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異世界殺し  作者: Tetsuさん
記録の彼方の光
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493:別の方法

「……なぁ、お前等の中でさ、“兎の巣穴”っていう、場所だが迷宮(ダンジョン)だか、店名だか、とにかくそんな名前でピンと来るもん無いか?」


夜の食事の際、仲間に思いついていた事を相談してみる。


あの時身を潜めた小部屋、あそこで読んでいた本の中に出てきたヒント。


多分あの兎人族にもう一度出会えれば、恐らく向こうの世界への転移ができる場所を指し示す筈だ。


その兎人族に会うためには、恐らくヒントにあった“兎の巣穴”という場所が関係しているはずだ。


“兎の巣穴”に行き、兎人族と会って転移する。

そうすれば、間違いなくパッピルの後が追えるだろう。


そういった事を説明し終えた後、皆の顔を見渡せばジャックとカルーアが少し困ったような顔で互いの顔を見合わせている。

ミナンと俺は、そんな二人を見てポカンとしているだけだ。


「ど、どうしましょうジャックさん。私から伝えたほうが……。」


「そ、そうだな。

俺では、余計な言葉まで言ってしまいそうだ。」


2人がヒソヒソと声を抑えてやり取りしているが、残念ながら周りが静かすぎて普通に聞こえてしまう。

“何だ?そんな言いよどむことなのか?”と聞いた俺に対して、カルーアちゃんがため息交じりに口を開く。


「良いですか、セーダイさん。

“兎の巣穴”という名は、セーダイさんが“初級迷宮(ダンジョン)”と呼んでいるあの場所の事を言うのです。

これは冒険者学校の座学で最初に出てくることですし、何なら2年生に昇格するための条件として依頼を受ける時に、割と大きな文字で“初級迷宮(ダンジョン)、兎の巣穴”と書いてあるのです……。」


申し訳無さそうな顔をしながら、カルーアちゃんが教えてくれる。

ジャックは“お前らが普段どれだけ真面目に座学を受けていたかが、実によく解るな”と皮肉たっぷりに笑う。


苦笑いをする俺と、図星を突かれたからか、少し悔しそうなミナン。


「ちぇっ!この国の言葉は難しすぎるんだよ!」


ミナンが口を尖らせながら文句を言う姿に、俺達は笑う。

何だか普通の冒険の夜という気持ちになり、随分と懐かしい空気すら感じる。


これからの行動を話し合い、たまに馬鹿な話題が飛び交う、いつもの冒険の夜だった。




「さて、随分と懐かしくすら感じる初級迷宮(ダンジョン)に戻ってきたが、従者はここから考えがあるんだろうな?」


皆が俺を見る。

初級迷宮(ダンジョン)、“兎の巣穴”は、元の閑散とした空気が漂っていた。

一時期は俺達が未踏破区域を発見したことで色々な冒険者達や迷宮(ダンジョン)研究家等が詰めかけていたらしいが、結局の所未踏破区域は本当に少しだけのようだったようで、見るべきものはないという話が広まった結果、学生達の試験シーズン以外はあまり人が立ち寄らない、元の人気のない迷宮(ダンジョン)の姿を取り戻したらしい。


だが、国から追われる身となった今は、その方が好都合だ。


仲間が見ている中、俺は息を大きく吸い込むと大声を出す。


「オラ兎野郎!とっとと姿を見せろ!

さもなきゃこの森焼き払うぞ!!」


「チョイチョイチョイ!!

旦那、そりゃ殺生な、でヤンスでゲスよ!!」


燕尾服を着た兎人族の男、アードベグが慌てたように茂みから飛び出してくる。


「……嘘、ホントに出てきた。

やっぱりアタシの気配探知には、何も引っかからなかったのに……。」


「全く、勢大さんはウサギ使いの荒いお人ですピョン。

この森焼き払ったら、困るのはこの世界の人間族も同じですウサよ。」


ミナンが驚いて目を見開いている。

こうなるだろうと俺は予め話していたが、本当に来るとは思っていなかったようだ。

気配を感じさせずいきなり現れたアードベグを、興味津々で見ている。


ってか、どうでもいいが、コイツ語尾が安定しねぇな。


「スマンスマン、まぁそう言えばお前が来ると思っていてな。

まぁ、予想通りこうして現れたし、それに俺の頼み事にも察しはついてるんだろ?」


「それはそうなんスけど……。

あの、まぁ、……いや、何でもないッス!

サーセンッス!!」


何かを言いよどんでいたが、睨みつけると途端に背筋を伸ばして三下言葉に戻る。

どうやら余裕がなくなるとこうなるらしい。


「解ってくれて嬉しいよ。

じゃあ、またあの場所にアードベグ君と一緒に向かえば良いのかな?」


「〜〜〜ッス!!そうッス!!」


緊張するアードベグに肩組みしつつ、俺達は初級迷宮(ダンジョン)に足を踏み入れる。


すぐにあの時転送する事になった未踏破区域のあの部屋にたどり着く。

そこはあちこちと削られ、何かを取り付けていたのか梁の様なモノが残る、あの時に見た風景からはかなり一変していた。


「……何か、随分と調査したんですね。」


「まぁ、伝説に残る(リュミエール)の国への扉と目されていたからな。

それは皆躍起になって調べたそうだ。

結局大した成果は上がらなかったと聞くがな。」


感慨深げに辺りを見回すカルーアちゃんとジャック。

それを見て、調子を取り戻したのかアードベグがピョコンと跳ねておどけたポーズをとる。


「そりゃあそうでしょう。

よその世界に行くにはこの場所と転生者が持つ異世界の座標と、そして何よりワタクシめがおりませんとな!」


「ほぅ?

ではお前がいれば、この扉は開くわけか?」


ジャックが冷たい目でアードベグを見るが、アードベグは“どうですかねぇ?あ、ピョン。”と、余裕の態度を崩さない。

多分ジャックがこの場でアードベグを捕まえたとしても、どうにか出来る自信がある、ということだろうか。


「そんな事はどうでもいい。

パッピルのヤツに借りを返すと言ったからな。

とりあえず俺達を飛ばしてもらおうか。」


俺の言葉に、ビクリと体を震わせるアードベグ。

俺の言葉には抵抗も言い訳もしてこない。

これももしかしたら、この世界に抗っているマキーナが埋め込んだ意志、なのかも知れない。


「ももも、モチロンですよピョン。

勢大さんには逆らえないッスから。

……あ、ウサ。」


若干腹立つ語尾だが、まぁ大目に見てやろう。

アードベグを促すと、以前に見たことのある空間の穴を発生させる。


「……一応言っておくッスけど、ワタシの創造主の言葉を理解したうえで、皆さんでこの穴に入られる訳ですよね?

マジで僕のせいじゃないッスからね?

そこんとこ、何かあったら勢大さんからもヨロシクお願いしますよ?マジで。

……あ、ピョン。」


アードベグの言葉はいまいち理解が出来なかったが、とりあえず適当に頷き、俺達は眼の前に現れた穴に飛び込む。

さて、持ち逃げした借りを返してもらおうか、シカル。

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