、崩れていく。


アレは(・・・)俺だ(・・)


目を閉じた俺が、両腕を広げる形で囚われているのだ。


「お、やっと起きたようですね勢大。

……あ、ウサピョン。」


膝立ちになりながら呆然とソレを見る俺に、声をかけてきた奴がいる。


あの兎人族、アードベグだ。


「あぁ、鈍い俺でもようやく解ってきた所だアードベグ。

……いや、マキーナ(・・・・)。」


「結構、ニノマエの残滓を読み取り、この人形(アバター)を作り上げるのは苦労しました。

……あ、ウサ。

まぁ、詳しい説明は後です。

今は本体(・・)を起こして下さい。

あ、ピョン。」


アードベグ、いやマキーナはそれだけ言うと光の球体になり、俺の中に吸い込まれる。

それを見届けた俺は、今“自分が目にしている自分”に意識が戻るように強く思い込む。


見ている俺が目を開ける。

役目が終わった事を理解した俺は、静かに目を閉じる。




次に目を開けた俺の視界に映る、真っ黒く、そして濁った感情が渦巻く暗闇。

目の前には、白い逆三角のひび割れが見える。

その先にうつ伏せで崩れるように倒れている、両足の脛から下を失った、ボロボロの魔導人形(ゴーレム)

俺にはそれが、そんなになるまで戦い続け、俺を守り通した俺自身の勇姿に見えた。

だが、感傷に浸るのは今じゃない。

俺は息を吸い込む。


「……お前も起きろ、マキーナ。」


<おはようございます勢大。

戦闘モード、起動します。>


懐かしの相棒の声。

自分はずっと起きていたのに、まるで寝ていたかのように俺に言われ、やや不機嫌な声。


コイツに性別はないはずだが、俺に合わせてか段々女性らしい声質に変わってきていた。

そして、機械音声の筈なのに、最近では感情が読み取れる様にまでなっていた。


まぁ怒るなよ相棒、こんな状況だ、少しは格好つけさせてくれ。


その思いに答えてくれたかのように、俺の体からいくつもの光が飛び出す。

飛び出した光達は、俺のへその下あたりに急速に集まっていく。

光達が集まり、それが名刺入れくらいのサイズの金属板に変わると、今度はそこから赤い光が次々と飛び出す。


赤い光は線となって俺の体を縦横無尽に走り、鎧のフレームを形作る。

赤い線に形作られたフレームの間が鈍く光ると、それぞれ部位によってラバースーツのような軟質のボディスーツに、更に手甲、足甲、胸当てへと変化していく。


最後に髑髏の意匠をもしたフルフェイスヘルメット状の兜が頭を覆う。


全ての変身が終わると同時に、両手を塞ぐ黒い靄のような鎖のようなモノを引き千切り、白い逆三角に飛び込む。

別空間から飛び出してきた髑髏の意匠をまとう知らない存在に、ミナンは青年を吹き飛ばすと動きを止めて言葉を失う。


『やぁれやれ、やっと帰って来れたぜミナン。』


その一言で、何が起きたかは理解できないまでも俺が呪縛から抜け出した事を察したらしい。

すぐに怒りの表情に変わると、剣の切っ先を俺に向ける。


「お、オマエ!?その姿は何だ!?

オマエのソレが、神から授かった不正能力(チート)なのか!?

この化け物め!!」


ミナンの全身に炎が移る。

その姿はまるで地獄の炎で燃える亡者の様だ。

変身した俺より、今のミナンの方がよっぽど化け物だろうに。


俺は静かに腰を落とし、左拳を前にして構える。


不正能力(チート)や化け物とは失礼な。

俺は俺だ。

何でもないただの人間、名前は田園(たぞの)勢大(せいだい)だ。』


「ただの人間が、ワタシの獄から抜け出せるはずが無いだるぉぉぉ!!」


雄叫びなのか怨嗟の声なのか、人間とは思えない絶叫を叫びながら害なす魔の杖(レーヴァテイン)を振り、黒い炎の塊を飛ばしてくる。


『俺は無理でもな、俺には優秀な相棒が付いてるもんでね。』


一歩踏み込むと、右の裏拳で炎の塊を打ち落とす。

足元に燃え広がった黒い炎を、踏み潰して消す。


『改めて勝負と行こうじゃねぇか、女神サマよ?』

本日より再開いたします。

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