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異世界殺し  作者: Tetsuさん
記録の彼方の光
499/832

498:残骸と覚醒

<状況、セーダイ、劣勢。

害なす魔の杖(レーヴァテイン)破砕鎚(クラッシュ)、最大出力。>


赤く燃え盛る炎の剣が、青白い炎へと変わる。

そのまま床に剣を突き刺せば、吹き上がる青白い炎が周囲を包み、その空間にあるものを全て叩き潰し、消し炭に変えていく。

流石はオリジナル。

その一撃で殆どの量産品(レプリカ)達は跡形も無くなっていた。


<セー、ダイ……、ドこデすカ、セーダイ。>


パッピルのその姿に、目を背けたくなる。

左腕は機能していないのか、肩からダラリと垂れ下がっている。

右目の周囲から側頭部にかけては、修理の途中だったのか皮膚が剥がされており、何かの配線が剥き出しになっている。

右足も同じ様に、人の足の形というよりは、何かの部品がこぼれ落ちているのか、配線や箱状のものが垂れ下がり、そして足首から下の部分は無く、害なす魔の杖(レーヴァテイン)を杖代わりにして引きずる様に動いている。

良く見れば、害なす魔の杖(レーヴァテイン)からエネルギーを受けて辛うじてその体を保っているのか、剣から何本もの配線が伸びており、パッピルの至る所とそれは繋がっている。


その姿はさながら、何本もの点滴を受けている重症患者のようだ。


「……おぅ、ここだ。

……ありがとう、助かった。」


<セー、ダイの、コ、声ヲ感知。

ご無事デ、何ヨリデス。>


元の世界の古い言葉に、“付喪神つくもがみ”という言葉がある。

長く使っている道具には魂が宿る、という意味合いだった筈だ。

俺がモノとして扱ってきた筈の、魔導人形(ゴーレム)

ただひたすらに仲間を心配し、生ある限り仲間を助けようとするパッピルのその姿に、俺は確かに彼女の魂と、そして憐憫の情を(いだ)かずにはいられない。


振り返ったパッピルは、俺が近付いたと解ると口元で笑顔を作り、そのまま安心したかのように崩れ落ちる。


「おっと、大丈夫か?」


<エェ、またお会いデキテ、元気ガ出てきマシタ。>


支えられながら、よくそんな軽口が叩けるもんだ、と少し笑う。

それに釣られたのか、パッピルは更に穏やかな笑顔を浮かべる。


<ギギギ、非常事態デス……。

ツインテちゃん的には許されざる行為ですが、ここは慈悲の心で譲ってやるデス……。>


後ろでツインテちゃんが、何か血を吐くような勢いで悔しそうな声を上げているが、やはり動けない事が悔しいのだろうか?

この2体は記憶にある限り、何かにつけては競い合っている気もするし。

だが、今はそれどころではない。

シカルに意識を向けると、ヤツはまるで今にも泣き出しそうな表情で俺を睨んでいる。


「ククク、ほらね、壊れちゃっているだろう?

戻ってきてからはそればかりだ。

“助けに行かなければ”だの“安否が気になる”だのと、自身の損傷よりも貴様等を優先だ。

挙句の果てには絶望の匣(レーギャルン)は俺の求めるようなモノではないとか言い出しやがって!

そんな間違った思想を植え付けられたコイツを何度も修理し、遂には一度停止させても、まだそんな事を言いやがる!!

こんなに腹が立つ事は初めてだ!

パッピル、お前の主人は俺だ!

お前は、この俺に黙って従えば良いんだ!!」


先程までの余裕は消え、シカルは歯をむき出して怒り狂う。

そのシカルを、俺に支えられながらパッピルは冷静に見つめる。


<ゴ、御主人様、言葉ノ、通リデス。

絶望の匣(レーギャルン)ハ、貴方ガ、扱ってはいけナイ、ものデス。>


「五月蝿い!

