496:王との再会
「どうした、セーダイ?
何を考え込んでいるのだ?」
ジャックが隣から俺の顔を覗き込む。
「……いや、シカルの事だ。
ここで管理されている分類上は死亡しているはずなのに、映像のシカルは元気そのものだ。
むしろ若返っている。
しかも使えなかったはずの害なす魔の杖をあそこまで使いこなしているのを見るに、どう考えてもマトモじゃ無い。
このまま無策に突っ込んでいっても、ただ被害を出すだけだ。
だから、どうやって攻め入ろうかと考えていてな。」
「攻め入るって、アイツはアタシ等を待ってるはずでしょ?
別に普通に行って、“戻ってきたよー”って言えば会ってくれるんじゃない?」
ミナンがあっけらかんと言い、ジャックもカルーアちゃんも同意する。
随分呑気なものだ、と、俺は3人をチラと見る。
いや、もしかしたらミナン辺りは何か含むものがあるのかも知れんが。
先程の映像、シカルは終始笑みを浮かべていた。
管理棟の魔導人形を斬り裂いている時もだ。
その目を、今まで渡ってきた世界でも何度か目にしたことはある。
あれは絶対的になった己の力や思想に飲まれ、狂気の向こうに行っちまったヤツが浮かべる笑みだ。
まぁ大体、狂気に飲まれでもしなければ、管理棟の魔導人形を破壊する方が後々を考えると面倒なことにしかならない筈だ。
損得勘定が出来るなら、別の方法で追い返すだろう。
俺達が来るまでの30年間で、何かがあったのだと思う。
それが何かは解らないが、アイツの人格が壊れるに足る何か、だったのだろう。
あの映像も、まるで何かを主張しているようだ。
……主張。
「もしかしたらヤツは確かに、俺達を待っているのかも知れんな。」
ポツリと呟くと、ジャック達は“そうだろうそうだろう”と言いながら向かう準備を始める。
装備の点検、少なくなった非常食の補充をツインテちゃんに言って手配させている。
この辺は、流石に冒険者という所だろうか。
或いはこれまでの旅がそうさせているのか、どこかへ向かう時は全員いつもの癖で臨戦態勢だ。
だが、その姿を見ながら俺は別のことを考えていた。
確かにシカルは待っているだろう。
でもそれは友人としての俺達ではなく、“自分に必要な情報を握っている獲物”としてだろう。
やれやれ、俺自身にはどうやってニノマエのいる空間に行けばいいか解らないが、俺の経験の中にそれが眠っているとは。
自分の事は自分が1番解っているつもりだったが、逆を返せば“自分の事は自分が1番良く解っていない”のかも知れない。
<セーダイ達が“城”に向かうのであれば、ツインテちゃん達魔導人形ズも共に向かいマス。
シカルの体は次の人類を産み出すうえで、有用性があるかも知れまセン。>
そんな事を考えていると、ツインテちゃんが仲間のメイド型魔導人形を複数体連れて俺の所にやってくる。
言っている事は何とも言えないが、それでもこの世界のほぼ最強戦力が同行してくれるのはありがたい。
申し出を承諾すると、準備を急ぐのだった。
「……相変わらずの、真っ白い壁だなぁ。」
道中は平穏すぎるほど進み、半日程度でシカルがいる“城”にたどり着く。
“城”の城壁は以前見た時のまま、汚れ1つ無い真っ白な壁が存在しており、まるで今塗装したばかりのような純白さだ。
「どうするの?
また“俺だ!入れろ!”みたいな感じで怒鳴るの?」
ミナンがいつでも耳を押さえる準備をしながら俺に問いかけてくる。
まぁ、それでもいいかなぁと思い、息を吸い込んだ所で城壁の一部が音もなく開く。
「……なんだよ、簡単に開けてくれたな。」
ちょっとガッカリしながらも、俺達は城門をくぐり抜ける。
これが罠なら、それも良い。
踏み砕いて進むだけだ。
<防衛モード、展開しマス。>
想像通り、城壁や周囲に建つ家屋の屋根から光る剣を携えたシカル側の魔導人形が数体降ってくる。
ツインテちゃんはそれらに見向きもせずに手を一振りすると、指先から放たれた光の糸が宙にいる魔導人形をバラバラにする。
「シカル側の魔導人形……えぇい、まだるっこしいな。
“シカル兵”よ!聞け!
我はジャック!お前等の主人の友人であるぞ!
何故攻撃するのか!?
我等はただ、お前等の主人に会いに来ただけだぞ!!」
<主人ヨリ、侵入者、特ニ皆様方ハ“皆殺セ”ト申シ使ッテオリマスレバ。
オ命、頂戴致シマス。>
聞き取りにくい旧式らしい魔導人形がジャックに答える。
ジャックが大声を張り上げるが、シカル兵は動ずること無く武器を構えながら続々と現れる。
「むぅ、セーダイの言う通りであったか。
しかし何故?」
「討論の暇はねぇぜ。
まずはヤツと会ったあの部屋に向かおうや。」
俺達は頷くと、“城”に向かって駆け出す。
当然シカル兵も襲ってくるが、それらはツインテちゃん達が苦も無くバラバラにしていく。
「ハハッ!走っているだけでいいならこりゃ楽だな!
ヨシ、一気に突き抜けるぞ!」
軽口と共に、城下町を抜けて“城”へと急ぐ。
門番として大型の騎士鎧の形をした魔導人形もいたが、それもツインテちゃん達が簡単にバラバラにしていく。
何もさせてもらえず一瞬で全身が分断されていくその姿は、もはや哀れと言っても良いだろう。
敵対しなくて良かったと、心から思う。
<セーダイ、この先の大広間に、正体不明の生体反応がありマス。>
いたな。
俺達はアイコンタクトと共に頷くと、俺を先頭にした陣形に代わる。
「強化魔法かけます!」
カルーアちゃんの声の後に体に力がみなぎる。
俺は背中の大盾を正面に構えると、入口の大きな扉をぶち破るようにして突入する。
「……!?」
何かの攻撃が来ると考えていたが、予想に反して静寂が流れる。
「やぁ、いらっしゃい。
扉をぶち破るなんて、それが異世界の常識なのかい?
まぁそんな事はいいから、この城は冷えるだろう?
これはコ・ターツと言って、先祖が考えた暖房器具なんだ。
君達も足を入れて暖まって行くと良い。」
まるで会った時と同じ様に、穏やかな笑顔でコタツに座りながら背を丸めているシカル。
見た目は少年のように若いのに、その雰囲気はかなり歳をとった老人のそれだ。




