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異世界殺し  作者: Tetsuさん
記録の彼方の光
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499:覚醒する亜神

-何ぃ!?何故効かない!?-


-いやぁ、助かったよ、ホラ、これでも元々は仲間だろ?

このままじゃ全員殺さなきゃだなと思っていたからさ、こうして気を失わせてくれた君には感謝しているくらいなんだ-




遠くで、男女の言い合う声が聞こえる。


俺はどうなった?

確か、シカルの奴に見えない力で弾き飛ばされて……。


急速に意識が覚醒する。

薄く目を開け、体を動かさないように周囲の状況を確認する。

どうやらシカルの“不可視の一撃”で吹き飛ばされた俺達は、城の壁を突き破って外に押し出されたようだ。

カルーアちゃんとジャックの姿も残骸の中に見える。

相当なダメージを負っているようではあるが、2人共浅く早い呼吸をしているのが見えた。


戦っている2人、ミナンとシカルを見て驚く。

戦いと呼べるかも怪しいソレは、もう一方的だ。



一方的に、ミナンが(・・・・)シカルを(・・・・)なぶっている。



シカルが何度も不可視の一撃を繰り出すが、ミナンはソレを涼しい顔で避けもせずに打ち消している。

いや、打ち消しているというよりは、勝手に消えているのだろうか。

シカルが何かを打ち出す度に、ミナンの周囲には粉塵が舞うが、見えない球体の壁があるかのように、粉塵すらある一定の距離からミナンを避けるように流れていく。


「神に近づいたとはいえ、まだまだ産まれたばかりのひよっ子ねぇ。

……こんな程度の攻撃しか思いつかないなんて。

まぁこの世界にいちゃ、それくらいしか思いつかないのかしら?」


猫科のケモノが獲物に近付くときのように、優雅で柔らかな腰つきで、ユックリとシカルに近付く。


「くっ、来るなぁ!

なんっ、何なんだよオマエ!?

何で俺の邪魔するんだよ!?」


ミナンは右手を上げると、空中で何かを書くような動作をする。


次の瞬間、それまで何の前兆もなく、シカルの右腕がベキリと音を立てて普通の関節とは逆方向に曲がる。


「……ッ!?

ギィヤァァァ!!」


「ウルサイわねぇ、ちょっと黙りましょうか。」


またも空中に何かを書く動作をすると、フツリとシカルの声が消える。


これにはシカル自身も驚いたようで、痛みも忘れたかのように左手で自分の喉の辺りを押さえ、何か言いたいのか口をパクパクと開けている。


「いい?神とは全てを書き換える力すら持つのよ?

ましてや、アタシが(・・・・)産み出した(・・・・・)世界を(・・・)書き換える(・・・・・)など、造作もない事なの。」


シカルの目が、驚愕で大きく見開く。

それはそうだろう。

ただの転生者をいたぶるつもりでいたら、まさかの自分を創った造物主様とご対面だ。

古いコントのセリフではないが、“聞いてないヨ〜”と叫びたくなるところだろう。


そして俺自身も、さすがに驚きは隠せない。

ただ、俺の場合はシカルとは別種の驚きか。


この(リュミエール)の庭は、ミナンが創ったのだという。

ならば、転生者としてニノマエとミナンは2人でこの世界に降り立ち、そして2人共神の領域へ到った、という事だろうか。


ならば何故ニノマエはあの神の空間にいて、ミナンはこの世界に降り立っていたのか。

どうして今、自身が神であることを思い出しているのか……。


そう考えて、気がつく。

俺等が世界を転移する度に失ったもの。

俺はこれまでの経験という記憶。

ジャックは自身が持っている悪い心。

カルーアちゃんは信仰心。


ミナンだけは何も失っていないように思えた。

だが実際は俺達と同じ様に失っていて、それがもしかしたら“神の記憶を封じていた何か”だったとしたら?


「……ッ!?……ッ!?」


シカルが宙に浮かぶ。

両足をバタつかせ、真っ赤な顔をしながら必死に何かに抵抗しているようだが、何一つ効果は発揮していない様だ。

むしろそんなシカルの姿は、ミナンの感情を昂らせる手助けにしかなっていない。


「ウフフフフ、良い顔で苦しむけど、やっぱりお前じゃニノマエ程ではないわね。

やっぱりアイツの悶え苦しむ顔の方が、アタシは断然好みだわ。

……もうお前に飽きちゃった、取りあえずその剣と鞘、返してもらうわね?」


またも空中で何かを書く動作をすると、シカルがベキベキと音を立てて空中で球体になっていく。

どんなに苦悶の表情を浮かべても、どんなに叫ぼうと口を開けても、音も出せなければ抵抗もできない。

そうして遂には手のひらサイズの赤黒い球体になり、ミナンの手の中で吸い込まれて消えていった。


「さて、アタシはもう行くけど、良いのかしら(・・・・・・)異邦人さん(・・・・・)

アタシを止めないと、原初の混沌(カオス)への道が途絶えちゃうわよ?」


空閑が僅かに歪むような、重圧のようなものを感じて跳ね起き、その場から離れる。

予想通り、跳ね起きたすぐ後に俺のいた空間がグシャリと歪み、先程のシカルと同じように、大地の一部が小さい球体へと変化する。


「やっぱり、狸寝入りだったのね。」


「起こし方が物騒だな。

王子様を起こす時はお姫様のキッス、ってのが定番だろうよ。」


ミナンは片頬を釣り上げて“そんなおとぎ話は聞いたこと無いわ”と笑う。


これまでのミナンとは思えないその妖艶な笑みに、俺の背中を冷たいものが流れる。


シカルの犠牲のお陰で、ミナンの攻撃方法は見えていた。

あの、何か空間に書き込むと、その通りの事象になっていた。

そしてアイツは“この世界を創った”と言っていた。


そこから導き出される答えとしては、例えばここがアイツの書いた物語で、アイツはこの物語の作者だ。

だからこの世界にあるモノは自由に書き換えられる。

その理屈で行けば多分、直接俺に何かは出来ない筈だ。

俺は“異邦人”、この世界の異物。

俺は別に、アイツに創られた存在じゃ無い。


「ミナン、お前の目的は何だ?

状況によっちゃ、手助けしてやれなくもないぜ?

それに、このままじゃこの世界そのものが崩壊してもおかしくねぇんじゃねぇか?」


無理めとは思うが、交渉はしてみたい。

もしもニノマエを倒すのがミナンの目的だとしたら、マキーナを取り返したい俺とも途中までは目的があうはずだ。

途中まで手を貸して、マキーナを回収したらこの世界から一旦オサラバするのも仕方無い。

もしも本当にあの“神を自称する少年”となり変わっていたのだとしたら厄介だが、それでも時間を稼げば方法は見つかるはずだ。


「ヨシツグのヤツさぁ。

……ヨシツグのヤツさぁ、簡単に死んじゃったんだよねぇ。」


妖艶な笑顔のまま、ミナンは話し始める。

生前に好意を寄せていたニノマエの事を。


そして、ミナンのイジメが原因で、命を絶った事を。

仕事から帰ったらどうにも体調が悪く、風邪薬を飲んだら寝てしまい投稿が遅れました。

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