俺に命令するな!

……もう良い、お前は修理不能だ。

来い、害なす魔の杖(レーヴァテイン)!」


シカルが右手を突き出しながらそう叫ぶと、パッピルの手から害なす魔の杖(レーヴァテイン)がシカルに向かって飛ぶ。


当然、その剣と接続されている配線を千切り取りながら。


<エネ、ルギー、低下……。

セー、ダイ、マスターヲ、救ッテ、クダサ……。>


パッピルが動きを止める。


「あぁ、解った。

とりあえずお前はここで休んでな。」


俺は静かにパッピルを横に寝かせると、その両手を胸前で組んでやる。


「クックック、やはり既にぶっ壊れていたようだな。

救う?この俺を?

何を馬鹿な。

今こそ俺は、全ての願いを叶えるのだ。

いい機会だ、見せてやろう。

神器を取り込み、神へと成る俺の姿を!

そして転生者の記録を読み取り、神々の住まう彼の地、“絵本の外(アウター・ワールド)”へと到らん!!」


害なす魔の杖(レーヴァテイン)絶望の匣(レーギャルン)、その2つを手に持ち高く掲げるシカル。

2つは眩い光の球体となり、ゆっくりとシカルの体内に入っていく。


「な、何かマズイぞセーダイ!」


ジャックが叫ぶが、俺達が何かをするよりも先に、シカルが光の球体を取り込む方が早いだろう。

恐ろしい攻撃に備え、俺は盾を構え、パーティメンバーは俺の後方に移動する。

移動しながら、カルーアちゃんが身体強化魔法をかけてくれ、今出来る最大の備えで立ち向かう。


そうして光がシカルに取り込まれきり、完全に見えなくなった時に静寂が訪れる。

俺達の誰かが、ゴクリと生唾を飲む音が聞こえる。




「あ、あれ?え?何にも起きない系?」


顔を防ぐように手を出していたミナンが、ややキョトンとしながら薄目を開ける。

シカルは天を仰ぐように顔を上に向けたまま、両手を広げて微動だにしない。


(……取り込んだ力が大きすぎて自滅、とかだったら、逆に面白いんだがなぁ。)


ボンヤリとそんな事を思うが、そうは上手く行かないだろう。

現にシカルの体は、その広げた両手も、僅かに振動している。


「フフフ……ククク……あぁっはっはっは!!

遂に!遂にこの力を手に入れた!!

俺は!遂に!神へと到ったのだ!!」


まるで少年のように喜ぶシカル。

いや、外見まで少年だからか、その声の低さを除けば、もはや年相応に見える。

だが、見た目とは裏腹に、何と言うか、“明らかに生物としての格の違い”を強烈に肌で感じる。

第六感など無くても、“コイツと戦うのはヤバい”と、本能が告げている。

さながら、象に立ち向かおうとする蟻の気持ちだ。




だが、パッピルに頼まれた以上、ここで引くわけには行かない。

俺は逃げ出したい気持ちを抑えつけ、盾を地面に打ち据える。


「大喜びしてるとこ悪いがね坊や、その力は俺にも必要なモノなんだ。

協力してくれるってんじゃなきゃ、そういう危ないオモチャは大人として取り上げさせてもらうぜ?」


俺の言葉に、まるで俺達がそこにいた事に初めて気付いたかのようにこちらを向くシカル。


「おや、お前等まだいたのか。」


その両眼は赤黒く変色しており、人間のそれとは到底言えない不吉なモノだった。


「お前等の相手をしている暇はない。

俺はこの力で次元を切り裂き、神の元へ向かわねばならん。

御座所の鍵(シンモラ)など、もはや不要。

今の俺には神の座標も理解出来るからな。

フハ、フハハハ!!」


デコピンをするように、左手の人差し指を溜めて放つシカル。


ただそれだけ。


ただのソレだけで、俺達は全員、床の石畳ごと吹き飛ばされていた。

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